現場直行直帰は労働時間か? 通勤時間なのか?

2023年6月9日

現場直行直帰は労働時間か? 通勤時間なのか?

現場直行・直帰の時間についての問い合わせが多い

 現場への直行直帰などの移動時間が、賃金の発生する労働時間に含まれるのかという問い合わせに数多く接し、しっかりと調べてみました。きっと気になる方も多いのでないかとお察しします。

 移動時間が労働時間に含まれるとすると、時間外労働手当(残業代)の金額に大きく影響します。もし、移動時間が労働時間として正しくカウントされていない場合は、違法な賃金未払いが発生している可能性を残します。

移動時間が労働時間に含まれるかはケースバイケースの判断

 実際に移動時間が労働時間に含まれるかどうかは、ケースバイケースの判断になるようです。具体的には判例の基準に従い、労働者が使用者の指揮命令下にあるかどうかの観点から、移動の実態を検討してみる必要があります。

 移動時間が労働時間に含まれるための要件や具体的な事例などについて、法的な観点から調査しました。
 労働基準法上、使用者の労働者に対する賃金の支払い義務が発生するのは、「労働時間」に限られます。労働時間については、労働基準法上明確な定義はなされていません。しかし、最高裁の判例により、以下のように定義されています。

引用元:最判平成12年3月9日、三菱重工業長崎造船所事件
https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/844/018844_hanrei.pdf

 「労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいい、右の労働時間に該当するか否かは、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かにより客観的に定まる」

 上の定義からすると、移動時間が労働時間に含まれるかどうかという観点では、「労働者が使用者の指揮命令下に置かれているといえるかどうか」がポイントになります。つまり、移動時間も使用者の指揮命令下に置かれていると評価できるような事情があれば、「移動時間=労働時間」となり、使用者の賃金支払い義務が発生するということです。

労働時間にしないために

 労働時間に該当させないためには、所定労働時間外であって、移動時間中に、労働者が使用者の指揮命令下に置かれているとは評価できない場合です。どのような場合に移動時間が労働時間に含まれないのでしょうか。

 当事務所で考えたのは以下の通りです。

  1. 原則会社に出社させる
  2. 現場直行直帰もありだが、それは労働者から申請させる
  3. 仕事を開始した、終了した報告をスマホ等を活用してさせる、すなわち指揮命令下に入ったケジメをつけさせる

 このあたりを原則ルールとして徹底したいものです。就業規則も記述を検討する必要がありますね。

移動時間を労働者の自由に使える場合

 移動時間を労働者の自由に使える場合は、使用者の指揮命令下にあるとは評価できないので、移動時間は労働時間に含まれません。たとえば移動中に、

  • 読書
  • ゲーム
  • 新聞を読む
  • 睡眠を取る

 などの行為が自由に認められている場合、移動時間が労働時間と認められない可能性が高いでしょう。

移動時間中に業務の指示に従う必要がない場合

 会社からの指示が移動中に飛んできても、すぐにはその指示に対応する必要がないという場合には、労働者が使用者の指揮命令下に置かれているとは評価できません。このような移動時間は、労働者の「手待ち時間」にも該当せず、労働者が自由に行動できる時間であると評価されるためです。
 たとえば、移動時間中に会社から指示を受けた場合でも、実際に作業をするのは翌日オフィスに出勤した時で良いならば、移動時間が労働時間であると認められない可能性が高いでしょう。

一般的には直行直帰の時間は通勤時間と同じ

 移動時間については、通勤時間と同じ性質のものであり労働時間ではないという考え方と、移動中も事業主の支配管理下にある拘束時間であり、労働時間であるという考え方に大別されます。

 いわゆる、現場への直行直帰などは、通勤時間とすることが一般的です。ただ、直行の場所が、社会通念上著しく遠いような場合には、労働者が通常よりも自由時間を犠牲にすることになるため、距離や所要時間などに応じて、手当て等で対応をとることもあります。この場合には、あらかじめ就業規則などに支給基準を明示しておかれることを、おすすめします。

 また、直行ではなく、一度会社に出勤してから出張したり、出張先から会社に立ち寄ることを指示されている場合は、会社と出張先の間の移動時間は労働時間として扱われます。

業務上必要な移動時間が発生するケースとは?

 ところで会社の業務上、移動が必要となり、指揮命令下にはるというケースも検討しておくあります。どのようなケースがあるのか、「労働時間」に含まれるか否かはさておき、以下では、業務上必要な移動時間が発生するケースについて具体例を考えてみましょう。

通勤時間で会社指示に随時対応が必要な場合

 会社のオフィスと自宅を往復する場合の通勤時間についても、広い意味では業務に必要な移動時間と考えられます。
 通勤時間は所定労働時間外の移動となりますが、その間にも会社からの指示に随時対応しなければならない場合などには、通勤時間が労働時間に含まれるかどうかが問題となる可能性があります。

業務の目的地に直行・家に直帰する場合の移動時間

 工事現場などでの仕事の場合や、普段のオフィスとは違う場所での勤務の場合には、業務の目的地へ直行することを命じられるケースもあります。またそれと同様に、仕事場から家へ直帰することになるケースもあるでしょう。これらの場合の移動時間は、通勤時間とは一応区別して考えられます。

 しかし、勤務地への移動をするための時間という意味では、通勤時間と同じような性質を有しています。したがって、移動時間が労働時間に含まれるかどうかという観点では、通勤時間と同様の観点からの検討が必要となるでしょう。

上司からの命令で直行直帰した場合

 以下のような場合は労働認定されるケースもありますので注意が必要です。なんか納得がいきませんが。

  • 終業時間前までに現場へ到着することが暗黙の了解である
  • 待ち合わせ場所に集合することを指示された

所定労働時間中の近距離出張に伴う移動時間

 会社に出勤した後、会社の指示に従って近場の出張先に移動する場合などには、所定労働時間の範囲内で近距離の移動が発生します。
 特に都心のオフィス街で勤務しているような方は、取引先が近隣のビルなどに入居しているケースも多いため、このような近距離の移動が発生することが多いでしょう。

長距離出張に伴う移動時間

 会社から遠方での出張を命じられた場合、新幹線や航空機などを利用した長距離移動が必要になります。
 この場合、日帰り・宿泊を伴うケースの両方が考えられます。長距離出張は、特に営業系の職種や、海外での取引に携わる職種などで頻繁に発生しがちな傾向にあります。

移動時間が労働時間に含まれる場合

 業務上の移動時間が労働時間として賃金の支払い対象となるのは、「労働者が使用者の指揮命令下に置かれているといえるかどうか」が判断基準となります。移動時間中も労働者が使用者の指揮命令下に置かれていると評価できる場合には、移動時間が労働時間に含まれるということになります。

所定労働時間内に移動する場合

 所定労働時間は、本来労働者が労働をすべきとされている時間であって、原則として使用者の指揮命令下にあるものと解されています。実質的に見ても、たとえば所定労働時間内の移動時間中に会社から業務についての電話がかかってきた場合、基本的にはすぐに対応することが期待されているといえるでしょう。

 このような例からもわかるように、所定労働時間内の移動の場合には、移動時間中も労働者が使用者の指揮命令下にあると説明しやすい面があります。したがって、使用者からの業務上の命令によって所定労働時間内に移動する場合には、その移動時間は労働時間と認められる可能性が高いでしょう。

移動中に会社の業務を行う必要がある場合

 所定労働時間外であっても、会社の業務を移動中に行う必要がある場合には、移動時間が労働時間に含まれます。たとえば、

  • 移動中にパソコンで業務データを作成する場合
  • ほかの社員を乗せた車を運転する場合
  • 会社の要人の警備員として同行する場合

 などには、移動時間が労働時間に含まれると認められる可能性が高いでしょう。これらの場合には、仕事をする場所がオフィスであるのか移動中の車内(電車内)であるかが異なるだけで、どちらも仕事をしているという点では差がないといえます。

 なお所定労働時間外の移動時間が労働時間に含まれる場合、労働基準法の規定に従った時間外労働手当(残業代)を支払う必要があります。

移動中でも会社からの指示があれば従うことが要求されている場合

 移動中に会社からの指示が飛んできた場合、それに従わなければならないとすれば、移動時間が「手待ち時間」として労働時間にカウントされます。このような場合には、労働者が使用者の指揮命令下にあると評価されることになるでしょう。
 この場合も、移動が所定労働時間外であれば、時間外労働手当(残業代)の支払いが必要になります。

現場直行直帰は当たり前にしないで注意を

 このように移動時間についても様々な解釈があり、下手をすると通勤時間まで労働時間になってしまいますので注意が必要です。最後に繰り返しましょう。

労働時間に該当させないために

  1. 原則会社に出社させる
  2. 現場直行直帰もありだが、それは労働者から申請させる
  3. 仕事が開始した、終了した報告をスマホ等を活用してさせる

 このあたりを原則ルールとして徹底し、就業規則の記述もしたいところです。

参考リンク

労働時間の考え方:「研修・教育訓練」等の取扱い – 厚生労働省

ちょっと 待った! – 厚生労働省
https://jsite.mhlw.go.jp/nagano-roudoukyoku/content/contents/idoujikanminaishi_R302ueda.pdf

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