出来高払いの保障給(労基法27条)の解説

出来高払いの保障給(労基法27条)の解説

最近出来高払いの質問が多くなってきた

 労働基準法第27条は以下の通り定められています。

出来高払制その他の請負制で使用する労働者については、使用者は、労働時間に応じ一定額の賃金の保障をしなけれぽならない。

 この条は、出来高払制その他の請負制で使用される労働者の賃金について、労働者が労働した以上は、たとえその出来高が少ない場合でも、労働した時間に応じて一定額の保障を行うべきことを使用者に義務づけたものです。

 最近、質問も多いところから、ブログ記事で解説します。

ポイント1.出来高払制その他の請負制

 請負制とは、労働した結果または一定の出来高に対して賃金の率が決められるものです。法は、出来高払制を請負制の一種と位置づけています。

ポイント2.労働時間に応じ一定額の賃金の保障

(1)保障給を支払う場合

 労働者が労働しなかった場合、その責任が労働者側にあれば、使用者に賃金を支払う義務はありませんので、この条の保障給も支払う必要はありません(昭23・11・11基発1639)。
 また、使用者の責に帰すべき事由による休業の場合は、法26条(休業手当)の定めが適用されます。したがって、使用者が保障給を支払わなければならないのは、労働者が労働したにもかかわらず、材料不足のため多くの待ち時間を費したとか原料が粗悪であったため労働者の出来高が減少したように実収賃金が低下した場合です。

(2)保障給の定め方

 保障給は、労働時間に応じた一定額のものとする必要があります。したがって、1時間につきいくらという時間給が原則となります。労働者の労働した時間に関係なく、単に1か月について一定額を保障するというものは、この条でいう保障給ではありません。
 ただし、月、週などの一定の期間について保障給を定める場合であっても、保障給の基準となる労働時間数が設定されていて、労働者の労働した時間がその基準を上回ったときにその上回った時間数分だけ増額されるといったものは、この条でいう保障給に該当します。

(3)保障給の額

 保障給の額については、この条は定めていません。通達は、「常に通常の実収賃金を余りへだたらない程度の収入が保障されるように保障給の額を定める」べきであるとしています(昭22・9・13発基17、昭63・3・14基発150)。大体の目安としては、法26条(休業手当)が平均賃金の100分の60以上の手当の支払を定めていることから、少なくとも平均賃金の100分の60程度は保障します。

 例えば、ある労働者の平均賃金が15,000円とすると、15,000円×60%=9,000円となり、一日の所定労働時間が8時間であれば、1時間につき1,125円を保障給として設定することになります。
 次に、この労働者が、通常、月に100時間の労働で1,000個の製品を製造し、1個200円の賃金率で200,000円の収入があるとした場合、ある月に100時間労働したにもかかわらず出来高が500個に半減したとすると、この月の出来高払による賃金は、100,000円となりますが、1,125円x100(時間)=112,500円が保障されることになり、差額の12,500円が追加支給されるということになります。

 保障給は、最低賃金を上回っていることも当然必要です。

(4)固定給との併給

 月給などの固定給と出来高払による賃金が一緒に支給されている場合は、固定給の部分と保障給との合計額が通常の実収入とあまり変わらない程度になるよう保障給を定めておけばよく、この場合、保障給の部分が少額であってもさしつかえありません。むしろ、固定給の部分が賃金の総額の大半を占めているような場合は、この条でいう「請負制で使用する」場合にはあたらないといえます(昭22・9・13発基17、昭63・3・14基発150)。

(5)自動車運転者の場合

 自動車運転者の賃金形態については、交通事故の防止対策の一環として、交通事故につながりやすい賃金制度を改善する見地から、「歩合給制度が採用されている場合には、労働時間に応じ、固定的給与と併せて通常の賃金の6割以上の賃金が保障されるような保障給を定めるものとする。」との「改善基準」が示されています(昭54.12・27基発642)。

(6)労働者による保障給の違い

 同じ労働を行う労働者が多数いる場合に、それぞれの労働者の技量、経験、年齢などによって、保障給の額に差をもうけることはさしつかえありません。また、同じ労働者であっても、別の労働に従事すれば、保障給の額が異なることもあります。

(7)保障給の計算期間

 例えば、出来高払賃金の計算期間を月の前半と後半に分け、保障給の計算期間を1か月とした場合、月の前半の出来高が減少しても月の後半の出来高が多けれぽ、出来高払賃金の1か月間の合計額が保障給を上回る結果となって、保障給を定める意味がほとんどなくなります。したがって、保障給の計算期間は出来高払賃金の計算期間と一致している必要があり、出来高払賃金の計算期間より長く定めることはできません。

労働基準法27条の罰則

 使用者がこの条に違反し、「出来高払制その他の請負制で使用する労働者について」「労働時間に応じて一定額の賃金の保障」をしない場合には、30万円以下の罰金に処せられます(法120条1号)。保障給を支払わない場合だけでなく、保障給を定めないというだけでもこの条に違反することになります。

 なお、この条は、保障給の額について定めていないので、使用者が保障給の定めをしていないときは、罰則の対象となりますが、民事上労働者が保障給の支払を請求することはできないことになります。

参考通達

 保障給の趣旨として、本条は労働者の責に基かない事由によって、実収賃金が低下することを防ぐ趣旨であるから、労働者に対し、常に通常の実収賃金と余りへだたらない程度の収入が保障されるように保障給の額を定めるように指導すること。

 なお、本条の趣旨は全額請負給に対しての保障給のみならず一部請負給についても基本給を別として、その請負給について保障すべきものであるが、賃金構成からみて固定給の部分が賃金総額中の大半(概ね6割程度以上)を占めている場合には、本条にいわゆる「請負制で使用する」場合に該当しないと解される。(昭22・9・13発基17、昭63・3・14基発150)

参考判例

 労働基準法27条は使用者に対し出来高払制その他の請負制で使用する労働者について、労働時間に応じた一定額の賃金を保障することを命じ、もって労働者の生活の安定を図っており、もし労働契約において該法条に違反した場合は同法120条により使用者に刑事責任ある旨を定めているが、右27条は単に使用者に対し労働契約においていわゆる保障給を定めることの義務を負担せしめた規定にすぎずして労働契約において右保障給の定めがない場合においても労働者は使用者に対し保障給を請求し得ることを定めているものと解すべきでない。
(第三慈久:丸事件名古屋高判昭37・2・14高民15・1・65)

 保障給の請求は労働者からはできないということですね。分かったような、分からないような…

 また、法令を参照できるサイトも用意しておりますので、ご参考にどうぞ。

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