厚生労働省モデル就業規則活用の注意ポイント
モデル就業規則や就業規則ひな形使用の注意点
厚生労働省はじめ、ひな形の就業規則を単に加工して使用する場合、以下のようなリスクが考えられます。
- 企業固有の事情に合致しない
- ひな形は一般的な内容で作成されているため、特定の企業や業界の特性、社風、実際の業務内容や働き方に合致しない可能性が高いです。
- 過剰な決め事をする可能性
- 例えば年次有給休暇を別枠で有給の「療養休暇」付与など、法で要求されている以上の決め事をして過剰サービスになってしまい、経営者サイドの不満の原因となる恐れがあります。
- 不適切な条項の存在
- ひな形には不要な条項や、業務実態と合わない条項が含まれていることがあります。これにより、従業員とのトラブルや、実際の運用時の混乱を招く可能性があります。
- 欠落している重要な条項
- 企業の特性や業務内容に応じて必要な条項がひな形には含まれていない場合、その点での問題やトラブルが生じる際に、適切な対応が取れなくなる恐れがあります。
- 明文化されていない部分の発生
- ひな形の使用により、業務実態や企業文化に合わせて条項を変更・追加する際に、実態が十分反映された明文化がなされず、曖昧な部分が生じる可能性があります。
- 従業員の理解とのギャップ
- ひな形をそのまま利用することで、実際の業務や社風との乖離が生じ、従業員の理解や納得感が得られない場合があります。
- 更新・見直しの遅れ
- ひな形をそのまま使用した場合、定期的な見直しや更新の必要性を意識しにくくなる可能性があります。
ひな形は、あくまで参考の一つとして使用し、企業固有の状況や要件に合わせて十分な加工や調整を行うことが重要です。必要に応じて社会保険労務士や弁護士などの専門家の意見も取り入れることで、より適切な就業規則を作成することができると想定されます。
厚生労働省のモデル就業規則の重要・留意ポイント
厚生労働省のモデル就業規則を見ると、以下のような章立てになっていますが、ここで重要ポイントと、留意ポイントについて概要を見ておきましょう。
厚生労働省 モデル就業規則の章立
- 第1章 総則
- 第2章 採用、異動等
- 第3章 服務規律
- 第4章 労働時間、休憩及び休日
- 第5章 休暇等
- 第6章 賃金
- 第7章 定年、退職及び解雇
- 第8章 退職金
- 第9章 無期労働契約への転換
- 第10章 安全衛生及び災害補償
- 第11章 職業訓練
- 第12章 表彰及び制裁
- 第13章 公益通報者保護
- 第14章 副業・兼業
厚労省モデル就業規則の各章の重要ポイントと留意ポイント
厚生労働省のモデル就業規則に基づき、各章の重要ポイントおよび留意ポイントを整理してみます。
- 第1章 総則
- 重要ポイント:就業規則の目的や適用範囲を明確にする。
- 留意ポイント:すべての従業員が対象か、特定の従業員のみか明記する。
- 第2章 採用、異動等
- 重要ポイント:採用基準、試用期間、転勤の原則などを明確にする。
- 留意ポイント:採用時の書類提出や健康診断の必要性、転勤の条件や範囲について具体的に記載する。
- 第3章 服務規律
- 重要ポイント:社内の行動基準やマナー、禁止事項を列挙。
- 留意ポイント:望ましい勤務態度のエッセンス、禁止事項の具体例や、違反時の対応を具体的に記載する。
- 第4章 労働時間、休憩及び休日
- 重要ポイント:労働時間・休憩時間の取り決めや管理、休日の基準を設定。
- 留意ポイント:残業や休日出勤時の取り決め、時間外労働の上限や取り決めも明確に。
- 第5章 休暇等
- 重要ポイント:有給休暇、特別休暇、産休・育休などの取得条件や方法を規定。
- 留意ポイント:休暇の取得を奨励する制度や、未使用日の取扱いについても記載。
- 第6章 賃金
- 重要ポイント:賃金の計算方法、支払日、支払方法などを明記し、従業員目線でこういう金額がもらえるのかと将来までイメージできるようする。
- 留意ポイント:賞与や手当の基準、残業代の計算方法など具体的に記述したほうが惑わない。
- 第7章 定年、退職及び解雇
- 重要ポイント:定年の年齢や再雇用の条件、退職・解雇の手続きを規定。
- 留意ポイント:解雇の理由や手続きの明確化。再雇用時の条件や待遇についても。
- 第8章 退職金
- 重要ポイント:退職金の支給条件や計算方法を明記。
- 留意ポイント:異動や退職の際の退職金の取扱いを具体的に。
- 第9章 無期労働契約への転換
- 重要ポイント:有期契約から無期契約への転換条件を設定。
- 留意ポイント:転換時の待遇や、転換を拒否する場合の基準を明確に。
- 第10章 安全衛生及び災害補償
- 重要ポイント:安全衛生に関する取り決めや災害時の補償を規定。
- 留意ポイント:安全衛生のための教育や、健康診断の実施などの具体的な取り決めも。
- 第11章 職業訓練
- 重要ポイント:訓練の目的と内容の明確化にし、訓練の実施方法や期間、場所の定義する。訓練の完了後の評価基準や進路指導も。
- 留意ポイント:訓練中の報酬や待遇の取り決め、訓練費用の負担や返還義務の有無、訓練後の配置や昇進の取り決め。
- 第12章 表彰及び制裁
- 重要ポイント:何をもって優れた業績とし、どのような場合に制裁が行われるのかの基準を明確にする。
- 留意ポイント:表彰の内容や制裁の程度(警告、減給、停職など)は具体的に明記。制裁の際の手続きや従業員の意見の取り入れ方も確定しておく。
- 第13章 公益通報者保護
- 重要ポイント:不正行為や違法行為を内部告発する従業員(ホイッスルブロワー)の権利と保護を確立。
- 留意ポイント:内部告発の手続きや、報復措置の禁止などを明確に記載。また、告発内容の取り扱いや秘密保持も重視。
- 第14章 副業・兼業
- 重要ポイント:従業員が他の業務を持つことに関する方針や手続きを設定。
- 留意ポイント:副業・兼業の許可要否、届出要件や、その基準、主業務への影響などの評価基準を明確にする。
厚生労働省モデル就業規則やひな形を活用する留意点
就業規則をより有効に活用するためには、以下の点に留意することが重要です。
- 明確性:
- 規則の内容は具体的かつ明確に記載することで、曖昧さをなくし、従業員や管理職が正確に理解しやすくなります。
- 適切な範囲:
- 就業規則はあまり細かすぎると実際の運用が困難になるので、必要かつ適切な範囲でのルール設定が求められます。
- 従業員の参加と共有:
- 就業規則の策定や改定時に、従業員の意見やフィードバックを取り入れることで、受け入れやすく、実際の業務に即した内容にすることができます。また、就業規則を従業員全員と共有し、理解を深める取り組みが必要です。
- 定期的な見直し:
- 法律や社内の状況、業務内容が変わることを考慮し、就業規則も定期的に見直すことが重要です。
- 適切な教育と研修:
- 新たに就業規則を策定したり、改定した際には、その内容を従業員に伝え、理解を深めるための教育や研修が必要です。
- 実際の運用との整合性:
- 記載内容と実際の運用が乖離していると、従業員の混乱や不信感を生む原因となります。実際の業務に合わせて運用することが重要です。
- 法的な適合性の確認:
- 就業規則が法令や判例と整合的であることを確認することで、法的トラブルを防ぐことができます。
- 問題発生時の対応:
- 万が一、就業規則に基づくトラブルや問題が発生した際の対応手順や窓口を明確にしておくことが必要です。
- 柔軟性:
- 組織や環境の変化に対応できるように、規則に一定の柔軟性を持たせることも大切です。
- 従業員の権利と義務のバランス:
- 従業員の義務だけでなく、権利も明確に記載することで、公平で公正なルールとしての信頼性を高めることができます。
以上のように、就業規則を有効に活用するためには、明確かつ適切な内容の策定はもちろんのこと、従業員とのコミュニケーションや教育、そして定期的な見直しが不可欠です。
より良い自社に合った就業規則が仕上がることを祈っております。
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