社会保険2024年10月以降の適用拡大ポイント

2023年8月17日

社会保険の2024年10月以降の適用拡大留意ポイント

社会保険2024年10月以降の適用拡大スケジュール

 2016年10月から、企業規模で被保険者の総数が501人以上となる企業に対して社会保険の適用拡大が始まり、2023年現在では被保険者数101人以上にまで拡大されています。厚生年金保険の被保険者数が常時101人以上となる企業は特定適用事業所と呼ばれます。
 適用拡大の要件に該当する短時間労働者がいる場合、企業は社会保険の被保険者となる手続きをしなければなりません。なお、被保険者数が条件に満たない場合であっても、労使の合意により申出をすることで、特定適用事業所となることができます(任意特定適用事業所)。

 さらに2024年10月からは「被保険者総数が常時51人以上」に変更されるため、2024年10月から対象となる企業も多いでしょう。

【被用者保険の適用拡大のスケジュール】

 まず社会保険の2024年10月以降の適用拡大スケジュールについておさらいしておきましょう。

対象/要件 2022年9月まで 2022年10月以降 2024年10月以降
事業所規模 被保険者総数が
常時501人以上※
被保険者総数が
常時101人以上※
被保険者総数が
常時51人以上※
短時間労働者の労働時間 1週間の所定労働時間数が20時間以上
短時間労働者の賃金 賃金の月額が8.8万円以上
短時間労働者の勤務期間 継続して1年以上使用される見込みがある 2ヵ月を超えて継続して雇用される見込みがある(通常の労働者と同じ)
短時間労働者の条件 学生ではない(夜間の学生などは対象)

※被保険者総数は厚生年金保険の被保険者数でカウントします。

参考:令和4年10月からの短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の適用の拡大|日本年金機構

 中小企業で働く労働時間の短いパートやアルバイトでも、労働時間や給与の金額によっては健康保険と厚生年金保険に加入手続きが必要となるため、企業へ与える影響は大きなものとなります。適用拡大の今後のスケジュールは理解し、漏らさずに準備しておきたいところです。

社会保険における106万円の壁とは?

 従来から、パート従業員の間で配偶者の扶養の範囲で働くために所得税が非課税となる「103万円の壁」という言葉がよく使われてきましたが、最近は新たな金額として「106万の壁」という言葉もよく耳にします。
 社会保険の106万円の壁とはいったいどのようなものなのでしょうか。社会保険の扶養から外れる130万円の壁との違いを確認いたします。

社会保険130万円の壁との違い

 社会保険の130万円の壁は、「社会保険の被扶養者となる要件」が判断基準のポイントです。このほかにも社会保険に関するものとして、パート先が社会保険の適用拡大の対象になるかどうかで、あらたに社会保険の106万円の壁が加わりました。

 社会保険の106万円の壁は、「社会保険の適用拡大により被保険者となる要件」が判断基準のポイントです。この2つの違いについて詳しく見ていきましょう。

106万円の壁・130万円の壁への影響

 2022年10月からは対象企業の範囲が「被保険者の総数常時101人以上」へと広がっており、中小企業であっても社会保険適用対象となるケースが増えています。さらに2024年10月からは、「被保険者の総数常時51人以上」に変更される予定です。そのため、106万円の壁を意識して働くパート従業員は、今後益々増えていくでしょう。

 これまで130万円の壁を意識して働くパート従業員が多い状況でしたが、今後は106万円の収入要件に該当すると社会保険の加入義務が発生します。したがって、特定適用事業所に該当する企業の場合には、130万円の壁への対応は少なくなり、106万円の壁への対応がメインになります。

 「賃金の月額が8.8万円以上」とは、週給・日給・時間給を月額に換算した賃金で計算しますが、臨時の賃金や残業代など一定の手当を除き、各種諸手当も含めてカウントしなければなりません。
 社会保険の加入を希望しないパート従業員に対しては、労働条件の変更を必要とすることもあるでしょう。

 細かな労務管理の必要性から人事労務担当者の業務負担の増加などが予想されます。社会保険への加入を希望しない従業員がいれば、労働時間や月額給与の管理などをしっかりと行わなければなりません。また、これまで社会保険に加入していなかったパート従業員が新たに社会保険に加入することで、企業が負担する社会保険料の増加による企業収益への影響も懸念されます。企業としては人件費の管理や業務効率化も重要となりますので、社会保険の適用拡大に対応した「給与計算ソフト」や「労務管理ソフト」の導入も検討する必要があるかも知れません。

社会保険の2024年10月以降の適用拡大留意ポイント

106万円の壁・130万円の壁を超えた時のコスト負担

 社会保険の106万円の壁や130万円を超えてしまった場合には、社会保険料をいくら払うことになるでしょうか。パート従業員のそれぞれの金額について見ていきましょう。

【106万円の壁を超えた場合】

 パート従業員の年齢45歳(介護保険あり)賞与なし
 ※2022年度の東京都の協会けんぽの標準報酬月額から計算

  • 給与月額:88,000円
  • 標準報酬月額:88,000円(83,000円~93,000円)
  • 健康保険料:10,076円(折半額5,038円)
  • 厚生年金保険料:16,104円(折半額8,052円)
  • 社会保険料合計:26,180円(折半額13,090円)

【130万円の壁を超えた場合】

 パート従業員の年齢45歳(介護保険あり)
 ※2022年度の東京都の協会けんぽの標準報酬月額から計算

  • 給与月額:109,000円
  • 標準報酬月額:110,000円(107,000円~114,000円)
  • 健康保険料:12,595円(折半額6,297.5円)
  • 厚生年金保険料:20,130円(折半額10,065円)
  • 社会保険料合計:32,725円(折半額16,362.5円)

※特定適用事業所に該当せず、社会保険に加入しない場合には、企業の社会保険料負担はなく、従業員自身が国民健康保険及び国民年金などに加入することになります。

 106万円の壁を超えることによってパート従業員が社会保険に加入すると、月額約1.3万円、年間約15.7万円の企業の社会保険料の負担が増えることになります。
 130万円の壁を超えた場合の企業の社会保険料負担額は、月額約1.6万円、年間約19.6万円です。パート従業員が多い企業の場合には、企業が負担する社会保険料の金額が大きくなるため、人件費の増加による企業収益への影響にも留意しなければなりません。

社会保険の2024年10月以降の適用拡大留意ポイント

社会保険適用拡大による106万円の壁対応には労務管理と職場環境整備が大切

 これまで中小企業では、社会保険の適用拡大の対象となる企業は少なく、大きな影響を受けることはありませんでした。しかし、2024年10月以降は対象企業の範囲が51名以上の被保険者に広がり、中小企業であっても対象となるケースが増えることが予想されます。

 パート従業員が106万円の壁を超えると、1人当たり年間約15.7万円。パート従業員が20人いれば、年間約314万円もの企業の社会保険料の負担が増加します。また、パート従業員が106万円の壁を気にして週20時間未満でしか働けなくなれば、企業は不足する人員の確保が必要となります。企業としては、パート従業員の時間管理や適用拡大の条件に合わせた月額給与の計算など、より細やかな労務管理が求められることになるでしょう。

 企業が社会保険の適用拡大の対象となれば、条件に該当する従業員の社会保険加入によって、人件費が増加します。社会保険料の負担や人員確保に伴う人件費増加による費用準備も抜かりなくしたいものです。

 パート従業員は企業にとって今や貴重な戦力です。106万円の壁が企業に与える影響は大きなものとなります。業務の効率化を図るとともに、パート従業員にとって多様な働き方ができる労務管理と柔軟な職場環境の整備に取り組むことも検討材料です。

社会保険の2024年10月以降の適用拡大留意ポイント

社会保険適用拡大におけるよくある質問

被保険者数とは具体的にどんな数を指しますか?

(回答)
 ズバリ社会保険に加入している人数です。被扶養者は除きます。社会保険に加入している従業員の人数が101人とか、51人のことを指します。社会保険加入従業員30名、パート従業員40名のケースでは、特定適用事業所すなわち社会保険適用になる事業所にはなりません。

社会保険加入の3/4要件の具体的な中身を教えてください?

(回答)
 以下の「短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の更なる適用拡大に係る事務の取扱いについて」の一部改正について〔健康保険法〕(令和4年9月28日)(保保発0928第6号)(全国健康保険協会理事長あて厚生労働省保険局保険課長通知)を参照ください。原文通り記載します。

(1)1週間の所定労働時間及び1月間の所定労働日数の取扱い

 1週間の所定労働時間及び1月間の所定労働日数とは、就業規則、雇用契約書等により、その者が通常の週及び月に勤務すべきこととされている時間及び日数をいう。

(2)所定労働時間又は所定労働日数と実際の労働時間又は労働日数が乖離していることが常態化している場合の取扱い

 所定労働時間又は所定労働日数は4分の3基準を満たさないものの、事業主等に対する事情の聴取やタイムカード等の書類の確認を行った結果、実際の労働時間又は労働日数が直近2月において4分の3基準を満たしている場合で、今後も同様の状態が続くことが見込まれるときは、当該所定労働時間又は当該所定労働日数は4分の3基準を満たしているものとして取り扱うこととする。

(3)所定労働時間又は所定労働日数を明示的に確認できない場合の取扱い

 所定労働時間又は所定労働日数が、就業規則、雇用契約書等から明示的に確認できない場合は、実際の労働時間又は労働日数を事業主等から事情を聴取した上で、個別に判断することとする。

(4) 1週間の所定労働時間が20時間以上であること

  • ア 1週間の所定労働時間とは、就業規則、雇用契約書等により、その者が通常の週に勤務すべきこととされている時間をいう。この場合の「通常の週」とは、祝祭日及びその振替休日、年末年始の休日、夏季休暇等の特別休日(週休日その他概ね1か月以内の期間を周期として規則的に与えられる休日以外の休日)を含まない週をいう。
  • イ 1週間の所定労働時間が短期的かつ周期的に変動し、通常の週の所定労働時間が一通りでない場合は、当該周期における1週間の所定労働時間の平均により算定された時間を1週間の所定労働時間とする。
  • ウ 所定労働時間が1か月の単位で定められている場合は、当該所定労働時間を12分の52で除して得た時間を1週間の所定労働時間とする。
  • エ 所定労働時間が1か月の単位で定められている場合で、特定の月の所定労働時間が例外的に長く又は短く定められているときは、当該特定の月以外の通常の月の所定労働時間を12分の52で除して得た時間を1週間の所定労働時間とする。
  • オ 所定労働時間が1年の単位で定められている場合は、当該所定労働時間を52で除して得た時間を1週間の所定労働時間とする。
  • カ 所定労働時間は週20時間未満であるものの、事業主等に対する事情の聴取やタイムカード等の書類の確認を行った結果、実際の労働時間が直近2月において週20時間以上である場合で、今後も同様の状態が続くことが見込まれるときは、当該所定労働時間は週20時間以上であることとして取り扱うこととする。
  • キ 所定労働時間が、就業規則、雇用契約書等から明示的に確認できない場合は、実際の労働時間を事業主等から事情を聴取した上で、個別に判断することとする。

参考リンク

「短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の更なる適用拡大に係る事務の取扱いについて」の一部改正について〔健康保険法〕(令和4年9月28日)(保保発0928第6号)

短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の更なる適用拡大に係る事務の取扱いに関するQ&A集の送付について(その2)〔健康保険法〕(令和4年9月28日)

※文書作成日時点での法令に基づく内容となっております。

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