育児介護休業規程は法令に準拠でいいのではないか

2022年9月1日

育児介護休業規程は法令に準拠でいいのではないか

あまりにも難解になりすぎた「育児介護休業法」

 今年2022年10月に育児介護休業法の改正が予定されており、新たに盛り込まれる出生時育児休業(産後パパ育休)をはじめ、育児休業の制度が大きく変わります。
 当事務所もお客様の規程変更をお手伝いしたりしているところですが、最近この業務に直面するたびに常々考えることがあります。

 「育児介護休業規程は法令に準拠でいいのではないか?」ということです。
 例えば規程に、「育児休業については、育児介護休業法による。」とすれば十分なのではないかということなんです。

1.法律通りの規程作成がメイン

 中には、法を上回る制度を持っている会社さんもありますが、自分の感覚では、とりあえずは法令通りの制度構築と運用を基本方針としている会社さんが圧倒的に多いと感じています。
 要は、法令を順守すれば事足りるので、保冷に順ずると明記すればそれでいいような気もします。法を下回った時には法に戻されるだけです。法令は最低基準ななので、介護休業だろうと、「法令に準じる。」という記載で十分な気がします。

 もし法令を上回る決め事がしたかったり、法令に定めの無い事項を決めたい時は、それをしっかり記述すればいいんです。

 育児介護休業法の改正のたびに、法改正に追随する形で自社の育児介護休業規程を変更する必要があるわけですが、近年では、法律の規定自体があまりにも複雑になり過ぎた結果、会社さんとしては単に自社の規程を法律に合わせたいだけなのに、たったそれだけのことが非常に難度の高い作業と化してしまっているのが実状です。
 こんなこと、こんな時間に意味があるのでしょうか?

2.法改正によってさらに複雑・難解に

 厚生労働省のモデル規程や社労士事務所等が公表している規程サンプルなどを参考にしながら自社の規程に改訂作業をするわけですが、モデル規程をそのまま丸写しというわけにもいかず、そこが苦痛の時間だったりします。
 結果的に規程内のあちこちに誤りや不整合が生じてしまうといった始末であり、中には、一旦は会社さんの方で法改正対応を試みたものの、途中で収拾がつかなくなってしまって当事務所へご依頼頂くといったケースもあります。

 今年2022年10月の育児介護休業規程の法改正対応は、過去の法改正時と比較しても、かなり大掛かりな改修が必要になります。しかも、法改正は今回が最後ということはないでしょうから、今後も法改正が行われるたびに、対応をし続けていかなければなりません。

 この育児介護休業規程改定という作業について、あまりにも非生産的な業務に貴重な時間を浪費させている現状に大きな疑念を抱かざるを得ません。

3.育児介護休業規程は制定しなければならないのか?

 それでは、そもそもの話として、このような複雑極まりない規程をわざわざ自社規程として制定しなければならない根拠はどこにあるのでしょうか?

 直接の根拠は、労働基準法第89条の規定(就業規則の作成及び届出の義務)です。
 育児、介護関連の諸制度は、同条第1号の「始業及び終業の時刻、休憩時間、休暇」や第2号の「賃金」に関連します。退職金や賞与の制度があれば、第3号の2の「退職手当」や第4号の「臨時の賃金(賞与)」にも関連します。またハラスメントについては第9号の「制裁の定め」に影響します。また、第10号の「当該事業場の労働者のすべてに適用される定め」に当たるともいえます。

 以上を踏まえると、やはり就業規則の一部として「育児介護休業規程」の作成は免れないのでしょう。

4.厚生労働省モデル育児介護休業規程のような規程が必要なのか

 例えば、育児、介護休業を利用したときに賃金をどうするのか(支給の有無、減額の内容等)、短時間勤務の場合に就業時間をどうするのか、ハラスメントを行った場合にどのような処分を実施するのかといった会社特有の事項については、当然のことながら各社において定めなければなりません。
 制度構築や運用に際して会社の裁量に委ねられている部分については、会社がその定めをしていなければ、実際の場面で判断に困ってしまうでしょう。

 一方で、育児、介護関連の諸制度の多くは、「法律通り」と表現したとしても、その指している内容がブレることはまずありません。
 つまり、このようなものについては、わざわざ法律の内容を自社の規程に移入などしなくとも、「法律通りに運用します」と記載しておけば足りるのではないかという結論に至りました。

 勿論、「法律通り」とは一体何であるのかを従業員に提示できなければいけないので、諸制度に関する行政のパンフレット等の最新版を整備して備えておくことは必要でしょう。
 しかし、法律通りの諸制度の内容が規程上に具体的に書かれていないからといって、実質的な支障は特に生じない可能性が高いです。

5.法改正対応を必要最小限に抑えた規程

 以上を踏まえて、今後、法改正対応を極力最低限に抑えるための規程例はどんなものなのか考えてみました。

 法改正によって諸制度の具体的内容が変わっても規程自体を変更する機会はかなり減り、仮に変更する必要があったとしても、変更箇所は最小限で済むようなものがもはや良いのでは無いかと思料します。

 ただし両立支援助成金などでは規程内容が足りずに、行政から指導を受ける気もします。
 今回の改正後の育児介護休業規程は、あまりにも難解すぎて、もはや手に負えません。人事労務担当者の気苦労を少なくして、もっと大切なことに時間を割いて欲しいと切に願います。

参考リンク

 上述のような考えで落ち着きましたら、同じような主張をされている社労士さんがいました。
 参考までにリンクを貼っておきます。

育児介護休業規程は必要か?

※文書作成日時点での法令に基づく内容となっております。

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