未払残業代に対する遅延損害金の取扱い
未払残業代と損害遅延金についての問合せ
以下のような未払残業代と損害遅延金についての問合せがあり調査したので、ご説明します。
問:「未払残業代と損害遅延金について」
平成30年に退職した社員から、内容証明郵便が送られてきました。内容は、未払残業代の請求です。
未払残業代があるかどうかは現時点で不明ですが、その未払残業代に対する遅延損害金として、在職時は商事法定利率として、6%を退職から現在までの分は、14.6%が請求されています。未払残業代があった場合、この利率の遅延損害金を支払わなければならないのでしょうか。
回答:「未払残業代と損害遅延金について」
賃金不払いは、金銭債務の不履行になり、遅延損害金が発生します。したがって、未払賃金を請求する場合には、あわせて遅延損害金も請求できることになります。
遅延損害金の額は、その遅延している間の利息に相当するものになります。平成30年に退職した社員の場合の適用利率は、使用者が営利企業で在職中の分は商事法定利率年6%、退職してからの分は賃確法第6条により年14.6%と法定利率が定められていました。
なお、民法・商法の法改正により商法第514条に規定されていた6%の商事法定利率は廃止され、民事・商事いずれについても法定利率は年3%とされました(令和2年4月1日施行)。
未払残業代と損害遅延金の解説
賃金支払
賃金とは、労働基準法第11条により「賃金とは、賃金、給料、手当、賞与その他名称を問わず、労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのものをいう。」と定義されています。当然、残業代もこの賃金に該当します。
また、賃金の支払方法については、同法第24条により、労働者の生活の糧である賃金の全額が確実に労働者の手に渡るようにするため、以下の支払い5原則を定められています。
- 通貨で
- 直接労働者に
- その全額を
- 毎月1回以上
- 一定期日に
そのため、残業代の一部に未払いがある場合は、支払期日までに全額支払っていないことになり、労働基準法第24条違反となり、さらに割増賃金の未払いがある場合には同法第37条の違反となることにもなります。
このように、賃金については、刑罰をもってその支払いが強制されています。また、賃金不払い等を早期に解決するため、監督機関も整備されています。
したがって、法違反がある場合は、速やかに是正することが求められます。
遅延損害金
未払残業代は、民事上の賃金債権の債務不履行となることから、民法第415条により債権者は損害賠償として遅延損害金を生ずることになります。
したがって、賃金の不払いがある場合は、賃金支払日の翌日から遅延している期間の利息に相当する遅延損害金を請求できることになります。
その場合の遅延損害金の適用利率については、民法第419条により、原則として法定利率によることとされています。
この法定利率ですが、令和2年の民法・商法の改正法施行前においては、商行為によって生じた場合には商法第514条により年6%と、退職後の分については賃確法第6条により年14.6%と定められていました(新井工務店事件最判昭51・7・9)。
なお、商事法定利率を定めた規定価法第514条は削除され、民事・商事いずれについても法定利率は年3%とされ、令和2年4月1日から施行されています。
しかし、ご質問の場合は、平成30年に退職した社員にかかる例で、民法・商法の改正法施行前のものですので、施行前の商事法定利率の6%が適用されます。
また、退職後の賃確法上の法定利率については、その遅延が天災事変や倒産等やむ得ない事由がある場合、その事由の存する期間、賃確法上の利率は適用されないこととされています。
さらに、割増賃金(残業代)の未払いについては、刑罰とは別に、裁判所に提訴する場合、未払額と同額の付加金を合わせて請求することができます。
未払賃金の消滅時効
賃金の請求権については、労働基準法第115条で、短期消滅時効が定められています。
この時効は、退職手当を除く賃金の請求権は2年間、退職手当の請求権は5年間とされています。しかし、賃金の時効については、民法の時効が5年間と統一されたことを受け、労働基準法の時効も見直しが行われ、令和2年4月1日からは当面の間の時効が3年間に延長されています。
また、割増賃金については、労働基準法第114条により、付加金を請求できます。これについても除斥期間が定められていますが、先の説明にように2年以内から3年以内と延長されています。
なお、債権者は、この労働基準法上の請求権が時効間近となったとき、請求の内容を内容証明郵便で催告することにより、時効を一時中断することができます。その場合には、6か月以内に裁判所に提訴する必要があります。
ご質問の場合、労働者は、時効間近であり、裁判上の請求を検討しているようなので、至急残業代の事実関係の確認、消滅時効の完成の確認等を行い、今後の対応を考える必要があります。
参考となる法令・通達など
- 民法404条、419条
- 旧商法514条
- 民法の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律(平29・6・2法45)4条3項
- 労働基準法11条、24条、114条、115条、143条
- 賃金の支払の確保等に関する法律6条
- 賃金の支払の確保等に関する法律令1条
- 賃金の支払の確保等に関する法律則6条
- 最判昭51・7・9=新井工務店事件(判時819・91)
※文書作成日時点での法令に基づく内容となっております。
ディスカッション
コメント一覧
まだ、コメントがありません