期間に定めのある有期雇用契約の中途退職の注意点

2020年1月19日

雇用期間に定めのある契約の中途退職の注意点

有期労働契約は原則として中途解約できない

 期間の定めのある労働契約(有期労働契約)の場合、やむを得ない事由がないと契約期間の中途で解約することはできないとされています(民法628条)。
 この規定は、使用者(事業主)からの解約(解雇)にも、労働者側からの解約(退職)にも適用されます。

 使用者側からの解約については、労働契約法17条1項にも、同じ意味の規定があります。
 趣旨としては、契約期間は使用者と労働者が合意の上で決定したものであり、双方が遵守しなければならないものだからです。
 また、契約期間が満了すれば自動的に解約になるのに、中途で解約するということは、それさえ待てないほどの「やむを得ない事由」が必要である、という意味もあります。

 厚生労働省のHPで、期間の定めのある労働契約(有期労働契約)については、あらかじめ使用者と労働者が合意して契約期間を定めたのですから、使用者はやむを得ない事由がある場合でなければ、契約期間の途中で労働者を解雇することはできないこととされています(労働契約法第17条)。
 そして、期間の定めのない労働契約の場合よりも、解雇の有効性は厳しく判断される、と記載されています。

 裏を返せば労働者も一緒で、冒頭述べている通り、双方で合意した契約期間は確実に順守しましょうよということになります。それを覆すのは、真にやむを得ない時だけです。

「やむを得ない事由」と判断されるのは

 では、どういったケースであれば「やむを得ない事由」と判断されるでしょうか。

 例えば家族の介護のために、仕事を続けられないということでしたら、「やむを得ない事由」と認められる可能性が高いでしょう。
 なお、民法628条は、使用者側からの解約については強行規定であるのに対し、労働者側からの解約については任意規定とされ、「やむを得ない事由がなくても退職できる」という合意は有効と解釈されています。

 労働者に甘いところもあるのですが、最近は有期雇用労働者が、退職の意思表示をして即日来なくなるという事例も多々耳にします。
 業務の引継ぎ等になんら思慮がなく、ちょっとした憤りを覚えざるを得ないケースも多いですね。

期間の定めの無い労働契約は原則2週間で退職が可能

 一方で、期間の定めの無い労働契約(無期労働契約)を締結している労働者は、原則2週間前に申し入れることによって、いつでも労働契約を解約し、退職することができます(民法627条1項)。これは「自己都合退職」ですね。ただし就業規則等で1カ月前と規定されていれば、その定めに従う必要があります。
 無意味に長い拘束は裁判等で否定されていますが、業務引継で1ヶ月は有効なケースがほとんどだと考えられます。

労働契約期間の法の定め

 さらに補足すると、有期労働契約の契約期間の上限は原則3年までとなっていますが(労働基準法14条1項)。
 有期労働契約は、その期間の長さについて次のように定められています。

  • 原則は上限3年
  • 高度の専門的知識等を有する労働者との間に締結される労働契約については上限5年
  • 満60歳以上の労働者との間に締結される労働契約については上限5年
  • 一定の事業の完了に必要な期間を定める労働契約(有期の建設工事等)についてはその期間

有期契約は、原則として途中解約できない

 期間の定めのある労働契約、いわゆる有期契約の場合は、原則として途中解約(退職、解雇)できません。個人対企業であっても、契約は契約です。
 それが法律云々では無くて、当事者同士の取り決めの重さということです。

 これに対抗しうるのは、権利濫用と公序良俗違反のみです。

やむを得ない理由がある場合

 やむを得ない理由があれば、即時に雇用契約を終了させることもできます。(民法第628条)
 理由なしでも契約解除はできるのですが、事由が当事者の一方の過失によって生じたときは、相手方に対して損害賠償の責任を負うとされています。

 したがって、どちらが「やむを得ない」理由の原因となっているかがポイントです。
 もしも、企業に当初の約束と違う点があれば、労働者側から約束を守ってもらうよう催告され、それが是正されないようなら、労働者側が雇用解約した場合でも、相応の合理性が認められる可能性が高まります。

有期労働契約を更新した場合

 期間の定めのある雇用契約が、期間満了後も双方の異議なく事実上継続された場合は、前契約と同一の条件で更新されますが(黙示の更新)、この場合は2週間の予告期間をおけばいつでも辞められます。(民法第629条1項、民法第627条)

 契約の中に、「双方から申し出がない場合、1年間の自動更新とする」など、自動更新規定があれば、あらためて1年契約を結んだことになりますから注意を要します。

中途解約の特約を付す場合

 有期雇用の場合、「やむを得ない事由」がなければ途中解約できないとされますが、労使双方の合意に基づく契約書中で、「いずれか一方の申し出により期間途中でも解除できる」という条項を設けることができます。

 私的自治の原則により、当事者同士の合意が法に優先しますので、中途解約の特約は有効になります。
 この中途解約の特約が、限定的であり、明確な条件を定めている限りでは有効と考えられます。

 また、労働者側については、期間の定めのある労働契約を締結した労働者は、当分の間、民法第628条の規定にかかわらず、当該労働契約の期間の初日から1年を経過した日以後においては、その使用者に申し出ることにより、いつでも退職することができると定められています。(労働基準法附則137条)。

 契約期間の初日から1年を経過する時点がポイントとなります。

労使共にケジメある奇麗なお別れを

 退職・転職も当たり前の時代になってしまいました。しかし使用者側には解雇乱用の法理でかなり厳しい制限がありますが、労働者側も業務の引継ぎをする、お客さまに迷惑をかけない、会社内の仲間にも迷惑をかけないという、人間として大事なことをきちんと守って、飛ぶ鳥が跡を濁さないような態度を切に望みます。

参考リンク

厚生労働省「労働契約の終了に関するルール」
https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudouseisaku/chushoukigyou/keiyakushuryo_rule.html

参考条文

民法 第626条(期間の定めのある雇用の解除)
1.雇用の期間が5年を超え、又は雇用が当事者の一方若しくは第三者の終身の間継続すべきときは、当事者の一方は、5年を経過した後、いつでも契約の解除をすることができる。ただし、この期間は、商工業の見習を目的とする雇用については、10年とする。
2.前項の規定により契約の解除をしようとするときは、3箇月前にその予告をしなければならない。

民法 第627条(期間の定めのない雇用の解約の申入れ)
1.当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から二週間を経過することによって終了する。
2.期間によって報酬を定めた場合には、解約の申入れは、次期以後についてすることができる。ただし、その解約の申入れは、当期の前半にしなければならない。
3.六箇月以上の期間によって報酬を定めた場合には、前項の解約の申入れは、三カ月前にしなければならない。

民法 第628条(やむを得ない事由による雇用の解除)
当事者が雇用の期間を定めた場合であっても、やむを得ない事由があるときは、各当事者は、直ちに契約の解除をすることができる。この場合において、その事由が当事者の一方の過失によって生じたものであるときは、相手方に対して損害賠償の責任を負う。

労働基準法 第137条
期間の定めのある労働契約(一定の事業の完了に必要な期間を定めるものを除き、その期間が1年を超えるものに限る。)を締結した労働者(第14条第1項各号に規定する労働者を除く。)は、労働基準法の一部を改正する法律(平成15年法律第104号)附則第3条に規定する措置が講じられるまでの間、民法第628条の規定にかかわらず、当該労働契約の期間の初日から1年を経過した日以後においては、その使用者に申し出ることにより、いつでも退職することができる。

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