厳しい経済情勢下での労働条件変更のポイント
現在の厳しい経済情勢の下で、企業を巡る環境も厳しさを増している状態にあり、やむなく労働条件の引下げや希望退職者の募集、解雇など雇用調整を行わざるを得ないケースもありえます。
労働条件の引下げや解雇などを行うことが、やむを得ない場合であっても、法令で定められていた規制や手続、労使間で定めた必要な手続等を遵守するとともに、事前に十分な労使間での話合いや労働者への説明を行うことが最低限必要です。
こうしたことを行わず、安易に労働条件の引下げ等を行う場合には、労使の信頼関係を損ね、企業活動の低下を招く悪循環になりえます。
とりわけ解雇については、労働者の生活に大きな打撃を及ぼすものであることから、雇用調整を行わざるを得ない場合であっても、労働契約法の規定を踏まえ、また、関係する裁判例をも参考に、解雇以外に方法がないか慎重に検討を行っていただくことが望まれます。
ここでは、労働条件の引下げや解雇をやむを得ず検討しなければならない場合であっても守らなければならない法令の概要や、労務管理上参考となる裁判例の主なものを取りまとめました。
労働条件の確保に向けた適切な労務管理の参考にしていただければありがたい次第です。
労働条件の変更
労働条件の変更については、労働契約法にルールが定められています。
使用者が一方的に就業規則を変更しても、労働者の不利益に労働条件を変更することはできません。
合意による変更
【法令】
労働条件は、合意によって変更することが原則です。
労働者と使用者が合意すれば、労働条件を変更することができます。
(労働契約法第8条)
就業規則による変更
使用者が一方的に就業規則を変更しても、労働者の不利益に労働条件を変更することはできません。
就業規則によって労働条件を変更する場合には、内容が合理的であることと、労働者に周知させることが必要です。
【法令】
使用者が一方的に就業規則を変更しても、労働者の不利益に労働条件を変更することはできません。
(労働契約法第9条)
使用者が、就業規則の変更によって労働条件を変更する場合には、次のことが必要です。
(労働契約法第10条)
1.その変更が、以下の事情などに照らして合理的であること。
o労働者の受ける不利益の程度
o労働条件の変更の必要性
o変更後の就業規則の内容の相当性
o労働組合等との交渉の状況
2.労働者に変更後の就業規則を周知させること。
賃金の支払
厳しい経済情勢下であっても、労働者が安心して生活していくためには、賃金や退職金が確実に支払われることが必要不可欠です。
賃金の支払等については、労働基準法等に定められたルールを遵守する必要があります。
賃金の確実な支払は事業主にとっての大きな責務です。
【法令】
賃金は、
1.通貨で、
2.直接労働者に、
3.全額を、
4.毎月1回以上、
5.一定の期日を定めて
支払わなければなりません。(労働基準法第24条)
退職金・社内預金の確実な支払等のための保全措置
賃金は、労働者にとって重要な生活の糧であり、確実な支払が確保されなければなりません。
退職金は労働者の退職後の生活に重要な意味を持つものであり、また、社内預金は労働者の貴重な貯蓄ですので、万一、企業が倒産した場合であっても、労働者にその支払や返還が確実になされなければなりません。
社内預金制度を行う場合には、確実な返還のための保全措置を講じなければならず、また、退職金制度を設けている場合にも、確実な支払のための保全措置を講ずるように努めなければなりません。
(賃金の支払の確保等に関する法律第3条、第5条)
休業手当の支払
企業側の都合で休業させた場合には、労働者に休業手当を支払い、一定の収入を保障する必要があります。
【法令】
一時帰休など企業側の都合(使用者の責に帰すべき事由)により所定労働日に労働者を休業させた場合には、休業させた日について少なくとも平均賃金の100分の60以上の休業手当を支払わなければなりません。
(労働基準法第26条)
未払賃金の立替払制度は、企業が倒産したため賃金が支払われないまま退職した労働者に対して、その未払賃金の一定範囲について国((独)労働者健康福祉機構)が事業主に代わって支払う制度です。
詳しくは最寄りの労働基準監督署にお問い合わせください。
参考:未払賃金の立替払制度の概要
個別労働紛争の解決を図るために
労働基準法については、労働基準監督署による監督指導や罰則によって、その履行が確保されます。
労働契約法に定められた事項を含め民事上の紛争については、簡易・迅速に解決するための仕組として、「個別労働紛争解決システム」が用意されています。
これは、労働問題への高い専門性を有する都道府県労働局において、無料で個別労働紛争の解決援助サービスを提供するもので、
o総合労働相談コーナーにおける情報提供・相談
o都道府県労働局長による助言・指導
o紛争調整委員会によるあっせん
があります。
男女雇用機会均等法については、各都道府県労働局雇用均等室による助言・指導・勧告によって、その履行が確保されます。
また、性別を理由とした解雇等に関する差別的取扱い、女性労働者の婚姻、妊娠、出産等を理由とする解雇等の不利益取扱いに関する紛争については、都道府県労働局長による助言・指導・勧告及び機会均等調停会議による調停により解決を図る制度があります。
パートタイム労働法については、各都道府県労働局雇用均等室による助言・指導・勧告によってその履行が確保されます。
また、通常の労働者と同視すべきパートタイム労働者に対する解雇等差別的取扱いに関する紛争については都道府県労働局長による助言・指導・勧告及び均衡待遇調停会議による調停により解決を図る制度があります。
個別労働紛争の解決を図るために、これらの制度をご利用ください。
法令違反で自らを苦しくしないように、参考になさって下さい。