菅野労務FP事務所ブログ

厳しい経済情勢下での解雇・雇止めのポイント

 現在の厳しい経済情勢の下で、企業を巡る環境も厳しさを増している状態にあり、やむなく労働条件の引下げや希望退職者の募集、解雇など雇用調整を行わざるを得ないケースもありえます。

 労働条件の引下げや解雇などを行うことが、やむを得ない場合であっても、法令で定められていた規制や手続、労使間で定めた必要な手続等を遵守するとともに、事前に十分な労使間での話合いや労働者への説明を行うことが最低限必要です。

 こうしたことを行わず、安易に労働条件の引下げ等を行う場合には、労使の信頼関係を損ね、企業活動の低下を招く悪循環になりえます。

 とりわけ解雇については、労働者の生活に大きな打撃を及ぼすものであることから、雇用調整を行わざるを得ない場合であっても、労働契約法の規定を踏まえ、また、関係する裁判例をも参考に、解雇以外に方法がないか慎重に検討を行っていただくことが望まれます。

 ここでは、労働条件の引下げや解雇をやむを得ず検討しなければならない場合であっても守らなければならない法令の概要や、労務管理上参考となる裁判例の主なものを取りまとめました。
 労働条件の確保に向けた適切な労務管理の参考にしていただければありがたい次第です。

解雇・雇止めについて

 企業においては、労働基準法、「有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準」、労働契約法等に定められたルールを遵守することはもとより、解雇・雇止め等に関する裁判例も参考にして適切に労務管理を行い、労使間でトラブルにならないようにする必要があります。

解雇の禁止

 一定の場合には、解雇が法律で禁止されています。

【法令】

 法律で解雇が禁止されている主な場合として、次のものがあります。

1.業務上の傷病による休業期間及びその後30日間の解雇(労働基準法第19条)、
2.産前産後の休業期間及びその後30日間の解雇(労働基準法第19条)、
3.国籍、信条、社会的身分を理由とする解雇(労働基準法第3条)、
4.労働基準監督署に申告したことを理由とする解雇(労働基準法第104条)、
5.労働組合の組合員であること等を理由とする解雇(労働組合法第7条)、
6.女性(男性)であること、女性の婚姻、妊娠、出産、産前産後休業等を理由とする解雇(男女雇用機会均等法第6条、第9条)、
7.育児・介護休業の申出をしたこと、育児・介護休業を取得したことを理由とする解雇(育児・介護休業法第10条、第16条)、
8.通常の労働者と同視すべきパートタイム労働者について、パートタイム労働者であることを理由とする解雇(パートタイム労働法第8条)、
9.公益通報をしたことを理由とする解雇(公益通報者保護法第3条)

解雇の効力

1.期間の定めのない労働契約の場合

 権利の濫用に当たる解雇は、労働契約法の規定により、無効となります。

【法令】

 客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない解雇は、権利を濫用したものとして、無効となります。(労働契約法第16条)

2.有期労働契約(期間の定めのある労働契約)の場合

 やむを得ない事由がある場合でなければ、契約期間中に解雇することはできません。
 期間の定めのない労働契約の場合よりも、解雇の有効性は厳しく判断されます。

【法令】

 有期労働契約については、やむを得ない事由がある場合でなければ、契約期間が満了するまでの間において、解雇することはできません。
 (労働契約法第17条)

 労働契約法は、労働契約の基本的なルールを定めています。
 罰則はありませんが、解雇等に関して、民法の権利濫用法理を当てはめた場合の判断の基準など、私法上の効果を明確化するものです。
 民事裁判や労働審判は、労働契約法の規定を踏まえて行われます。

参考:労働契約法

整理解雇

【裁判例】

 余剰人員となったというだけで解雇が可能なわけではなく、これが解雇権の行使として、社会通念に沿う合理的なものであるかどうかの判断を要し、その判断のためには、人員整理の必要性、人選の合理性、解雇回避努力の履践、説明義務の履践などは考慮要素として重要なものというべきである。
(大阪地裁平成12年12月1日判決)

【法令】

 「有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準」の主な内容は、次のとおりです。

1.使用者は、有期労働契約の締結に際し、更新の有無や更新の判断基準を明示しなければなりません。

2.有期労働契約が3回以上更新されているか、1年を超えて継続勤務している有期契約労働者について、有期労働契約を更新しない場合には、少なくとも30日前までに予告をしなければなりません。

3.雇止めの予告後に労働者が雇止めの理由について証明書を請求したときには、遅滞なく証明書を交付しなければなりません。

4.有期労働契約が1回以上更新され、かつ、1年を超えて継続勤務している有期契約労働者について、有期労働契約を更新しようとする場合には、契約の実態及び労働者の希望に応じて、契約期間をできる限り長くするよう努めなければなりません。

有期労働契約の雇止め

 有期労働契約(期間の定めのある労働契約)については、その締結時や期間の満了時における紛争を未然に防止するため、使用者が講ずるべき措置について、「有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準」が定められています。

o人員削減を行う必要性
oできる限り解雇を回避するための措置を尽くすこと
o解雇対象者の選定基準が客観的・合理的であること

※解雇回避のための方法としては、例えば、配置転換、出向、希望退職募集等を検討することが考えられます。

※人員削減を避けるために、労働時間の短縮(ワークシェアリング)を行うことも、一つの方策です。

 「有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準」は労働基準法に基づく厚生労働大臣の告示であり、雇止めの手続等について定めています。
 罰則はありませんが、労働基準監督署において遵守のための指導が行われます。

 参考:有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準

 また、これまでの裁判例を参考にすれば、労働組合との協議や労働者への説明を行うとともに、次のことについて慎重に検討を行っていただくことが望まれます。

 整理解雇についても、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない場合には、権利の濫用として、労働契約法の規定により、無効となります。

 裁判例によれば、契約の形式が有期労働契約であっても、期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態に至っている契約である場合や、反復更新の実態、契約締結時の経緯等から雇用継続への合理的期待が認められる場合は、解雇に関する法理の類推適用等がされる場合があります。

【裁判例】

o期間の満了毎に当然更新を重ねてあたかも期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態で労働契約が存在していたといわなければならない場合、雇止めの意思表示は実質において解雇の意思表示にあたり、雇止めの効力の判断に当たっては、解雇に関する法理を類推すべきである。
(最高裁第一小法廷昭和49年7月22日判決)

o期間の定めのない契約と実質的に異ならない関係が生じたということはできないものの、季節的労務や臨時的労務のために雇用されたのではなく、その雇用関係はある程度の継続が期待されていたものであり、5回にわたり契約が更新されていたのであるから、このような労働者を契約期間満了によって雇止めするに当たっては、解雇に関する法理が類推される。
(最高裁第一小法廷昭和61年12月4日判決)

採用内定取消し

【裁判例】

 採用内定により労働契約が成立したと認められる場合には、採用内定の取消しには、労働契約法第16条の解雇権の濫用についての規定が適用されます。

 採用内定通知等に採用内定取消事由が記載され、解約権が留保されている場合がありますが、裁判例によれば、採用内定の取消事由は、解約権留保の趣旨、目的に照らして客観的に合理的と認められ社会通念上相当として是認することができるものに限られるとされています。

 採用内定の実態は多様であるため、その法的性質を一義的に論断することはできないが、採用内定通知のほかには労働契約締結のための特段の意思表示が予定されていない場合、企業からの採用内定通知は労働者からの労働契約の申込みに対する承諾であり、誓約書の提出と相まって、就労の始期を定めた解約権を留保した労働契約が成立したと解する。

 採用内定の取消事由は、採用内定当時知ることができず、また知ることが期待できないような事実であって、これを理由として採用内定を取消すことは、解約権留保の趣旨、目的に照らして客観的に合理的と認められ社会通念上相当として是認することができるものに限られる。
(最高裁第二小法廷昭和54年7月20日判決)

退職勧奨

【裁判例】

 裁判例によれば、被勧奨者の自由な意思決定を妨げる退職勧奨は、違法な権利侵害に当たるとされる場合があります。

 ことさらに多数回、長期にわたる退職勧奨は、いたずらに被勧奨者の不安感を増し、不当に退職を強要する結果となる可能性が高く、退職勧奨は、被勧奨者の家庭の状況、名誉感情等に十分配慮すべきであり、勧奨者の数、優遇措置の有無等を総合的に勘案し、全体として被勧奨者の自由な意思決定が妨げられる状況であった場合には、当該退職勧奨行為は違法な権利侵害となる。
(最高裁第一小法廷昭和55年7月10日判決)

解雇の手続

【法令】

1.解雇を行う場合には、解雇しようとする労働者に対して、

イ.少なくとも30日前に解雇の予告(予告の日数が30日に満たない場合には、その不足日数分の平均賃金を支払う必要があります。)
ロ.予告を行わない場合には、平均賃金の30日分以上の解雇予告手当の支払をしなければなりません。(労働基準法第20条)

2.どのような場合に解雇するかなど退職に関することは、労働条件の重要な事項です。

 このため、解雇・定年制等の退職に関する事項については、就業規則に定めておかなければなりません。
 また、就業規則は、常時各作業場の見やすい場所に掲示又は備え付けること、書面を交付すること等により労働者に周知しなければなりません。
 (労働基準法第89条、第106条)

退職時の証明

 やむを得ず解雇を行う場合でも、労働基準法にしたがって、30日前に予告を行うことや、予告を行わない場合には解雇予告手当を支払うことが必要です。
 労働者から請求があった場合には、解雇の理由等について、証明書を交付する必要があります。

 やむを得ず一定期間内に相当数の離職者が発生する場合や高年齢者・障害者・外国人を解雇する場合は、ハローワークに届出や通知を行うことが必要です。詳しくは最寄りの都道府県労働局又はハローワークにお問い合わせ下さい。

参考:ハロ-ワークへの届出や通知

【法令】

 労働者が退職する場合に、以下の事項について証明書を請求したときには、遅滞なく証明書を交付しなければなりません。
 また、労働者に解雇の予告をした場合に、労働者が解雇の理由について証明書を請求したときには、遅滞なく証明書を交付しなければなりません。
 (労働基準法第22条)

1.使用期間
2.業務の種類
3.その事業における地位
4.賃金
5.退職の事由(解雇の場合は、その理由を含みます。)

法令違反で自らを苦しくしないように、参考になさって下さい。

人事・賃金・退職金・労務コンサルはおまかせください。

菅野労務FP事務所へのお問い合わせは

0299-56-4865まで

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