菅野労務FP事務所ブログ

戦略的就業規則の必要性とポイント

それこそが経営者の思いやりのはずだった・・・

(ある経営者の事例から)

1)重病で倒れた若手社員

 システム関連企業のG社は、数年前から若手のSE候補を採用し続けて来ました。
 P君も、そのなかの1人で、将来が期待された人材でした。

 ところが入社5年目になって、P君が突然病気で倒れます。病名は消化器系当のガン。
 幸いに、初期症状だったので、緊急入院して治療に専念することになりました。
 もちろん、仕事は休まなければなりません。

 しかし社長は、P君やP君のご両親、あるいは同僚などを気遣って、特別措置として、入院中も基本給を保障することにしたのです。

2)何も定めていない就業規則

 G社にも、いちおう就業規則はありましたが、それは設立時に市販の書籍の雛形をそのまま書き写したもので、社長にとっては、就業規則はないも同然でした。

 社長は、
 「規則など必要ない。その都度私が事情に合わせて“適切に判断”する。」
 「それが一番よい。」

 と言って、はばからなかったのです。

 はじめの頃は、社内では、もちろんP君を心配する声が強く、また若手従業員は、社長に対して安心感を持ったかも知れません。
 つまり、「自分が病気になっても、社長は助けてくれる」という気持ちです。


【 予想外の事態へ 】

 しかし、その後G社は予想外の事態に巻き込まれることになってしまいます。
 その出来事自体はいつでも起こり得る日常的なものでした。

3)事態が“適切な判断”領域を超える時

 その後、P君は一時健康を取り戻し、職場に復帰しました。

 P君の職場復帰はG社にとって良いニュースで、職場の雰囲気は明るくなりました。

 しかし、死線をさまよったP君は、以前とはどことなく違いました。
 そして特に仕事をするでもなし、休むでもなし、といった日々を続けたのです。
 6ヵ月ほど、そんな状態が続いた後、P君は再び入院しました。
 そして、その後は入退院を繰り返す生活を続けることになったのです。

 そんなP君の生活は“3年近く”続きました。

 そして、蒸し暑い梅雨時の季節に小さな事件は起きたのです。

 記録的な豪雨が続く中、納品間近のシステム製作で、担当者が2人とも倒れました。
 倒れたと言っても、夏風による発熱と、もう1人は軽い食中毒でした。

 重要顧客ということと、社長がチェックできる日程がその日しかなかったので社長は欠席した担当者に直接電話で詳細を聞きました。

 ところが電話口に出て来た担当者は、声を聞く限り元気そうでした。

 実は、社長からの電話がうれしかったのだそうですが、社長はその脳天気な声に、“切れて”しまったのです。

 そして、
 「何をやっているか。大したことがないのなら出て来い!」
 と怒鳴ってしまいました。しかも勢いあまって

 「その程度で休む奴には今後仕事はない」とまで言ってしまったのです。

4)何かがおかしくなった組織

 社長が担当者を怒鳴って、出社させたのはちょうど給与決済目でした。
 毎月、その月に支払う給与額を、社長自らチェックしていたのです。
 そして、その決済の中には、P君への賃金が含まれていたのです。

 一方で、怒鳴りつけても出社させる従業員がいて、他方で2年あまりも仕事をしていないのに、給与を受け取り続けているP君がいます。

 その時、ふと「これは何だ。何が起きているのだ!」
 と一瞬自分が混乱した、と社長は言われます。

 自分で考えても、何か割り切れない気持ちが残るのに、従業員には非常に悪い影響を与えているのではないか、と心配になった社長は、コンサルタントに依頼して社内の組織診断を行うことにしたのです。

 「あの一瞬に疑問が生まれるまで、社内の風土や空気など考えもしなかった」
 という社長に、診断結果は過酷でした。

 経営に対する信頼を失い、組織が非常に危険な状況にあるという結果が出たのです。

5)筋を通そう!

 決断を先送りにして来た“P君問題”が、組織に悪い影響を及ぼしていたのです。

 某内閣の支持率のようなもので、一旦信頼をなくすと裏目に出るのが組織力学です。
 「とにかくまずは姿勢を正そう」ということで、社長はようやくP君への支払いにけじめをつけることにしたのです。

6)個人の手に負えないことが起こるのが組織!

 意を決し、社長はP君のご両親に事情を話しに行きました。
 今月を最後に、給与を支払えないということを。

 ただし、退職金を支払うことで、しばらくの入院費用にあててくれるようにも申し出ました。社長は誠意を尽くしたかったのです。

 その時に、ご両親が涙ながらに話した言葉を、社長は忘れることができません。

 「ご迷惑をおかけしています。息子が給料をいただくいわれがないのはよく存じています。
 しかし、息子は会社に戻ることを、とても楽しみにしています。毎月届く給与明細を、とてもうれしそうに見るのです。
 それが息子の心の支えのようで、そしてそれがなくなれば息子が逝ってしまうようで・・・。
 すみません。長い間、ありがとうございました。」

 その後の詳細は分かりませんが、社長の気持ちが割り切れたわけではないことでしょう。

7)人の集まりには人の手に負えないことが起こる

 人が集まる組織は、組織そのものが生き物のようなところがあります。

 『何でも自分のその時々の判断でやれるというのは思い上がりだった』
 と社長は言われます。

 結局、本当にP君のためになったかどうかも分からない一方で、それが発端で、従業員に接する態度がちぐはぐになり、それが徐々に、そして確実に、社内の空気を悪くして行ったのは事実です。

就業規則なんて…

「こんな時代に、週休2日制だの、週40時間だの、男女平等だの、経営現場の実情に合わない就業規則なんて、今までバカバカしすぎて考えたこともなかったけれど、それが就業規則なのかどうかは別にして、経営にはやはりルールが必要だ」

 という社長の言葉は、決して軽いものではありません。

 お金の負担が問題ではなく、やり切れない自分の気持ちが問題だったそうです。

8)戦略的なルールが求められている!

 価値観も考え方も多様な人材が、一つの組織で力を合わせるためには、組織員の誰もが納得するルールが必要になって来ています。

 経営者の直感や感覚だけではなく、公正なルールが求められているのでしょう。
 もちろん、形式的な規則作成が求められているのではなく、本当に経営者や従業員が、そうありたいと願うルールが必要なのです。

 そして、それこそが、私たちの言う『戦略的な企業ルール』ということです。

【2】戦略的ルールのポイント

 次の6つの側面を参考にしてください。

  1. 経営理念面
      「仏つくって魂入れず」とならないための要素であると考えます。
  2. 規律的側面
      会社を守るための就業規則でなくてはなりません。様々なリスクに備えましょう。
  3. 使いやすさ
      全ては「使ってなんぼ」です。使いにくくては、就業規則の存在価値自体が
      無意味化してしまいます。
  4. 合法性
      なんといっても労働法を始めとする各法律は遵守しなければなりません。
      うっかり違法といっても通用しません。
  5. 法改正対応度
      常に最新でなければ、法改正時点で法律から外れている規定となります。
  6. 制度化範囲
      一般的に就業規則の規定範囲には作成者の偏りが見られます。
      他に制度化が必要な範囲はありませんか?
      自社に必要なものを熟慮しましょう。
  7. 1)会社の就業規則は見直しをしていますか?!

     2004年1月から労働基準法が改正されました。
     大きなものは「解雇の事由」の明記義務です。手直しは漏れていませんか?

     下記のような状況になっているようであれば要注意です。

    • 一度労働基準監督署に届出をしたっきりになっている、
      届出をして2~3年以上経っている・・・
    • 変形労働時間制を導入したけど届出をしていない
    • 36協定って一度出せば大丈夫のはず(年に1度は提出が必要です)
    • 「個人情報管理規程」の盛り込みや、守秘義務規定の強化
       まだ何も手をつけていない・・・

     「とりあえず必要だろうから作成をして届出をしておけばいい」という安直なものは、この時代にあっては非常に高い企業リスクを背負い込む事にもなりかねません。

    2)トラブル回避のために

     労使トラブルの90%は就業規則に未整備に起因しているともいわれています。

     トラブルを放置しておいたばかりに、社員のモチベーションに影響が出てしまい、その結果、労政事務所や地域ユニオンへの駆け込み相談から紛争調整へと問題が大きくなるケースが増えていることも事実です。

     企業と社員の双方で納得のいく就業規則を規程することは、労使双方にとって無駄な紛争にコストを取られることをなくし、最終的には経営効果を高める結果につながります。

     就業規則の整備及び適宜の見直しは、忘れずにご留意ください。

人事・賃金・退職金・労務コンサルはおまかせください。

菅野労務FP事務所へのお問い合わせは

0299-56-4865まで

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