厚生労働省「毎月勤労統計」不適切手法調査の驚きの影響

2020年1月23日

厚生労働省「毎月勤労統計」不適切手法調査の影響

「勤労統計」不適切手法調査の影響はなんと約800億円

 「勤労統計」不適切手法調査の影響では、当初567.5億円を見込んでいたのが、さらに追加給付を行う際に、システムの改修や人件費など事務経費が数百億円かかることが2019.01.19日に判明したようです。追加給付費の総額は約800億円に膨らむとのことです。恐ろしい金額です。
 システムの改修には数カ月かかり、実際の追加給付は来年度になる見通しだということですが、この問題はどこまで泥沼を呈すのでしょうか。(2019.01.19加筆)

 厚生労働省の「毎月勤労統計」が不適切な手法で調査されていた問題で、同統計をもとに給付水準が決まる雇用保険や労災保険などの過少給付額が約567億5千万円に上るとの検証結果を厚生労働省が2019年1月11日公表しました。

 本来の調査手法に近づける補正を昨年の2018年1月からしていた動機など解明されていない点も多く、厚労省は弁護士ら外部の有識者らの協力をえて検証を続けるとしていますが、日本の経済統計への信頼を揺るがす重大な問題です。

 この「毎月勤労統計」は、統計法で政府の「基幹統計」と位置づけられ、国内総生産(GDP)や景気動向指数など多くの経済指標の算出にも使わています。厚労省が都道府県を通じ、労働者1人当たりの現金給与総額などを毎月調べています。

東京都の全約1400事業所のうち約500事業所を抽出して調査

 検証結果によると、本来は従業員500人以上の大規模事業所はすべて調べるルールとなっているようですが、厚労省は2004年から東京都の全約1400事業所のうち約500事業所を抽出して調査していたとのことです。
 比較的賃金の高い事業所の調査数が減っているので、正しく調べた場合より低い賃金の結果が出ています。意図的にそうしたのか謎です。

 この影響で雇用保険や労災保険、船員保険で本来より給付額が少なかった人が延べ約1973万人いたといいますから、とにかく驚きです。
 雇用調整助成金などの助成金でも延べ30万件の過少支給があったそうです。厚労省は不足分を対象者に追加で給付する作業を始めていますが、べらぼうな作業になることが容易に想像できます。

必要な基礎資料のうち2004~11年分資料が紛失や廃棄

 この不正調査問題では、不正なデータを補正するために必要な基礎資料のうち、2004~11年分が紛失や廃棄されていたことが判明しました。1月17日の総務省統計委員会で明らかになった模様です。唖然、茫然ですね。

 統計委員会の西村清彦委員長は統計として成立しない可能性に言及しています。厚労省は引き続き資料を探す方針のようですが、政府の基幹統計に穴が開く異例の事態に発展する可能性が出てきました。呆れる自体が続きます。(2019.01.19加筆)

雇用保険や助成金などの追加給付概要

 厚生労働省HPで2019年1月13日現在で公表されている数値を、そのまま記載しておきます。

(1)追加給付の計算

追加給付の計算は、平成31年1月11日(金)に公表を行った「再集計値」及び「給付のための推計値」を用いて行います。

(2)追加給付の一人当たり平均額、対象人数、給付額の現時点の見通し

 一人当たり平均額等の現時点の見通しは次のとおりです。

  • 【雇用保険】
     一つの受給期間を通じて一人当たり平均約1,400円、延べ約1,900万人、給付費約280億円
  • 【労災保険】
     年金給付(特別支給金を含む):一人当たり平均約9万円、延べ約27万人、給付費約240億円
     休業補償(休業特別支給金を含む):一人一ヶ月当たり平均約300 円、延べ約45万人、給付費約1.5億円
  • 【船員保険】
     一人当たり平均約15万円、約1万人、給付費約16億円
  • 【事業主向け助成金】
     雇用調整助成金等:対象件数延べ30万件、給付費約30億円

 以上については、お支払いに必要となる事務費を含め、引き続き精査します。

 ※ 詳細や最新情報は下記リンクで案内している厚生労働省HPからどうぞ。

組織的隠蔽が無いということを信じられるか

 昨年2018年1月分からは、本来の調査対象数に近づけるよう補正する統計システムの変更を公表しないまま行っていたと言いますから、何か意図的なものも感じとれます。
 不適切調査や補正について、「一部の職員は認識していたが、組織全体では共有していない」としています。根本匠厚労相は閣議後会見で謝罪した上で、「組織的隠蔽があったとの事実は現時点ではないと思っている」としました。

 不正な調査に関与、把握した職員の範囲は調査中ということですが、どのような顛末を迎えるでしょうか。

 菅義偉官房長官は国勢調査など政府の56の基幹統計について点検するよう関係府省庁に指示し、自民党の森山裕国会対策委員長は1月11日、来週に衆院厚労委員会の理事会を開き、同委での閉会中審査の早期開催を決める考えを示しました。

不適切調査は平成8年から行われていたことが判明

 この「毎月勤労統計」の調査が不適切だった問題で、不適切調査は平成8年から行われていたことが1月12日に分かっています。

 さらに、500人以上の規模の事業所を全調査しなければならないものを、厚労省は東京都分に加え、2018年6月、大阪、愛知、神奈川の3府県に「抽出」とする不適切調査を要請していたことも判明しました。
 統計に対する厚労省のずさんな対応が浮き彫りになっています。

 勤労統計は厚労省が都道府県を通じて行い、従業員500人以上の事業所は全数調査がルールだそうです。初めて知りました。
 しかし2004年からは、賃金が高い傾向にある大規模事業者が多い東京都内約1400事業所のうち、3分の1だけを抽出して調べ、このことが全国の平均賃金額が低く算出されることにつながったようです。

過少支給の対象者は延べ約1973万人と凄まじい

 不適切調査により、雇用保険の失業給付や労災保険などの過少支給の対象者は延べ約1973万人で、追加給付の総額は約567.5億円ということですから、凄まじい影響です。

 雇用保険の中には、育児・介護休業給付金の支給額が少なかったケースもあるそうです。厚労省は相談窓口を設け、追加給付のための申し出を呼びかけています。
 しかし、不利益を被った人に自ら申出しなさいとは、なんとも違和感が残る対応です。

関係省庁は経済統計の意義を再認識し襟を正して欲しい

 産業構造の変化に伴い、経済の実態を表す統計の役割は増しているわけで、調査の予算に制約はあるでしょうけど、今回の問題を機に関係省庁は経済統計の意義を再認識し襟を正して欲しいものです。

 当事務所にも影響があるやも知れませんので、とにかく状況を注視し、該当するお客さんの対応は速やかにするように準備しておきたいと考えています。

参考リンク

厚生労働省:毎月勤労統計調査に係る雇用保険、労災保険等の追加給付について
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000121431_00035.html

ライブドア:厚生労働省の毎月勤労統計問題 不適切捜査は23年前から
https://news.livedoor.com/article/detail/15864340/

朝日新聞:毎勤統計、不適切調査で賃金など実態より低く 組織的隠蔽は否定
https://www.asahi.com/business/reuters/CRBKCN1P50TI.html

日経新聞:揺らぐ経済統計への信頼
https://www.nikkei.com/article/DGXKZO39915600R10C19A1EA1000/?n_cid=SPTMG002

産経ニュース:勤労統計不正、追加給付800億円 事務費に数百億円
https://www.sankei.com/life/news/190117/lif1901170003-n1.html

毎日新聞:勤労統計の資料を廃棄 厚労省04~11年分、再集計は困難
https://mainichi.jp/articles/20190117/k00/00m/040/245000c

※文書作成日時点での法令に基づく内容となっております。

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