裁量労働制の解説と労働基準法条文の確認

2020年1月27日

裁量労働制の解説と労働基準法条文の確認

 裁量労働制(さいりょうろうどうせい)は、国会の虚偽データ問題のおかげで随分と耳にする機会が多くなりました。国会で審議途上だったのは、「企画型裁量労働制の対象業務の追加」でした。
 裁量労働制には、専門業務型裁量労働制と企画業務型裁量労働制の二つの種類がありますが、労働基準法と労働基準法施行規則の条文を確実に把握して、裁量労働制をみてみましょう。

裁量労働制とは何だろう

 裁量労働制とは、労働時間制度の1つで、労働時間を実労働時間ではなく一定の時間とみなす制度のことです。

 大きな特徴は、実労働時間に応じた労働時間カウントがなされず、よって実労働に応じた残業代は発生しません。また、裁量労働制は全ての業種に適用できるものでなく、適用対象は設計者や技術者など法律が認めた業種に限ります。

 裁量労働制の本質は、業務の遂行や時間配分を自分の裁量で決められるというところにあります。きちんと法で定められた対象業務に適用され、命じられる業務量も過大でなければ、ストレスのない働き方が実現できると評価することもできます。すなわち自分の裁量で効率的に働き、正当に成果を評価される制度であることが本来的意義でしょう。
 しかしながら、不適切な利用によって、不当な長時間労働等の問題も発覚していますね。

裁量労働制ではみなし時間制がとられる

 裁量労働制に労働時間の概念が無いというと、そのようなわけでもなく、あらかじめ月に◯時間働いたとしておく、みなし時間制が取り入れられることになります。
 みなし時間についても労働基準法の規制は及ぶため、法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超える場合は、割増賃金を支払う必要があります。みなし時間制に関しては、定額の固定残業代で対応するのが通常と思われます。

裁量労働制の休日手当

 裁量労働制であっても、もちろん休日を設けなくてはいけません。あくまで所定労働日の労働時間を一定時間とみなす制度であるため、休日に働いた分の賃金は別途算定して支払われないといけません。

 裁量労働制はあくまで所定労働日の労働に対する規律であって、休日労働まで規律するものではないと解されますので、就業規則等に特段の定めがない場合は、休日労働については実労働時間で計算すべきと考えられます。すなわち、休日に働いた時間は個別に集計される必要があります。

「フレックスタイム制」や「みなし残業制」とは異なる

 「フレックスタイム制」や「みなし残業制」もよく使われていますが、裁量労働制とは異なっています。その解釈については、別の記事で述べたいと考えています。

裁量労働制の導入には労使協定を結ぶ必要がある

 裁量労働制を導入するためには、会社側と労働者側(労使)が労使協定を結ぶ必要性があります。そのため、使用者・会社側が一方的に裁量労働制を導入することは出来ません。
 労働者側とは、労働者代表のことで、社内に労働組合があれば、労働組合の代表。労働組合が無ければ、労働者の過半数を代表する人です。

 この締結で、具体的な時間配分(出退勤時間)の指示はしないと定めたり、みなし時間制の規程、長時間働き過ぎた労働者の健康確保措置や苦情処理措置も定めなくてはなりません。そして、この協定は労働基準監督署に届け出なくてはなりません。

裁量労働制の2つの種類

 裁量労働制には、「専門業務型裁量労働制」と「企画業務型裁量労働制」の2つの種類があります。

専門業務型裁量労働制

 労使の協定を結べば、どの業種も裁量労働制を取り入れることができるわけではありません。業務の性質上、労働者の裁量に委ねる業種のみ、裁量労働制を導入できます。そのことを、専門業務型裁量労働制と言います。
 具体的な内容として次のような業種が当てはまります。

  • 研究開発
  • 情報処理システムの設計・分析
  • 取材・編集
  • デザイナー
  • プロデューサー・ディレクター
  • その他、厚生労働大臣が中央労働委員会によって定めた業務
  • コピーライター
  • システムコンサルタント
  • ゲーム用ソフトウェア開発
  • 公認会計士
  • 不動産鑑定士
  • 弁理士
  • インテリアコーディネーター
  • 証券アナリスト
  • 金融工学による金融商品の開発
  • 建築士
  • 弁護士
  • 税理士
  • 中小企業診断士
  • 大学における教授研究 など

企画業務型裁量労働制

 企画業務型裁量労働制は、企業の中核を担う部門で企画立案などを自律的に行う頭脳軍団に対して、みなし時間制を認めることです。

 企画業務型裁量労働制は、労使委員会を設置し、5分の4以上の多数決を決議するなど、専門業務型裁量労働制より厳格な要件が設けられています。

労働基準法の条文確認

 裁量労働制を採用するには、労働基準法第38条の3及び第38条の4の要件を満たす必要がありますので、条文をそのまま掲載しましょう。

労働基準法第38条の3

 使用者が、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定により、次に掲げる事項を定めた場合において、労働者を第1号に掲げる業務に就かせたときは、当該労働者は、厚生労働省令で定めるところにより、第2号に掲げる時間労働したものとみなす。
 業務の性質上その遂行の方法を大幅に当該業務に従事する労働者の裁量にゆだねる必要があるため、当該業務の遂行の手段及び時間配分の決定等に関し使用者が具体的な指示をすることが困難なものとして厚生労働省令で定める業務のうち、労働者に就かせることとする業務(以下この条において「対象業務」という。)

  1. 対象業務に従事する労働者の労働時間として算定される時間
  2. 対象業務の遂行の手段及び時間配分の決定等に関し、当該対象業務に従事する労働者に対し使用者が具体的な指示をしないこと。
  3. 対象業務に従事する労働者の労働時間の状況に応じた当該労働者の健康及び福祉を確保するための措置を当該協定で定めるところにより使用者が講ずること。
  4. 対象業務に従事する労働者からの苦情の処理に関する措置を当該協定で定めるところにより使用者が講ずること。
  5. 前各号に掲げるもののほか、厚生労働省令で定める事項

 前条第3項の規定は、前項の協定について準用する。

労働基準法第38条の4

 賃金、労働時間その他の当該事業場における労働条件に関する事項を調査審議し、事業主に対し当該事項について意見を述べることを目的とする委員会(使用者及び当該事業場の労働者を代表する者を構成員とするものに限る。)が設置された事業場において、当該委員会がその委員の5分の4以上の多数による議決により次に掲げる事項に関する決議をし、かつ、使用者が、厚生労働省令で定めるところにより当該決議を行政官庁に届け出た場合において、第2号に掲げる労働者の範囲に属する労働者を当該事業場における第1号に掲げる業務に就かせたときは、当該労働者は、厚生労働省令で定めるところにより、第3号に掲げる時間労働したものとみなす。
 事業の運営に関する事項についての企画、立案、調査及び分析の業務であつて、当該業務の性質上これを適切に遂行するにはその遂行の方法を大幅に労働者の裁量にゆだねる必要があるため、当該業務の遂行の手段及び時間配分の決定等に関し使用者が具体的な指示をしないこととする業務(以下この条において「対象業務」という。)

  1. 対象業務を適切に遂行するための知識、経験等を有する労働者であつて、当該対象業務に就かせたときは当該決議で定める時間労働したものとみなされることとなるものの範囲
  2. 対象業務に従事する前号に掲げる労働者の範囲に属する労働者の労働時間として算定される時間
  3. 対象業務に従事する第2号に掲げる労働者の範囲に属する労働者の労働時間の状況に応じた当該労働者の健康及び福祉を確保するための措置を当該決議で定めるところにより使用者が講ずること。
  4. 対象業務に従事する第2号に掲げる労働者の範囲に属する労働者からの苦情の処理に関する措置を当該決議で定めるところにより使用者が講ずること。
  5. 使用者は、この項の規定により第2号に掲げる労働者の範囲に属する労働者を対象業務に就かせたときは第3号に掲げる時間労働したものとみなすことについて当該労働者の同意を得なければならないこと及び当該同意をしなかつた当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならないこと。
  6. 前各号に掲げるもののほか、厚生労働省令で定める事項

 前項の委員会は、次の各号に適合するものでなければならない。
 当該委員会の委員の半数については、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者に厚生労働省令で定めるところにより任期を定めて指名されていること。
 当該委員会の議事について、厚生労働省令で定めるところにより、議事録が作成され、かつ、保存されるとともに、当該事業場の労働者に対する周知が図られていること。

 前2号に掲げるもののほか、厚生労働省令で定める要件
 厚生労働大臣は、対象業務に従事する労働者の適正な労働条件の確保を図るために、労働政策審議会の意見を聴いて、第1項各号に掲げる事項その他同項の委員会が決議する事項について指針を定め、これを公表するものとする。
 第1項の規定による届出をした使用者は、厚生労働省令で定めるところにより、定期的に、同項第4号に規定する措置の実施状況を行政官庁に報告しなければならない。
 第1項の委員会においてその委員の5分の4以上の多数による議決により第32条の2第1項、第32条の3、第32条の4第1項及び第2項、第32条の5第1項、第34条第2項ただし書、第36条第1項、第38条の2第2項、前条第1項並びに次条第5項及び第6項ただし書に規定する事項について決議が行われた場合における第32条の2第1項、第32条の3、第32条の4第1項から第3項まで、第32条の5第1項.第34条第2項ただし書、第36条、第38条の2第2項、前条第1項並びに次条第5項及び第6項ただし書の規定の適用については、第32条の2第1項中「協定」とあるのは「協定若しくは第38条の4第1項に規定する委員会の決議(第106条第1項を除き、以下「決議」という。)」と、第32条の3、第32条の4第1項から第3項まで、第32条の5第1項、第34条第2項ただし書、第36条第2項、第38条の2第2項、前条第1項並びに次条第5項及び第6項ただし書中「協定」とあるのは「協定又は決議」と、第32条の4第2項中「同意を得て」とあるのは「同意を得て、又は決議に基づき」と、第36条第1項中「届け出た場合」とあるのは「届け出た場合又は決議を行政官庁に届け出た場合」と、「その協定」とあるのは「その協定又は決議」と、同条第3項中「又は労働者の過半数を代表する者」とあるのは「若しくは労働者の過半数を代表する者又は同項の決議をする委員」と、「当該協定」とあるのは「当該協定又は当該決議」と、同条第4項中「又は労働者の過半数を代表する者」とあるのは「若しくは労働者の過半数を代表する者又は同項の決議をする委員」とする。

労働基準法施行規則第24条の2の2

 法第38条の3第1項の規定は、法第四章の労働時間に関する規定の適用に係る労働時間の算定について適用する。法第38条の3第1項第一号の厚生労働省令で定める業務は、次のとおりとする。

  • 一 新商品若しくは新技術の研究開発又は人文科学若しくは自然科学に関する研究の業務
  • 二 情報処理システム(電子計算機を使用して行う情報処理を目的として複数の要素が組み合わされた体系であつてプログラムの設計の基本となるものをいう。)の分析又は設計の業務
  • 三 新聞若しくは出版の事業における記事の取材若しくは編集の業務又は放送法(昭和二十五年法律第百三十二号)第2条第二十七号に規定する放送番組(以下「放送番組」という。)の制作のための取材若しくは編集の業務
  • 四 衣服、室内装飾、工業製品、広告等の新たなデザインの考案の業務
  • 五 放送番組、映画等の制作の事業におけるプロデューサー又はディレクターの業務
  • 六 前各号のほか、厚生労働大臣の指定する業務

 法第38条の3第一項第六号の厚生労働省令で定める事項は、次に掲げるものとする。

  • 一 法第38条の3第1項に規定する協定(労働協約による場合を除き、労使委員会の決議及び労働時間等設定改善委員会の決議を含む。)の有効期間の定め
  • 二 使用者は、次に掲げる事項に関する労働者ごとの記録を前号の有効期間中及び当該有効期間の満了後三年間保存すること。
    • イ 法第38条の3第1項第四号に規定する労働者の労働時間の状況並びに当該労働者の健康及び福祉を確保するための措置として講じた措置
    • ロ 法第38条の3第1項第五号に規定する労働者からの苦情の処理に関する措置として講じた措置
  • 法第38条の3第2項において準用する法第38条の2第3項の規定による届出は、様式第十三号により、所轄労働基準監督署長にしなければならない。

 裁量労働制を適正に運用して、成果に拘った労使共に納得感の高いことが望ましいですね。

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