マイカー通勤管理の重要性

2022年3月13日

マイカー通勤管理の重要性

マイカ通勤管理の徹底は会社も従業員も守ることに

 マイカー通勤管理のポイントと管理規程雛形のレポートを準備しました。
 ご希望の方は、次のリンクからどうぞ。(08.09.15)

 就業規則は様々な規程に及びますが、意外に重要なのが、「マイカー通勤管理規程」です。
 その概要をみていきましょう。

 人身事故による被害者への賠償金は年々高額化の傾向にあります。
 裁判所が認めた認定損害額の最高額は昭和44年には3,000万円であったものが昭和51年には3億8,000万円にもなっています。
 その後も2億円を超す判決が多く出てきています。

 こうした数字のウラには、加害者の自殺、賠償金に追われ一家離散などの悲劇もかくされています。賠償能力のない事故は、加害者・被害者をはじめその家族まで不幸におとしいれてしまいます。また、物損事故についても、修理費や物価の高騰を背景として、同じく賠償額は上昇の一途にあります。

 安全運転の徹底が第一義です。そして万が一の事態を想定し、人生や会社を狂わせないように周到に準備しておくことが重要です。

1. 企業にもマイカー事故の責任の及ぶことが

 従業員がマイカーを通勤に使う・・・・・随分前から当たり前の光景になりました。
 とくに若い人達の間では、日常の足として気軽に利用されています。そして通勤時の事故も目にしますね。

 「通勤時に車を使用することは、会社としてもかたいことはいえない」と考えていらっしゃるなら大きな間違いかも知れません。
 一見仕事には無関係に使われたマイカーの事故責任を会社が負わされる、という例が多くなっているからです。

 例えば従業員の自動車事故において会社が賠償責任を負わせられた判例には次のようなものがあります。

  • 会社の許諾を得て業務に継続的に使用していたマイカーで、ボーリングを終えたあと業務に戻る途上の事故
     [松山地裁]
  • 会社が維持費、保険料等を負担し業務にも使用していたマイカーで、従業貝が業務時間外の私用運転中に起こした事故
     [東京地裁]
  • 会社のセールスが自動車を必要とする地域で、マイカーを業務に使用し、会社も了承していた場合でその車を私用に運転中起こした事故
     [大阪地裁]
  • 車のセールスマンが業務にも使用していたマイカーで上司とゴルフに行った帰りの事故
     [横浜地小田原支判]

 その他、多くの判例が会社責任を認めています。

 いまや従業員のマイカーと会社とは関係ない、といっていられません。
 ひょっとすると会社のどこかの部門で、つい便利だと通勤の帰りにマイカーで仕事先を回ったり、届けものをしたりしてはいないでしょうか。

 大きな問題を引き起こすまえに、従業員のマイカー通勤管理を徹底しておくことが必要です。

2.マイカー事故による企業の法的責任

 通勤は本来、業務の一部ではありません。にもかかわらず、なぜ会社が責任をもたなければならないのでしょうか。

 従業員がマイカーで人身事故を起こした場合に、会社の賠償責任が問われるのは、次の条文が法的根拠となっています。

民法第715条(使用者の責任)
1 或事業ノ為メニ他人ヲ使用スル者ハ被用者カ其事業ノ執行ニ付キ第三者ニ加ヘタル損害ヲ賠償スル責ニ任ス
 但使用者力被用者ノ選任及ヒ其事業ノ監督ニ付キ相当ノ注意ヲ為シタルトキ又ハ相当ノ注意ヲ為スモ損害カ生スヘカリシトキハ此限ニ在ラス
2 使用者ニ代ハリテ事業ヲ監督スル者モ亦前項ノ責ニ任ス
3 前二項ノ規定ハ使用者又ハ監督者ヨリ被用者ニ対スル求償権ノ行使ヲ妨ケス

自賠法第3条(自動車損害賠償責任)
 自己のために自動車を運行の用に供する者は、その運行によって他人の生命又は身体を害したときは、これによって生じた損害を賠償する責に任ずる。
 ただし、自己及び運転者が自動車の運行に関し注意を怠らなかったこと、被害者又は運転者以外の第三者に故意又は過失があったこと並びに自動車に構造上の欠陥又は機能の障害がなかったことを証明したときは、この限りでない。

自賠法第4条(民法の適用)
 自己のために自動車を運行の用に供する者の損害賠償の責任については、前条の規定によるほか、民法の規定による。

 これらの条文によって、民法第715条にいう“使用者責任”ばかりでなく、自賠法第3条にいう“自己のために自動車を運行の用に供する者「運行供用者」としての責任”(一般的に運行供用者責任といわれている)をも、会社が負わされる趨勢にあるわけです。

3.マイカー通勤と企業の社会的責任

 従業員のマイカーが起こした事故あるいは車そのものを運行することによってもたらされる問題は、いままで述べてきた法的な問題だけにとどまりません。

a.従業員に対する責任

 マイカー通勤をする従業員に対し、会社が通勤管理規程を設けることは、一見、従業員の自由を制限するようにもみえますが、実際は従業員の救済という意味をもっています。
 そして、それは何よりも企業の従業員に対する基本的な責任でもありましょう。

b.事業所周辺住民に対する責任

 現代の企業にとって、地域社会と円滑な関係を保っておくことは企業活動を推進していくうえで欠くことのできない要素になっています。
 事業所周辺の住民にとっては、“子供たちの通学に危険で困る”、“日中は裏の路地まで車を留めて、通行の邪魔になる”、“こわくて子供たちが外で遊べなくなった”など……。
 このような苦情の矛先は一人一人の従業員にではなく、会社に向けられます。
 マイカー通勤を野放しにした結果、不法駐車を行ったり、事故の原囚になったりしては地元住民との摩擦を大きくするだけです。
 こうした問題を未然に防ぐためにも、秩序だった管理が望まれます。

4.マイカー通勤事故における会社責任の実態

 マイカー通勤の従業員が起こした事故に対しどのような場合に会社の責任が問われたのか実例をもとにみてみましょう。

 一般的には“通勤行為は、もはや会社の指揮命令による支配を離れて、従業員の自由な活動範囲に属するものであり、会社のための業務執行ということはできない”として、会社には運行供用者としての責任はない、とするのが通説です。

 しかしながら、次の二点が認められれば、マイカー通勤時であろうとも、会社の運行供用者としての責任を問われます。

  1. マイカー通勤について支配できる状況にあったか。(通行支配権の有無)
  2. マイカー通勤によって利益を得ていたか。(運行利益の享受の有無)

 これらの要件は次第に抽象化される傾向にあり、また最近の判例では、
 1.の要件に重点を置き、
 2.の要件は運行支配の有無が不明確な場合に、
 これを判断するための補完的機能として考える傾向にあります。

5.マイカー通勤管理のポイント

 マイカー通勤管理は会社の予測しえぬ損害を回避するためだけでなく、従業員の安全と生活を守り、事業所周辺住民さらには広く社会全般と良好な関係を保ち、企業活動を円滑に推進するためのものです。

ポイントの第一はマイカーの使用形態を明確にする

 ポイントの第一はマイカーの使用形態を明確にすることです。

 マイカー通勤をすべて禁止できれば問題はありませんが、マイカーの普及や事業所・工場の立地、公共交通機関の不備などから実際には難しい場合が多いようです。従って管理上、マイカーの業務使用を厳禁し、業務には会社の車または公共交通機関を使用させることが必要です。

 業務の性質上マイカーの業務使用が不可欠である場合は、使用条件を明確にしたうえで、従業員の車に自賠責保険だけでなく任意保険※(十分な賠償資力を確保する。)への加入を義務づけることが必要です。
 ※・対人賠償保険金額無制限・対物賠償も無制限等の基準を定める。

 また、保険に加入していることを確認するため、従業員に以下の3点の対策を実施します。

  1. 保険証券の写を提出させる
  2. 同時に免許証のコピー提出も義務付ける
  3. 付保車両にステッカーを貼らせる

 保険に加入しない車にはマイカー通勤を許可しないことが、会社にとっても、従業員にとっても望ましい方法であるといえます。

ポイントの第二は、管理の徹底をはかること

 ポイントの第二は、管理の徹底をはかることです。

 通勤にのみ使用を認める場合の管理のポイントは以下の通りです。

(1)マイカー通勤者の実態を常に把握しておくためにも、「許可制」とし、マイカー通勤を会社に届出させ「登録」を完全に行なうようにする。

(2)通勤車両に社名を書いたり、会社のマークの入ったステッカー、旗などを取りつけさせないようにする。

(3)使用を通勤のみに限定し、会社業務執行[通勤途上における便宜的業務使用を含む]のための使用を一切禁止することを明文で規定し、これを守らせる。

(4)通勤使用に要する、マイカーの維持管理費は、会社で負担しない。
 万一会社で負担する場合にも、「通勤定期券代実費」というようなかたちをとり、「ガソリン代、修理代」等の名目での援助をさける。
 (会社業務使用の対価と解釈され、運行支配権があると推定されるおそれがあるため)

 以上の点を中心に規程類を整備し、厳格な管理を行なえば、通勤途上の事故であっても会社は運行供用者責任を免れることができると考えられます。

ポイントの第三は、安全と事故に対する会社の指導・協力


 ポイントの第三は、安全と事故に対する会社の指導・協力です。

 安全対策・事故防止のためには、定期的な安全講習会や運転適性検査などを会社が主催し、従業貝には社会人であることの自覚をもたせ、安全への心構えを新たにさせることも効果的です。

 この種の催しには地元警察の協力も得られますし、行政書士や損保会社に協力を仰いでも良いでしょう。

最後のポイントは、万一の場合に備えて、従業員のマイカーの任意保険全員加入をはかること

 最後のポイントは、万一の場合に備えて、従業員のマイカーの任意保険全員加入をはかることです。

 既に述べましたように、これからは会社業務に全く使用していない場合でも、ケースによっては会社の責任が追求されかねません。

 また、被害者に対する補償額は年々高くなる一方で、ひとたび事故を起こせば加害者[従業員]の家庭生活、社会人としての生活が破壊されるという事例がマスコミで報道されています。

 このような会社および従業員にとっての悲しむべき事態を避けるため、従業員が任意保険に全員加入することを義務づける、あるいは職場ぐるみで加入できるようにすることこそ、完全なマイカー管理であるといえます。対人賠償と対物賠償だけ付保すればいいのですから、それすらできない人は車を使用させるべきではありません。

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