知らないと怖い!「競業避止義務」と「不正競争防止法」
- 1. あなたの会社の「情報資産」は大丈夫? 注意すべき点は?
あなたの会社の「情報資産」は大丈夫? 注意すべき点は?
1. はじめに:退職・転職に潜む「落とし穴」
- 「優秀な社員が退職して、競合他社へ行ってしまった…」
- 「独立した元社員が、ウチとそっくりのサービスを始めた…」
企業経営者や人事担当者なら、一度はヒヤリとした経験があるかもしれません。
逆に、転職を考えている方は「前の会社のノウハウ、どこまで使っていいんだろう?」と不安に思うこともあるでしょう。
こうしたトラブルの背景には、「競業避止義務」と「不正競争防止法」という二つのルールが深く関わっています。
これらは似ているようで異なるものです。違いを理解し、適切に対応することが、企業にとっても、働く個人にとっても重要です。
この記事では、この二つのルールの違いと関係性、そして具体的な対策について、分かりやすく解説します。
2. ルールその1:「競業避止義務」とは? – 個別の「約束」
- 一言でいうと
会社と従業員(や役員)の間で交わされる、「(退職後しばらくは)ウチと競合するような仕事はしないでね」という個別の「約束」のこと。 - 根拠は?
労働契約書、就業規則、入社時や退職時にサインする「誓約書」など。あくまで契約がベースです。 - 目的は?
会社が持つ独自のノウハウ、大切な顧客情報、技術情報などが、ライバル会社に流れてしまうのを防ぐためです。 - 注意点!
- この「約束」、いつでも有効とは限りません!
- 従業員の「職業選択の自由」を不当に制限するような内容は、無効と判断されることがあります。
- 有効性のチェックポイント
- 期間は長すぎないか? (例:通常1~2年程度)
- 場所の制限は広すぎないか?
- 禁止される仕事の範囲は具体的か?
- その制限に見合う「代償措置」(特別な手当など)はあるか?
例えるなら、家を出ていく人に「ご近所で同じお店を開くのは、しばらく遠慮してね」と念書を書いてもらうイメージです。ただし、その念書の内容があまりに厳しすぎると、法的に無効になる可能性がある、というわけです。
3. ルールその2:「不正競争防止法」とは? – 社会全体の「法律」
- 一言でいうと
フェアな競争を守るための社会全体の「法律」です。「不正な手段」でライバルを出し抜いたり、他社の信用を傷つけたりする行為を取り締まります。 - 根拠は?
日本の「法律」なので、会社と個別の「約束(契約)」がなくても適用されます。 - 守るものは? 特に重要
- 「営業秘密」
- 有名な商品名やサービス名(周知表示・著名表示)
- 商品の形(商品形態模倣)
- 信用を傷つける嘘の情報の流布(信用毀損行為) など
「営業秘密」って何?
会社の「秘密のレシピ」のようなもので、法律上、以下の3つの条件を満たす必要があります。
- 秘密として管理されている(秘密管理性)
関係者以外アクセスできないようにしている、マル秘マークがついている、秘密保持契約を結んでいるなど。 - 事業に役立つ情報(有用性)
顧客リスト、製造ノウハウ、原価情報、開発中の情報など。 - 一般に知られていない(非公知性)
ネット検索などで簡単に見つからない情報。
どんな行為がNGか?
不正な手段(窃盗、詐欺、ハッキングなど)で営業秘密を手に入れること。
「これは会社の秘密だ」と知りながら(または普通なら気づくはずなのに)、不正な目的で使うこと、他人に漏らすこと。
→ 退職者が、在職中に正当に知った営業秘密を、退職後に不正な目的で使う場合もこれに当たります!
例えるなら、社会のルールとして「他人の家に忍び込んで秘密のレシピを盗んだり、盗まれたと知っていてそのレシピで商売したり、正当に教えてもらったレシピを悪用したりしてはいけません!」と法律で決められているイメージです。契約書がなくても罰せられます。
4. 「競業避止義務」と「不正競争防止法」を表で比較
項目 | 競業避止義務 | 不正競争防止法 |
---|---|---|
根拠 | 契約 (約束) | 法律 (社会全体のルール) |
禁止する行為 | 競業行為そのもの (契約内容による) | 不正な手段を用いた競争行為 (営業秘密侵害など) |
誰に適用? | 契約を結んだ当事者間 | すべての事業者・個人 |
有効性の判断 | 契約内容の合理性 (期間・場所・代償等) | 法律の要件を満たすか (営業秘密の3要件等) |
違反したら? | 契約に基づく差止め、損害賠償など | 法律に基づく差止め、損害賠償、刑事罰もあり |
5. どう関係する? – 企業を守る「二重の盾」
この二つのルールは、特に「退職者が会社の営業秘密を使って競合行為をする」という場面で重なり合います。
- 例: 退職者が、在職中にアクセスできた「極秘の顧客リスト(=営業秘密)」を持ち出し、それを使って独立開業し、元の会社の顧客にアプローチした場合…
- → 競業避止義務違反 (もし有効な契約があれば)
- → 不正競争防止法違反 (営業秘密の不正使用)
の両方に該当する可能性があります。
ポイントは「補完関係」にあること!
競業避止の「契約」がなくても、営業秘密の不正利用があれば、「法律」である不正競争防止法で対抗できます。
逆に、「営業秘密」とまでは言えない情報(一般的なノウハウなど)でも、有効な「競業避止契約」があれば、競業行為自体を差し止められる可能性があります。
競業避止契約の有効性が裁判で争われても、不正競争防止法違反が認められれば、差止めや損害賠償請求が可能です。
例えるなら、企業の重要な情報資産を守るために、「競業避止義務(契約)」という内側の鍵と、「不正競争防止法(法律)」という外側の警報システムの両方を備えているイメージです。二重の備えで、より強固に守ることができます。
6. 企業がやるべき「守りを固める3つのステップ」
「営業秘密」の管理を徹底する!
- 何が自社の「営業秘密」なのかを明確に定義する。
- アクセス権限を設定し、部外秘であることを明示する(マル秘表示など)。
- 秘密保持に関するルールを定め、従業員に周知する。
→ これが不正競争防止法で保護されるための大前提です!
「競業避止義務契約」を賢く使う!
- 本当に必要な従業員か、役職やアクセス情報に応じて検討する。
- 期間、場所、業務範囲を「合理的」な範囲に限定する(欲張りすぎない)。
- 可能であれば、代償措置(退職金への上乗せ等)を検討する(契約の有効性が高まります)。
- 迷ったら、弁護士などの専門家に相談を!
入社・退職時の手続きを確実に!
- 入社時に、秘密保持義務についてしっかり説明し、誓約書を取得する。
- 退職時には、改めて秘密保持義務を確認し、会社情報の返却・破棄を徹底させる誓約書を取得する。
7. 従業員・退職者が気をつけること-トラブルに巻き込まれないために
- 「契約書」をよく読む!
入社時や退職時にサインした書類(労働契約書、誓約書など)に、競業避止義務に関する記載がないか確認しましょう。 - 会社の「秘密」は持ち出さない・漏らさない!
在職中に知った会社の「営業秘密」はもちろん、顧客情報や内部資料などを、退職後に不正に利用したり、転職先や第三者に漏らしたりしてはいけません。これは不正競争防止法違反や、元の会社との契約違反になる可能性があります。 - 会社の情報はきちんと返す!
退職時には、パソコン内のデータ、USBメモリ、紙の資料など、会社の情報はすべて返却または指示に従って確実に削除・破棄しましょう。私物のデバイスに会社の情報が残っていないかも要確認です。 - 迷ったら専門家に相談!
転職先での業務が、前の会社の競業避止義務に抵触しないか?
自分が持っている知識や経験は、使っても問題ない範囲か?
不安な場合は、弁護士などの専門家に相談することをおすすめします。
8. まとめ:ルールを知って、公正な競争を
「競業避止義務」は個別の約束、「不正競争防止法」は社会全体の法律です。
どちらも企業の重要な情報資産を守り、公正な競争環境を維持するために大切なルールです。
企業は、適切な情報管理と契約によって自社の利益を守る努力を、従業員(退職者)は、ルールを理解し、誠実に行動することが求められます。
お互いがこれらのルールを正しく理解し、尊重することが、無用なトラブルを避け、健全な経済活動につながる第一歩と言えるでしょう。
両者を組み合わせて強固な保護を!
- 競業禁止契約
退職者の行動を制限(但し合理性が必要)。 - 不正競争防止法
情報漏洩や悪意ある競合を法的に封じる。 - 予防策
- 従業員教育
- 営業秘密の管理強化(アクセス権限・暗号化)
「契約」と「法律」の両輪でリスクを最小化して会社の防衛することをお勧めします。
参考リンク
※文書作成日時点での法令に基づく内容となっております。
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