2025年 第9次社会保険労務士法改正を徹底解説

2025年7月4日

目次

2025年 第9次社会保険労務士法改正の概要

 第9次社会保険労務士法改正法案は、令和7年(2025年)6月18日に参議院本会議で可決・成立し、「実現」しました。
 私たちの働き方や企業経営は、経済のグローバル化や働き方の多様化が進む現代において、労働者と企業の間で発生する個別労働関係紛争は増加の一途をたどっています。

 このような背景から、迅速かつ的確な問題解決を可能にするため、社労士の業務範囲拡大と役割の明確化を目的として法改正が行われました。本記事では、この重要な法改正の概要と、それが各界にどのような実務的な影響をもたらすのかをわかりやすく解説します。

 社労士はもっともっと勉強して、かつ難解な業務をこなして、法の要求に真に耐えられる技量を身に付けないといけませんね。

1.2025年 社労士法改正の主要ポイント

 今回の社労士法改正は、社会の変化に対応するための多岐にわたる変更を含んでいます。

  1. 社労士の使命に関する規定の新設

     法第1条の目的規定が使命規定に改められ、社労士の社会的・公共的役割が法律に明記されました。これにより、事業の健全な発達と労働者等の福祉の向上に寄与することが強調されています。

  2. 労務監査に関する業務の明記

     現行法に「労働及び社会保険に関する法令の遵守の状況の確認、労務管理の状況の監査」という文言が追加され、労務コンプライアンスの徹底や労務監査が社労士の業務の中核であることが明確化されました。

  3. 社会保険労務士による裁判所への出頭及び陳述に関する規定の整備

     特定社会保険労務士が裁判所において、事業主や労働者を補佐するために出頭し、陳述を行うことが可能となる「補佐人制度」が改めて注目され、その規定が整備されました。

  4. 「社労士」という名称の使用制限規定への追加

     国家資格を持たない者が「社労士」に類似した名称を用いることで生じる国民の不利益を防ぐため、「社労士」という文言が法律上の名称制限規定に追加されました。

 第9次社労士法改正では、社労士の「使命に関する規定」が新設され、「労務監査に関する業務」が明記されました。さらに、「社労士」という文言が名称制限規定に追加され、国家資格を持たない者が類似名称を用いることを防止し、国民の信頼を確保することが目的とされています。

2.各界への実務的な影響

  1. 個別労働関係紛争解決における役割の拡大

     働き方の多様化により労働トラブルが増加する中、社労士は紛争解決手続きの代理業務を強化し、より多くのケースに対応できるようになります。これにより、社労士の専門性が評価され、労働者と事業主双方にとって信頼性の高い紛争解決が期待されます。

  2. 労務監査業務への影響

     社労士が企業の労務管理に深く関与する機会が増え、特に労働条件明示ルール変更や裁量労働制の新要件に対応するための監査が重要になります。企業は法的リスクを低減し、働きやすい環境を整備することで、労働者の満足度向上につながることが期待されます。

  3. 中小企業への実務支援の変化

     労働時間管理や社会保険適用拡大に関する支援が増加すると見込まれています。人手や専門知識が不足しがちな中小企業にとって、複雑化する法制度への対応を社労士が専門的に支援する需要がさらに高まるでしょう。

  4. 雇用主へのサポート強化

     トラックドライバーの時間外労働上限規制や障害者雇用率の引き上げなど、直近の課題解決において社労士の役割が重要です。助言や書類作成支援を通じて、社労士は企業経営に不可欠なパートナーとしての地位を強化するでしょう。

3.知っておきたい行政手続きと新たな義務

 法改正に伴い、社労士にはいくつかの新たな義務や対応が求められます。

  1. 補佐人制度と実務への導入

     裁判所での補佐人としての出頭・陳述が可能になり、社労士は新たなスキルや知識の習得が求められます。

  2. 目的価額上限引き上げの影響

     特定社労士は高額な紛争案件への対応能力を求められるようになります。

  3. 行政から要求される監督体制の強化

     事業主に対する監督義務が強化され、社労士は法令遵守の監視や是正を促す役割を担います。

  4. 手続き変更に対応するための準備

     業務フローや関連書類の見直し、そして社労士自身の継続的な学習が不可欠です。

4.使命規定の新設とその目的

 第9次社会保険労務士法改正において、社会保険労務士の「使命に関する規定」が新たに設けられました。これは、これまでの法第1条にあった「目的規定」を「使命規定」へと変更するものです。

 この改正目的は、社会保険労務士が果たすべき「社会的公共的役割」を法律に規定することにより、社会保険労務士法の基本的原則を明確にし、その使命を示すことにあります。これにより、社労士が、適切な労務管理の確立、個人の尊厳が保持された適正な労働環境の形成に寄与し、事業の健全な発達と労働者等の福祉及び社会保障の向上・増進、ひいては豊かな社会の実現に資することができるよう、制度が整備されます。

 経済のグローバル化や働き方の多様化といった社会の変化に対応し、社労士の業務範囲を拡大し、役割の明確化を図ることが挙げられています。これにより、社労士が事業主と労働者の間に立つ専門家としての役割が強化される意義が強調されています。

使命規定がもたらす「重さ」(期待される役割と専門性の強化)

 この「使命規定」の新設は、社労士の職責のより公式かつ明確な表明であり、その業務が単なる手続き代行に留まらない、公共的な役割を担う専門職であることを強く打ち出すものです。

  • 職務内容の明確化と業務範囲の拡大

     第9次改正では、労働及び社会保険に関する法令の遵守状況の確認や、労務管理状況の監査が社労士の職務内容として明記されます。また、特定社労士が代理可能な個別労働関係紛争の目的価額上限が従来の約120万円から160万円に引き上げられ、裁判所における補佐人としての出頭・陳述が可能となるなど、関与できる業務の幅が広がり、より多くの労働問題に対応可能となります。これらの変化は、社労士が担う役割の「重さ」が増すことを意味します。

  • トラブル解決の専門家としての役割強化

     紛争解決手続きにおける社労士の専門性がさらに活用されることが期待され、トラブル解決の選択肢が広がります。特に、法的手続きに不慣れな中小企業や個人にとって価値あるサポートとなるでしょう。

  • 雇用主へのサポート強化

     直近の労働課題解決において、社労士の役割は重要であり、企業経営に不可欠なパートナーとしての地位を強化するとされています。

5.注意点:懸念の声も

 一方で、今回の法改正に対しては、労働者保護の観点から懸念の声も上がっています。

  • 日本労働弁護団の反対

     日本労働弁護団は、社労士の「使命に関する規定の新設」、「労務監査に関する業務の明記」、「裁判所への出頭及び陳述に関する規定の整備」に反対しています。彼らは、社労士が弁護士のような労働問題に関する専門的な試験や教育訓練を受けておらず、憲法や民法などの基本法の知識が不足しているため、適切な法解釈や紛争解決に関与できないと主張しています。また、紛争解決のプロではない社労士の介入が紛争を拡大・長期化させるリスクを指摘しています。

  • 連合(日本労働組合総連合会)の懸念

     連合もまた、社労士の業務明確化は評価しつつも、「労働者保護の観点で懸念が残る」と表明しています。特に、「労務監査」については、社労士試験に労働組合法などの科目がなく、十分な知識があるか疑義を呈しています。労働審判手続きでの補佐人としての出廷についても、社労士による団体交渉への不当介入があった状況を踏まえ、実務の混乱を懸念しています。厚生労働省や業界団体に対し、これらの懸念を真摯に受け止め、規制整備や自主規制機能の強化を求めています。

6.社会保険労務士の具体的対策

 法改正に適切に対応するためには、計画的な準備が不可欠です。

  • リスク管理

     労働条件明示ルール変更などで労使間トラブルのリスクが高まるため、改正内容を正確に理解し、影響をシミュレーションした上で対策を講じることが重要です。

  • 定期的な学習と情報収集

     社労士自身が最新の法改正情報を継続的に学習し、業界セミナーや専門誌、行政機関の資料を活用した情報収集を行うことが、的確なアドバイス提供のために不可欠です。

  • 業務フローや書類整備の見直し

     雇用契約書や就業規則などの書類を改正内容に合わせて見直し、新たな報告義務や手続き変更に効率的に対応できるよう業務プロセス全体を再検討することが求められます。

  • 顧客対応における体制強化

     急増する相談や依頼に対応できるよう、新制度に対応したサービスメニューの構築、スタッフ増員、オンライン相談窓口の拡充、顧客管理ツールの導入など、組織体制の強化が急務になることでしょう。

  • 長期的視点での業務発展計画

     特定社労士としての専門性強化、他士業との連携、労務管理のIT化・DX推進などを通じて、業務の発展と顧客満足度の向上を目指す長期的なビジョン策定が重要です。

7.社会保険労務士法改正の歴史

 社会保険労務士法は1968年(昭和43年)に誕生して以来、今回の改正で9回目の法改正となります。これまでにも提出代行業務の追加(1次)、事務代理の新設(3次)、あっせん代理業務の追加(6次)、紛争解決手続き代理業務の追加や特定社会保険労務士の創設(7次)、紛争目的価額の上限引き上げ(60万円から120万円へ)や補佐人制度の創設(8次)など、段階的に業務範囲の拡大や社会的地位の向上が図られてきました。

 今回の第9次改正は、社労士の役割を一層強化し、多様化する社会のニーズに対応するための重要なステップですが、その実務的な運用と他士業や労働者保護との関係性において、今後の動向が注目されます。ひょっとすると出来る人と出来ない人の格差がより大きくもなることでしょう。

8.2025年の社労士法改正のまとめ

 2025年の社労士法改正は、社会保険労務士という専門職の役割を大きく広げ、企業の人事労務管理、そして働く人々の労働環境に大きな影響を与えるものです。変化を前向きに捉え、積極的に対応することで、社労士は企業にとってさらに不可欠なパートナーとなり、より良い社会の実現に貢献できるでしょう。

 事業主の皆様も、この改正を機に、社労士との連携を強化し、法令遵守と働きやすい環境整備を推進していくことが求められます。

 しかし繰り返しになりますが、現状「使命規定」を担える社労士は少数であり、また「労務監査」について自信を持って臨める社労士は少数です。まして法廷に立とうと思ったら、日本労働弁護団さまの反対にある通りです。
 我々はもっと必死に死に物狂いになって勉強しないといけないでしょう。

参考リンク

全国社会保険労務士連合会:第9次社会保険労務士法改正が実現

衆議院:社会保険労務士法の一部を改正する法律案

連合:社会保険労務士法改正法の成立に対する談話

日本労働弁護団:社労士法改正案に対する緊急声明

※文書作成日時点での法令に基づく内容となっております。

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