熱中症対策強化のポイント(令和7年6月1日改正施行

2025年4月24日

令和7年6月1日に労働安全衛生規則の一部改正

 夏の暑さが厳しくなるにつれて、職場での熱中症リスクが高まります。特に屋外での作業はもちろん、室内でも注意が必要です。近年、職場での熱中症による痛ましい死亡災害が増加しており、令和7年6月1日からは、労働安全衛生規則の一部改正により、事業者に新たな熱中症対策が義務付けられることになりました。

 今回は、なぜ対策が強化されるのか、そして具体的に何が変わるのかを、厚生労働省の資料を基に解説します。

なぜ今、職場の熱中症対策が強化されるのか?

 熱中症による死亡災害は、残念ながら近年増加傾向にあります。特に、死亡災害が2年連続で30人を超えており、労働災害全体の死亡者数の約4%を占める重要な課題となっています。

 これらの熱中症死亡災害の原因を分析した結果、ほとんどが「初期症状の放置・対応の遅れ」によるものであることが分かっています。初期の段階で異変に気づき、適切に対応できていれば、重篤化を防げたケースが多いのです。

 現行法令では、塩や飲料水の備え付けなどは義務付けられていますが、熱中症の疑いがある人を見つけたり、重篤化を防ぐための具体的な対応については明確な定めがありませんでした。

改正ポイント:「見つける」「判断する」「対処する」の徹底!

 今回の法改正の大きな目的は、熱中症による健康障害の疑いがある作業者を早期に発見し、その状況に応じて迅速かつ適切に対処することで、熱中症の重篤化を防止することです。

 このために、事業者は以下の3つのステップを現場で確実に行うための準備が義務付けられます。基本的な考え方は、

  1. 「見つける」→
  2. 「判断する」→
  3. 「対処する」

 のフローです。

義務付けられる具体的な対策は?

 熱中症による健康障害を生ずるおそれのある作業(※)を行う事業者には、以下の「体制整備」、「手順作成」、「関係作業者への周知」が義務付けられます。

(※)対象となる作業とは?
 具体的には、WBGT(湿球黒球温度)が28度以上または気温が31度以上の環境下で、継続して1時間以上または1日当たり4時間以上行われることが見込まれる作業が対象となります。
 ただし、作業強度や着衣の状況によっては、この基準に該当しなくても熱中症のリスクが高まるため、同様の対応が推奨されています。

1. 「見つける」ための報告体制と発見のための措置

早期発見のための体制整備

 作業者自身が熱中症の自覚症状を報告したり、他の作業者の異変に気づいた人がその旨を報告したりするための体制(連絡先や担当者など)を事業場ごとにあらかじめ定めておく必要があります。

関係者への周知

 定められた報告体制を関係作業者全員に周知しなければなりません。

発見のための措置の推奨

 報告を受けるだけでなく、事業場が積極的に熱中症の症状がある作業者を見つけるための措置として、職場巡視やバディ制、ウェアラブルデバイスの活用、定期的な声かけや連絡などが推奨されています。

2. 「判断する」「対処する」ための実施手順作成

手順の内容

 熱中症の疑いがある作業者を発見した場合に、迅速かつ的確に判断・対処できるよう、以下の内容を含む実施手順をあらかじめ作成する必要があります。

作業からの離脱

  1. 身体の冷却
  2. 必要に応じた医師の診察や処置を受けさせること
  3. 緊急連絡網、緊急搬送先の連絡先や所在地
  4. その他、症状の重篤化を防ぐために必要な措置

関係者への周知

 作成した実施手順を関係作業者全員に周知しなければなりません。

熱中症のサインを見逃さない!

 早期発見のためには、作業者一人ひとりが熱中症のサインを知っていることが重要です。以下のような症状に気づいたら、「いつもと違う」と感じたら、熱中症を疑いましょう。

  • 自覚症状
    めまい、筋肉痛・筋肉の硬直(こむら返り)、頭痛、不快感、吐き気、倦怠感、高体温など。何か変だな、と感じたらすぐに報告することが大切です。
  • 他覚症状
    ふらつき、生あくび、失神、大量の発汗(または汗が出ない)、痙攣など。周りの人が見て気づくサインです。
  • 意識の異常
    返事がおかしい、ぼーっとしている、普段と様子がおかしい。意識がはっきりしない場合は、特に危険なサインであり、異常ありとして扱うことが適当です。

もし「危ないかも」と思ったら? 対応フローを確認!

 熱中症のおそれがある作業者を発見した場合の一般的な対応フローは以下の通りです。

1)発見

 作業員の様子がおかしいと感じるなど、熱中症のおそれがある者を発見します。

2)判断

 症状を確認します。意識の有無だけで判断せず、返答がおかしい、ぼーっとしているなど、普段と違う様子があれば異常ありと判断します。判断に迷う場合は、安易な判断は避け、#7119などを活用して専門機関に相談することも適当です。

3)対処

  1. 作業からの離脱と身体冷却(体を冷やす)を行います。
  2. 自力で水分が摂取できる場合は、水分補給を促します。
  3. 自力での水分摂取ができない場合や、意識がおかしいなど異常がある場合は、医療機関への搬送を検討し、必要に応じて救急隊を要請します。
  4. 医療機関への搬送中や経過観察中は、一人にせず、常に状態を確認することが重要です。

熱中症対策強化のまとめ

 今回の労働安全衛生規則の改正は、職場で働く人々の命と健康を守るための重要な一歩です。令和7年6月1日からの施行に向けて、事業者も作業者も、今回の改正内容を理解し、職場で連携して熱中症対策を一層強化していくことが求められます。特に、早期発見のための体制整備と、異変に気づいた際の迅速かつ適切な対応手順の作成・周知は、重篤化を防ぐ上で非常に重要です。
 この夏も、職場で安全に過ごせるよう、一人ひとりが熱中症の知識を持ち、備えを進めたいものです。

熱中症対策強化の罰則

 適正に行わなかった場合の罰則(労働安全衛生法第119条・6月以下の懲役または50万円以下の罰金)も措置されています。

 前述の「報告体制の整備」、「実施手順の作成」、「関係者への周知」への対応を怠った場合、法人や代表者らに6ヶ月以下の懲役又は50万円以下の罰金が科せられる可能性があります。

根拠条文・参考リンク

第六百十二条の二(熱中症を生ずるおそれのある作業)
 事業者は、暑熱な場所において連続して行われる作業等熱中症を生ずるおそれのある作業を行うときは、あらかじめ、当該作業に従事する者が熱中症の自覚症状を有する場合又は当該作業に従事する者に熱中症が生じた疑いがあることを当該作業に従事する他の者が発見した場合にその旨の報告をさせる体制を整備し、当該作業に従事する者に対し、当該体制を周知させなければならない。
2 事業者は、暑熱な場所において連続して行われる作業等熱中症を生ずるおそれのある作業を行うときは、あらかじめ、作業場ごとに、当該作業からの離脱、身体の冷却、必要に応じて医師の診察又は処置を受けさせることその他熱中症の症状の悪化を防止するために必要な措置の内容及びその実施に関する手順を定め、当該作業に従事する者に対し、当該措置の内容及びその実施に関する手順を周知させなければならない。

厚生労働省:職場における熱中症対策の強化(令和7年6月1日施行)

厚生労働省:熱中症予防のための情報・資料サイト

※文書作成日時点での法令に基づく内容となっております。

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