作成日:2019年01月13日
坂本工業では、これから年度末に向けて大口の注文が入る見込みがあり、36協定で締結している延長することができる時間数を超えて、残業をさせる可能性がある。そこで、社労士に36協定の特別条項を運用する際の注意点を確認することにした。
「木戸部長」
こんにちは。年度末に向けて、大口の注文が入る見込みがあり、36協定で締結している1ヶ月45時間の時間数(以下、「延長時間」という)を超える可能性が出てきました。パートタイマーの募集もしているのですがなかなか採用ができず、残業で乗り切る必要がありそうです。この延長時間を超えて残業させてしまったとしても問題ないのでしょうか。
いまのお話では、予想外の大口の注文が入りそうということですね。残業は原則として、36協定の限度時間の範囲とする必要がありますが、特別条項を結んでおくことで、そのような特別な事情がある場合には、年6回まで延長時間を超えて残業をさせることができます。
「木戸部長」
特別条項ですか?
はい、そうです。お手元に36協定があるようですので、確認しておきましょうか。私の記憶では、36協定を作成する際に、大口の受注が入るかも知れないとお聞きし、特別条項を設けた記憶があります。
「木戸部長」
どの部分でしょうか。
えーっと、やはり設けてありますね。こちらの部分です。
[特別条項]
一定期間における延長時間は、1ヶ月45時間、1年360時間とする。ただし、通常の生産量を大幅に超える受注が集中し、特に納期がひっ迫したときは、労働者の過半数代表者に通知を行うことにより、6回を限度として1ヶ月80時間まで、1年750時間までこれを延長することができる。なお、延長時間が1ヶ月45時間を超えた場合の割増賃金率は25%、1年360時間を超えた場合の割増賃金率は25%とする。
「木戸部長」
そうでした、思い出しました。これまでは何とか1ヶ月45時間の延長時間を超えないようにしてきましたが、今回はまさに「通常の生産量を大幅に超える受注が集中し、特に納期がひっ迫したとき」に該当するのでこの特別条項を適用するということですね。実際の手続きについては、どのようにしたらよいのでしょうか?
締結した36協定にあるように、労働者の過半数代表者に対して、事前に特別条項を適用する旨を通知する必要があります。例えば、実際に2月に大口の注文が入り、残業時間が45時間を超える可能性が出てきたのであれば、その対象となる従業員を洗い出して、特別条項を適用する旨を通知することとなります。
「坂本社長」
特別条項の適用単位は、製造部などの単位ではなく、従業員単位となるのですか。
御社の特別条項の内容は、1年に6回までとなっており、この回数は従業員単位となります。一方で、通知の中身については特に制約は設けられていません。
「木戸部長」
なるほど。ところで、通知は労働者の過半数代表者にのみ行えばよいのでしょうか。特別条項が適用になる従業員に対して伝える必要はありますか。
実務的には、過重労働の問題もありますので、残業が増えるという話を上長から伝えてもらった方がよいと考えますが、特別条項を適用するときの手続きにおいては、特別条項が適用となる従業員に通知する必要までは求められていません。また、36協定は労働基準監督署へ届出の必要がありますが、この通知の届け出は必要ありません。
「木戸部長」
そうですか。それでは、労働者の過半数代表者に口頭で伝えておけばよいですね。
そこはやはり書面で残しておくべきでしょう。特別条項を適用するときには、手続きを行った時期、内容、相手方等を明らかにしておく必要があるとされており、明らかにする方法としては書面等となっています。口頭では記録が曖昧になりやすいため、書面の内容を確認して渡すべきだと考えられます。
「坂本社長」
なるほど。多少、手間にはなるものの書面を2部作成し、お互いの確認印を押した上で、会社と労働者の過半数代表とで保管をしておくといいですね。
そうですね。そのような方法を採っておかれるとよいと思います。また、特別条項が適用できるときであっても、過重労働のリスクはあります。健康管理はいつも以上に留意してください。
「木戸部長」
承知しました。ひとまず、大口の受注を断らずに済むことでほっとしています。ありがとうございました。
>>次回に続く
働き改革関連法の成立・施行により、新たに労働時間の延長や休日労働を適正なものとするための指針が定められました。この指針に基づいて、会社が36協定の締結に当たって留意すべき事項をまとめると以下の8点が挙げられています。
- 時間外労働・休日労働は必要最小限にとどめる。
- 使用者は、36協定の範囲内であっても労働者に対する安全配慮義務を負う。また、労働時間が長くなるほど過労死との関連性が強まることに留意する必要がある。
- 時間外労働・休日労働を行う業務の区分を細分化し、業務の範囲を明確にする。
- 臨時的な特別の事情がなければ、限度時間(月45時間・年360時間)を超えることはできない。限度時間を超えて労働させる必要がある場合は、できる限り具体的に定めなければならない。この場合にも、時間外労働は、限度時間にできる限り近づけるように努める。
- 1ヶ月未満の期間で労働する労働者の時間外労働は、目安時間(※)を超えないように努める。
(※)1週間:15時間、2週間:27時間、4週間:43時間 - 休日労働の日数及び時間数をできる限り少なくするように努める。
- 限度時間を超えて労働させる労働者の健康・福祉を確保する。
- 限度時間が適用除外・猶予されている事業・業務についても、限度時間を勘案し、健康・福祉を確保するよう努める。
今後は、この指針に基づいて行政官庁により必要な助言・指導が行われることになっており、中小企業に対しては中小企業における労働時間の動向、人材確保の状況、取引の実態等を踏まえて行うように配慮することとなっています。
参考リンク
厚生労働省「情報通信技術を利用した事業場外勤務の適切な導入及び実施のためのガイドライン」
https://www.mhlw.go.jp/content/000350731.pdf
作成日:2019年01月13日
※文書作成日時点での法令に基づく内容となっております。
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