作成日:2018年10月12日

企業に求められる自然災害対策
会話形式で学ぶ人事労務の基礎知識

 先日、台風により、坂本工業では従業員を早く帰宅させるなどの対応を取った。また、今年は地震や豪雨などの災害が頻発していることから、この機会に企業に求められる災害対策について社労士に相談することにした。

「木戸部長」
 こんにちは。先日の大型台風来襲の際、安全を確保するために従業員を終業時刻よりも早く帰宅させました。

「社労士」
 そうでしたか。その際は公共交通機関も早めに運転中止を公表していましたので、御社としても早めの判断をされたのですね。

「木戸部長」
 はい。おかげさまで従業員の中から帰宅難民を出すことなく、台風を乗り切ることができました。ただ、台風の対応についてはいつも判断に悩みます。
 また今年は地震や豪雨などの災害が頻発していることから、この機会に出社や帰宅を指示するルール作りをしておきたいと考えています。

「社労士」
 そうですね。最近は災害発生等の緊急事態が発生したときのBCP(事業継続計画)も話題になりますが、ここではまず災害発生時の従業員への対応を考えることにしましょう。

「木戸部長」
 わかりました。

「社労士」
 まず、出社を控えさせたり帰宅を指示したりするルールですが、正解はありません。台風の場合、例えば高い確率で暴風域に入る可能性がある時間を目安に、○時間前に判断するといった目安で判断することを示しておくことで、職場の混乱を抑えることができます。

「木戸部長」
 確かにどのようなタイミングで判断するかを知っておくと、少しは見通しが立ちますね。具体的にはどのように決定するのでしょうか。

「社労士」
 はい。例えば台風を想定するのであれば、最近は天気予報の精度が向上しているので、事前に分かっているのであれば翌日の出社を午後からとしたりすることが考えられます。
 出社後であれば従業員が安全に帰宅できる状況かも考慮して決定します。もちろん実際の判断はケースバイケースであり、従業員からの問合せも増えるものです。
 「社長が決定をし、社長が不在のときは総務部長に一任する」といった決定のルールを決めておくことも重要になるのでしょう。

「坂本社長」
 確かに誰に聞けばよいか分からないという状況が不安にさせますね。

「社労士」
 そうですね。これらに加えて、従業員各自の事情もあると思いますので、個別事情に関しては上長に判断を委ねることも考えられます。
 また、その決定を従業員全員に周知されるような仕組みづくりが求められます。
 例えば、外出中の従業員には、スマートフォンへの一斉メールにより周知をすることなどが仕組みづくりとして考えられます。

「木戸部長」
 一斉メールですか・・・。確かに今回も、外出先から戻ってきたら多くの同僚が帰宅していたということを話していた従業員がいました。
 以前、従業員の連絡先と個人のメールアドレスを収集し、緊急連絡網を作成しましたが、その後のメンテナンスができていないです。さっそくメンテナンスを行い、いざというときに機能するように考えてみます。

「社労士」
 その他、帰宅困難者の対応があります。帰宅すること自体が危険で、また遠方のため帰宅できないというケースでも出てくると思います。
 無理に帰宅を試みることで帰宅難民となり、危険な状態に陥ることにもなりかねません。
 そのときの対応として、社内で一定期間滞在できるように備蓄を用意しておくことが重要になります。
 9月1日が防災の日ということもあり、自宅の防災対策の見直しをされた方も多いと思いますが、会社の防災対策も行っておきたいですね。

「坂本社長」
 確かに会社でも防災対策は必要ですね。具体的にはどのような準備をしておくと良いのでしょうか?

「社労士」
 例えば東京都防災ホームページに「帰宅困難者対策ハンドブック」というものがあり、ここでは大規模な災害の発生に際し、帰宅が困難となった従業員が施設内に留まれるように3日分の水・食料等を備蓄しておくことを求めています。
 3日分の備蓄量の目安としては以下のとおりです。

  • 水 :1人当たり1日3リットル、計9リットル
  • 主食:1人当たり1日3食、計9食
  • 毛布:1人当たり1枚
  • その他の品目:物資ごとに必要量を算定

「木戸部長」
 従業員の人数分となると結構な量になり、保管場所の確保も必要ですね。

「社労士」
 そうですね。また、従業員の人数分だけでなく、来客中の顧客・取引先の方などの保護のために、10%程度の量を余分に備蓄すると更によいですね。

「木戸部長」
 なるほど。来客中に災害に遭うこともありますので、自社以外のことも念頭におきながら対応したいと思います。

「社労士」
 また、このハンドブックには、事業継続等の要素も加味し、企業ごとに必要な備蓄品として、例えば非常用発電機、燃料、工具、ヘルメットなどが例示されており、帰宅困難者対策チェックリストなどもありますので参考になるでしょう。

「木戸部長」
 わかりました。参考にしながら対策を進めてみます。

>>次回に続く


菅野哲正社会保険労務士によるワンポイントアドバイス

 本文で少し触れたBCP(事業継続計画)について補足しておきましょう。
 BCPとは、緊急事態を想定し、事業資産の損害を最小限にとどめつつ、事業の継続や早期復旧のために平時に行うべき行動や緊急非常時における事業継続のための方法や手段などをあらかじめ取り決め、それを文書化したものになります。

 例えば、中小企業庁が発行しているパンフレット「中小企業BCPの策定促進に向けて~中小企業が緊急事態を生き抜くために~」に、BCP取組状況チェックリストがあり、人的資源、物的資源(モノ)、物的資源(金)、物的資源(情報)、体制等の5つのカテゴリーでチェックができるようになっています。
 このようなチェックリストを用いるなどして、BCPについても取組みを進めていきましょう。

参考リンク

東京都防災ホームページ「帰宅困難者対策ハンドブック」
http://www.bousai.metro.tokyo.jp/bousai/1000031/1001369.html

中小企業庁パンフレット「中小企業BCPの策定促進に向けて~中小企業が緊急事態を生き抜くために~」
http://www.chusho.meti.go.jp/bcp/2012/download/24fyBCP.pdf

作成日:2018年10月12日

※文書作成日時点での法令に基づく内容となっております。

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