作成日:2018年11月11日

副業・兼業を検討する際の留意点
会話形式で学ぶ人事労務の基礎知識

 坂本工業では、従業員から「副業をしたい」という申出があった。具体的な対応方法について迷ったため、社労士に相談することにした。

「木戸部長」
 先日、従業員の1名から「親戚の会社の手伝いをお願いされたので、副業を認めて欲しい」という相談がありました。これまでこのような相談はなかったので、どのように対応すればよいか悩んでいます。

「社労士」
 なるほど。親戚の会社とのことでしたが、どのようなお仕事をされているのでしょうか。

「木戸部長」
 はい。自動車部品を作っている工場とのことで、従業員数名を雇ってやっているようです。受注が増加している一方で、人手不足で人材が採用できず残業をしても生産が追いつかないため困っているとのことでした。
 相談してきた従業員は、学生時代にその会社でアルバイトをしていた経験があるようで、土曜日の1日だけでも手伝ってくれると助かると頼み込まれたようです。

「社労士」
 そうでしたか。いまのお話ですと、毎週土曜日だけということですね?

「木戸部長」
 そうですね。本人は今週末から1ヶ月間、土曜日だけアルバイトという形で働きたいという申出でした。働く時間は昼間7~8時間程度かと思います。

「坂本社長」
 木戸部長、確か、彼は奨学金を借りて大学を卒業した従業員だった記憶があります。以前、「奨学金を早めに返済をしたい」というようなことを言っていた覚えがあるので。そのような状況であれば、何とかしてあげたいと思うがどうだろう?

「木戸部長」
 はい、今回の相談もその思いがあるようです。親戚の会社で働いたこともあるということに加え、時給を1,500円出してくれるので、アルバイトをして奨学金を早めに返すのだ、と言っていました。

「社労士」
 色々な背景があるのですね。副業・兼業を法令の面から整理すると、実は副業・兼業について直接規制(禁止や制限)するものはありません。したがって、従業員の方が副業・兼業をすることは個人の自由な判断になります。
 ただし、副業・兼業を自由に行うことにより、本業に悪影響が出る可能性は否定できません。
 そのため、就業規則に規定することで副業・兼業に関して一定の制限をかけることができるものと考えられます。

「坂本社長」
 当社でも就業規則に「許可なく他の会社等の業務に従事しないこと」という規定があるのはそのような理由からということですね。

「社労士」
 はい。しかし、その規定だけで、全面的に副業・兼業を禁止できるかは難しい判断となります。
 というのも、厚生労働省が策定、公開した「副業・兼業の促進に関するガイドライン」に、「裁判例では、労働者が労働時間以外の時間をどのように利用するかは、基本的には労働者の自由であり、各企業においてそれを制限することが許されるのは、労務提供上の支障となる場合、企業秘密が漏洩する場合、企業の名誉・信用を損なう行為や信頼関係を破壊する行為がある場合、競業により企業の利益を害する場合と考えられる」と示されています。
 もちろん、個別に副業・兼業が認められるかという最終的な判断は裁判所が判断することにはなりますが、以前は副業・兼業を禁止する方針を示していた厚生労働省が、解禁や推進へと方針を変更していますので、何の検討もせずに引続き禁止とすると、今後トラブルを招くリスクがあります。

「坂本社長」
 確かにそうですね。今回の従業員については、先ほどの奨学金返済の話や、親戚の頼みということもあるので、現行の規定であっても許可すればよいと思っています。
 許可するときに押さえておくべきポイントはありますか。

「社労士」
 はい。一番は過重労働のリスクです。土曜日のみですが、1ヶ月すべての土曜日を働くと30~40時間の時間外労働をすることと同じ時間数になります。御社でも時間外労働があれば、長時間労働になる可能性は他の従業員のより高くなりますので、ご注意ください。

「木戸部長」
 確かに肉体労働で身体的な負荷も大きいかと思うので、実際のどのくらい時間、働いたかも毎週月曜日に確認するようにします。それに加え、日曜日は無理をせず、十分な休息を取るように伝える必要がありますね。

「社労士」
 そのとおりです。原則1週間に1日の法定休日の確保は確実に行っておきたいところです。これに加え、働く期間も区切っておいた方が良いでしょう。1ヶ月程度であればさほど問題はないかと想像しますが、これが延長され、半年となってくると、疲労も蓄積してくるでしょう。

「坂本社長」
 実は副業をしたいと思っている他の従業員もいるかも知れませんので、まずは1ヶ月間で許可をしてみることにします。そして、その間に会社としてどのような副業・兼業であれば許可するのかといったある程度の判断基準を設けたいと思います。

「木戸部長」
 ところで、親戚の会社で働くことになると、当社で時間外労働がなくても1週間40時間を超える労働になるのですが、割増賃金を払う必要はないのでしょうか。

「社労士」
 割増賃金を考える際の労働時間は、会社が異なるとしても一般的には、労働時間を通算して考えることになっています。そして、通算するときに法定労働時間を超えることとなる所定労働時間を定めた労働契約を時間的に後から締結した会社が、割増賃金を支払う義務を負うとされています。
 ですので、今回のケースでは親戚の会社が割増賃金を支払うことになります。
 ただし、イレギュラーケースもあるので、厚生労働省から公開されている「「副業・兼業の促進に関するガイドライン」 Q&A」を確認されることをお勧めします。

「木戸部長」
 今回については、副業における時間外労働の割増賃金について、当社で考慮する必要はないということですね。承知しました。厚生労働省の資料も確認したいと思います。

「社労士」
 そうですね。ぜひ、参考にしていただき、制度を整備されることをお勧めします。

「坂本社長」
 承知しました。ありがとうございました。

>>次回に続く


菅野哲正社会保険労務士によるワンポイントアドバイス

 副業・兼業を行うときにはこれらの他に、社会保険(健康保険・厚生年金保険)や雇用保険の加入に関する問題があります。
 社会保険では、本業と副業の各々で被保険者となる要件を確認し、両方で要件を満たしたときは、両方で加入する手続きを行います。
 雇用保険でも、本業と副業の各々で被保険者となる要件を確認することになっていますが、両方で要件を満たしたときでも生計を維持するに必要な主たる賃金を受ける方のみで加入することになります。

参考リンク

厚生労働省「副業・兼業」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000192188.html

作成日:2018年11月11日

※文書作成日時点での法令に基づく内容となっております。

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