作成日:2018年09月15日

改めて確認しておきたい時間外・休日労働をした際の割増賃金
会話形式で学ぶ人事労務の基礎知識

 今後、中小企業も1ヶ月60時間以上の時間外手当の割増率が引上げになると聞いたことから、割増賃金率(以下、「割増率」という)の考え方について整理をしておいた方がよいと思い、社労士に相談することにした。

「木戸部長」
 働き方改革関連法が成立したことで、1ヶ月60時間以上の時間外労働に対する時間外手当の割増率が引き上げになると聞きました。そこで、割増率のことについて整理をしておきたいと考えています。

「社労士」
 承知しました。それでは、早速、説明に入りましょう。最初に押さえておくべき点として、1日の所定労働時間が法定労働時間である8時間よりも短い設定となったときに発生する「法定内残業」があります。これは、所定時間外を超えて働き、その時間が法定労働時間内のときに発生するものです。

「木戸部長」
 当社には、1日の所定労働時間が6時間のパートさんがいて、原則は残業も休日出勤もやらないことになっていますが、ごく稀に1日1時間程度の残業になることがあります。このようなケースですね。

「社労士」
 はい。割増率で計算した賃金の支払義務が生じるのは、あくまでも法定労働時間を超える労働や法定休日に対する労働ですので、法定労働時間内であれば、割増賃金は発生しません。考え方としては、1日6時間超8時間までの残業は、割増しない時給(時給の100%)の支払いで足りることになります。

「木戸部長」
 例えば、時給が1,000円のパートさんであれば、1,250円ではなく、1,000円を払うことで足りるということですね。

「社労士」
 そうですね。次に法定労働時間を超えるものを整理すると、1日8時間・1週40時間を超えたものについては、25%以上の割増率で支払う必要があります。先ほど時給1,000円であれば、1,250円以上になります。そして、この法定超の時間外労働が36協定の限度時間を超えるときには、法定超の割増率である25%を超える率とするよう努めることが求められています。

「坂本社長」
 ということは、時間外労働が1ヶ月45時間、1年360時間を超えるようなときには例えば、割増率30%とするようなことが考えられるということですか。

「社労士」
 そのような対応が望ましいですね。ただし、限度時間に対する割増率については、「努めなければならない」という表現に留まっていますので、限度時間までの割増率と同じであっても直ちに問題になるものではありません。

「木戸部長」
 なるほど。いまの点は把握していませんでした。ありがとうございます。

「社労士」
 そして、最初にお話した働き方改革関連法が成立したことにより、1ヶ月の時間外労働が60時間を超えたときには、割増率50%以上で支払う必要が出てきます。現時点では、中小企業は猶予措置となっていますが、2023年4月1日からすべての企業について適用となります。企業の立場で考えると過重労働という観点からも、そして、人件費の負担が増えるという観点からも、1ヶ月60時間を超える時間外労働をなくしていく必要があるのでしょう。

「坂本社長」
 確かにそうですね。

「社労士」
 それから、次に休日労働ですが労働基準法では、労働者に1週に1日以上の休日を与えるように規定しています。一般的にはこの1週に1日の休日を法定休日と呼んでいます。土曜日と日曜日が休日の会社であれば法定休日を日曜日と定め、土曜日を「所定休日」や「法定外休日」と呼ぶことが多くあります。

「木戸部長」
 当社では、日曜日を法定休日と決めています。

「社労士」
 そのように法定休日を具体的に決めているときには、その法定休日に出勤したときには法定休日出勤として、法定休日労働の割増率35%以上で割増賃金を支払う必要があります。ここでも時給1,000円と考えるのであれば、1,350円以上になります。

「坂本社長」
 当社でも、休日出勤をせざるを得ない状況が発生しますが、土曜日に出勤する人、日曜日に出勤する人がバラバラで、管理も煩雑となり、細かなことですが電気代等の経費負担も大きいため、数年前に日曜日を法定休日と決めて原則、法定休日出勤を禁止としました。

「社労士」
 なるほど。そのような対策を取ることで、同じように休日に出勤して割増賃金が異なるといった不公平感もなくなるので、よい方法ですね。ちなみに土曜日に出勤した時間は、1週40時間に含めて考えることになります。最初にお話に出た1日の所定労働時間が6時間のパートさんが、月曜日から金曜日まで6時間ずつ働き、土曜日にも6時間の休日出勤をしたときは、平日の30時間(6時間×5日)に土曜日の6時間を加えたとしても36時間ですので、土曜日の出勤に対する賃金であっても、割増賃金は発生しません。

「木戸部長」
 なるほど。しっかり整理できていませんでしたが、よく分かりました。

「坂本社長」
 確かにそうですね。実態としては、正社員に割増での賃金を支払っている以上、無理を聞いて出勤してもらっているパートさんに割増しないというのは難しいかと思いますが、しっかりと原則を押さえた上で、支払うことにします。

「社労士」
 最後に深夜労働ですが、これは午後10時から翌朝5時までに労働したときに割増率25%以上で計算したもので支払うことになります。この深夜労働で押さえておくべき最大のポイントは、深夜労働に対する割増は、その時間が所定労働時間内であっても支給が求められるという点です。したがって、時間外労働の時間が深夜になっていれば、時間外労働の割増率25%以上と、深夜労働の25%以上を加えた50%以上の割増率での支払いが必要になってきます。

「木戸部長」
 なるほど。所定労働時間が深夜に及んだ場合にも割増が必要になりますね。今後、注意しておきます。ありがとうございました。

>>次回に続く


菅野哲正社会保険労務士によるワンポイントアドバイス

 今回は、割増賃金率について解説しました。厚生労働省が公開する労働条件通知書の雛形には、「所定時間外、休日又は深夜労働に対して支払われる割増賃金率」を記載する欄が設けられており以下の記載があります。

  • イ 所定時間外、法定超 月60時間以内( )%、月60時間超 ( )%  所定超 ( )%
  • ロ 休日 法定休日( )%、法定外休日( )%
  • ハ 深夜( )%

 この機会に、割増賃金の支払いが適切に行われているかを確認するとともに、労働条件通知書の内容も確認しておきましょう。

参考リンク

厚生労働省「法定労働時間と割増賃金について教えてください。」
https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/faq_kijyungyosei07.html

作成日:2018年09月15日

※文書作成日時点での法令に基づく内容となっております。

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