作成日:2018年06月14日

ストレスチェックの実施と関連して活用できる助成金
会話形式で学ぶ人事労務の基礎知識

 坂本工業では、従業員数が50人に満たなかったため、これまでストレスチェックを実施していなかったが、この1年の間に従業員数が増え、まもなく50人となる。今後も、採用していく予定があることから、50人のカウント方法について社労士に確認することにした。

「木戸部長」
 こんにちは。いままで従業員数が50人に満たなかったことから、当社は衛生管理者や産業医の選任、ストレスチェックの実施の対象外と認識していましたが、この1年間で、パートを含め採用を増やしました。そのため、従業員数がまもなく50人となりそうです。

「社労士」
 そうでしたか。確かにここ最近、採用を増やしていらっしゃいましたね。

「木戸部長」
 そこで、この50人のカウント方法について教えてもらえませんか?もし50人となった場合、ストレスチェックの実施方法などを早めに検討しなければならないと思っています。

「社労士」
 衛生管理者や産業医の選任、ストレスチェックの実施が義務となるのは、「常時使用する労働者の人数が50人以上の事業場」となります。まずここで押さえておきたい点は、企業単位ではなく事業場が単位となることです。

「木戸部長」
 と言うことは、本社と離れた場所に支店があるときには、それぞれで人数を計算して判断することになるのですね。

「社労士」
 そのとおりです。そして、この「常時使用する労働者」とは正社員、パートに関わらず、「常態として使用しているかどうか」で判断します。そのため、週1日しか出勤していないパートであっても、継続して雇用し、常態として使用しているのであれば、50人のカウントに含めることになります。

「木戸部長」
 週1日勤務であっても、カウントの対象になるのですか!うろ覚えですが、ストレスチェックの対象者は、健康診断を受診しなければならない者と同じになると認識していました。そのため、ストレスチェックの対象者の人数が50人以上となったら実施が必要になると思っていましたが、そうではないということですね。

「社労士」
 はい。会社としてストレスチェック自体を実施しなければならない人数のカウント方法と、実際にストレスチェックの対象者となる人数のカウント方法は別ものになります。間違えやすい点ですね。

「木戸部長」
 入社したばかりの者も多いですが、常態として使用しているかという点から勤務日数が短かったり、勤務時間が短かったりするパートも含めると、人数は48人となります。

「社労士」
 本当にまもなく50人に達しますね。ちなみに、ストレスチェックの対象者はご理解のとおりで、健康診断を受診しなければならない者と同じ基準です。念のため確認しておくと、以下の2つの要件を満たす従業員になります。

  1. 期間の定めのない労働契約により使用される者(期間の定めのある労働契約により使用される者であって、契約期間が1年以上である者ならびに契約更新により1年以上使用されることが予定されている者および1年以上引き続き使用されている者を含む)であること。
  2. その者の1週間の労働時間数が当該事業場において同種の業務に従事する通常の労働者の1週間の所定労働時間数の4分の3以上であること。

「木戸部長」
 その基準からすると、ストレスチェックの対象者は、30人程度になるように思います。ストレスチェックの実施義務が出てくると、やはりストレスチェックの実施方法などの検討を始める必要がありますね。

「社労士」
 その方がよいですね。ちなみに、ストレスチェックの実施を従業員数50人未満の事業場で実施する場合には「ストレスチェック助成金」が活用できます。助成金というと雇用保険から支給される助成金を連想することが多いと思いますが、雇用保険以外で設けられているものも様々あります。この助成金は独立行政法人労働者健康安全機構が実施しているものになります。

「木戸部長」
 いろいろあるのですね。助成額としてはどのくらいの金額になるのでしょうか?

「社労士」
 助成額としては、従業員1人につき500円を上限として、その実費額が支給され、ストレスチェックに係る医師による活動についても1回の活動につき21,500円(上限3回)が支給されることになっています。

「坂本社長」
 なるほど。従業員数が増えて義務化となる前に、このような助成金を利用して実施してみることを考えてもよさそうですね。ちなみに、衛生管理者や産業医の選任についても、同じように従業員数50人のカウントを行うとなると、その選任も併せて進める必要がありますね。

「社労士」
 そうですね。衛生管理者については、衛生管理者の資格を持っている者がいるのか確認し、いなければ取得に向けた動きを早めに始められるとよいですね。次に、産業医については、依頼できる方を探しておくことが求められます。産業医の選任についてもストレスチェック助成金と同様に、従業員数50人未満の段階であれば「小規模事業場産業医活動助成金(産業医コース)」が設けられているので利用を検討できますね。

「坂本社長」
 従業員の人数に関係なく、従業員の健康管理は重要ですからね。

「社労士」
 助成額としては、6ヶ月当たり10万円を上限に2回限り支給されます。例えば、月額3万円の契約をした場合、6ヶ月間で支払金額 18万円(月額3万円の6ヶ月分)になりますが、そのうち、上限額の10万円が支給されます。2回の支給ですので、1年間で20万円が支給されます。

「木戸部長」
 なるほど。活用を考えてみてもよいですね。

>>次回に続く


菅野哲正社会保険労務士によるワンポイントアドバイス

 今回は、ストレスチェックの実施とそれに関連して活用したい助成金を解説しましたが、ここで従業員数50人のカウント方法における派遣労働者の取扱いを補足しましょう。

 派遣先(企業)は、派遣労働者に対してストレスチェックを実施する義務はありませんが、人数のカウントには派遣労働者を含めるため、自社の従業員は40人しかいなくても、ストレスチェックを実施する義務が生じます。この際、派遣労働者は派遣元の雇用人数によって、ストレスチェックを実施するかが決まります。なお、派遣労働者に関して、派遣先は職場の集団ごとに集計・分析を実施することが望ましいとされています。

 この機会に、人数のカウント方法に問題がないのか確認し、従業員数50人以上となっていればストレスチェックを行いましょう。

参考リンク

厚生労働省「ストレスチェック等の職場におけるメンタルヘルス対策・過重労働対策等」
http://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/anzeneisei12/

独立行政法人労働者健康安全機構「平成30年度版産業保健関係助成金」
https://www.johas.go.jp/sangyouhoken/tabid/1253/Default.aspx

作成日:2018年06月14日

※文書作成日時点での法令に基づく内容となっております。

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