作成日:2018年04月12日

締結が必要な労使協定と労働基準監督署への届出の要否
会話形式で学ぶ人事労務の基礎知識

 坂本工業では、今回、社員旅行を実施することとし、旅行の積立金を従業員の給与から控除することとした。そこで、従業員の給与から控除する場合に必要となる労使協定について、社労士に相談することにした。

「坂本社長」
 こんにちは。従業員のコミュニケーションの促進と、一体感の醸成のために今回、一泊二日の社員旅行を企画しました。

「社労士」
 御社のように従業員同士のコミュニケーションを図るために、社員旅行制度を新たに設けたり、復活させたりする企業も増えてきていますね。

「坂本社長」
 従業員からの賛否はあるものの、特に社員旅行を知らない若手の一部から強い要望が上がってきましたので、まずは1回、やってみようということになりました。

「木戸部長」
 色々検討した結果、旅行にかかる費用の大部分は会社が負担する予定ですが、一部について従業員に負担してもらおうということになっています。そこで、その積立金について、3ヶ月間、従業員の給与から天引きしようと思います。確か、従業員の給与から天引きする場合は、労使協定が必要だったかと思うのですが・・・。

「社労士」
 そのとおりです。源泉所得税や社会保険料など、法令で給与から控除することが定められているものに関しては労使協定の締結は不要ですが、それ以外のものを給与から控除する場合には、労使協定の締結が必要となります。

「木戸部長」
 やはりそうでしたか。それでは積立金については、労使協定を締結できるよう準備を進めます。ところで、その締結した労使協定は労働基準監督署への届出が必要となりますか?

「社労士」
 いいえ、この労使協定は労働基準監督署への届出は不要です。労使協定には様々なものがありますが、労働基準監督署への届出が必要なものと、そうでないものがあります。

「木戸部長」
 届出が必要なものとなると、「時間外労働・休日労働に関する協定(36協定)」が代表的なものですよね。そのほかにはどのようなものがあるのでしょうか。

「社労士」
 はい、36協定以外に届出が必要な労使協定を挙げますと、以下のようなものがあります。

  • 1か月単位の変形労働時間制の労使協定
  • 1年単位の変形労働時間制の労使協定
  • 1週間単位の変形労働時間制の労使協定
  • 専門業務型裁量労働制の労使協定
  • 事業場外労働の労使協定(みなし時間が8時間を超える場合のみ)
  • 社内預金の労使協定

「木戸部長」
 なるほど。これらの内容であれば問題ありません。その他に気になるものとして、年次有給休暇の計画付与を実施しており、導入時に労使協定を締結したと思いますが、労働基準監督署への届出を行ったか、記憶がありませんが、届出しなくても問題ありませんか。

「社労士」
 はい、年次有給休暇の計画付与に関する労使協定は届出の義務がありません。今回、良い機会ですので、届出が不要であっても、制度を導入するときには必要な労使協定を確認しておきたいと思います。

「木戸部長」
 はい、よろしくお願いします。

「社労士」
 届出が不要な労使協定で、主だったものは、以下のようなものが挙げられます。

  • 年次有給休暇の時間単位付与の労使協定
  • 年次有給休暇の賃金を標準報酬日額とする労使協定
  • 一斉休憩の適用除外の労使協定
  • 育児・介護休業に関する労使協定

「木戸部長」
 当社では、昼間の電話番もかねて、休憩を交代で取っているのですが、休憩が一斉ではないときにも労使協定の締結が必要なのですね。

「社労士」
 はい。運輸交通業、商業、金融・広告業などの一部の業種は、労働基準法で一斉付与から除外されていますが、御社では締結が必要になりますね。案外、労使協定の締結をせずに運用している会社も多いようですが、いまからでも締結をお願いします。

「木戸部長」
 承知しました。

「坂本社長」
 先ほど挙げていただいた中に、「年次有給休暇の時間単位付与の労使協定」がありましたよね。当社では、時間単位の年次有給休暇はまだ導入していませんが、従業員のニーズは高いと思いますので、今後導入するときには、労使協定の締結を忘れずに行うようにします。ありがとうございました。

>>次回に続く


菅野哲正社会保険労務士によるワンポイントアドバイス

 労使協定には様々なものがありますが、今回は締結が必要な労使協定と労働基準監督署への届出の要否を確認しました。労使協定を未締結のまま制度を運用してしまうと労働基準監督署の調査で是正の対象にもなります。
 また、労使協定の中でも特に重要な36協定は、従業員に時間外労働をさせる場合には、必ず締結が必要となり、かつ労働基準監督署への届出をすることにより初めて効力が発生するものになります。

 今回、紹介したもの以外にも制度によっては労使協定の締結が必要なものがありますので、何らかの人事労務管理の制度を見直すときには、注意を払うようにしましょう。

参考リンク

厚生労働省「労働基準法関係主要様式」
http://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/roudoujouken01/index.html

作成日:2018年04月12日

※文書作成日時点での法令に基づく内容となっております。

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