作成日:2018年05月10日

平成30年度労働保険年度更新と確認したい高年齢被保険者の取扱い
会話形式で学ぶ人事労務の基礎知識

 坂本工業では、5月に入り、労働保険年度更新の作業を早めに開始しようとしていた。そこで、社労士に今年度の年度更新での留意点について確認することにした。

「木戸部長」
 こんにちは。今年も労働保険の年度更新の時期が近づいてきましたので、先日より昨年度の賃金集計を始めました。労働保険の申告書が届くまではまだ少し時間がありますが、先に準備を進めておきたいので、どのような点に注意すればよいか教えていただけませんか。

「社労士」
 承知しました。まずは毎年確認が必要になる事項として保険料率があります。今年度に申告する年度更新は、平成29年度の確定保険料と平成30年度の概算保険料ですので、この2年度の保険料率を確認しましょう。

「木戸部長」
 雇用保険料率は、昨年度から変更なしで、労災保険率は3年に1回の見直しの年だと認識しています。

「社労士」
 はい、おっしゃるとおりです。厚生労働省のホームページでも案内がされていますので、確認のためにURLをお伝えしておきますね。労災保険率は引き上げ・据え置き・引き下げと事業の種類によって分かれていますのでご注意ください。

参考リンク

厚生労働省「平成30年度の雇用保険料率について」
http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11600000-Shokugyouanteikyoku/0000192647.pdf

厚生労働省「労災保険率表(平成30年4月1日施行)」
http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11200000-Roudoukijunkyoku/0000198405.pdf

「木戸部長」
 ありがとうございます。他には今年ならではというような留意点はありますか。

「社労士」
 今年は例年から制度などが変わるといったことはないので、「今年ならでは」というものはありません。ただし、ここ数年にわたりチェックが必要な項目として、雇用保険の高年齢被保険者があります。
 この高年齢被保険者とは、65歳以上の被保険者で「短期雇用特例被保険者」および「日雇労働被保険者」に該当しない人のことをいいます。

「坂本社長」
 なぜ、その人たちは注意が必要なのですか

「社労士」
 はい。1年半ほど前の改正になりますが、平成29年1月1日に雇用保険の適用範囲の拡大が行われています。この拡大により、平成28年12月31日までは被保険者とならなかった65歳以上の人が、新たに被保険者となりました。

「坂本社長」
 なるほど。65歳のというと、世の中ではリタイアの年齢ですが、そうではなくまだまだ働く年齢だということですね

「社労士」
 労働力不足の解消のためにも高年齢者に活躍してもらう必要がありますし、そうなれば離職に備えたセーフティーネットの整備も必要になりますからね。

「木戸部長」
 確か、適用拡大のときには、その当時65歳以上で雇用保険に加入していなかった従業員を洗い出し、資格取得の手続きをした覚えがあります。そして、それ以降に入社した従業員は、年齢に関わらず雇用期間と労働時間によって、取得手続きを進めています。

「社労士」
 しっかりと手続きをされているので、雇用保険の手続きには問題がなさそうですね。これに加え、保険年度の初日である4月1日に満64歳以上被保険者は、雇用保険料が本人負担分・事業主負担分ともに免除になるため、こちらも確認をお願いします。

「木戸部長」
 承知しました。年度初日に64歳以上ということですので、平成30年度に申告するものは、平成29年度の確定保険料が昭和29年4月1日以前生まれ、平成30年度の概算保険料が昭和30年の4月1日生まれとなりますね。

「社労士」
 そうですね。

「坂本社長」
 ふと疑問に感じたのですが、適用拡大されたことに伴い、被保険者となった人も増えたのではないでしょうか。
 そうなると、雇用保険からの給付はこれまでよりも増えることになると思いますが、今後も雇用保険料の免除の制度は続くのでしょうか

「社労士」
 雇用保険の財政としては、被保険者の数だけではなく、離職者の数にも影響されますので、一概には言えません。ただ、現状の免除制度は、平成31年度までと決まっており、平成32年度からは年齢に関係なく雇用保険料が徴収されます。当然、本人の給与からも控除が必要ですし、免除されている会社分も費用負担が発生します。
 雇用保険料率は、健康保険料率や厚生年金保険料率と比較するとかなり低いですが、免除となっている従業員が多い企業は負担に感じるでしょうね。

「坂本社長」
 なるほど、いまは移行期間のようなイメージなのですね。当社も、高齢者雇用は継続的な検討課題となっているので、今日のお話も参考にさせていただき、実務に当たりたいと思います。

「木戸部長」
 ありがとうございました。また、処理を進めていく中で不明点がありましたら、教えてください。

>>次回に続く


菅野哲正社会保険労務士によるワンポイントアドバイス

 今回は、平成30年度の年度更新と確認したい高年齢被保険者についてみてきましたが、高年齢被保険者が退職したとき(資格喪失したとき)の給付に関しても確認しておきましょう。

 65歳未満の被保険者が退職をし、一定の要件を満たしているときには、求職者給付のうち、基本手当が支給されます。この基本手当の日数は、退職理由、退職時の年齢、被保険者であった期間に応じて決定され、失業していると認められる日を対象に支給されます。
 これに対し、65歳以上の高年齢被保険者が退職等をしたときは高年齢求職者給付金として一時金が支給されます。支給される日額は、基本手当と同じ日額が利用されますが、日数については下表の通りとなります。

高年齢求職者給付金として一時金が支給される日数

 65歳未満で退職するケースと、65歳以上で退職するケースでは最終的に受け取ることのできる金額が大きく変わることがあるため、65歳以上で退職をする人には十分な説明を行うことが求められます。

参考リンク

厚生労働省「雇用保険制度」
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/koyouhoken/index.html

作成日:2018年05月10日

※文書作成日時点での法令に基づく内容となっております。

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