作成日:2018年01月17日

無期転換の取扱いに設けられているクーリングとは
会話形式で学ぶ人事労務の基礎知識

 いよいよ4月より、無期転換の問題が本格化する。坂本工業では既に無期転換の申込み手続き整備などの対応は終わっているが、実際4月1日以降にどれくらいの人数が対象となるのか、確認することにした。そこで、疑問点が出てきたことから社労士に相談することにした。

「木戸部長」
 こんにちは。4月より無期転換の申込みができるようになる従業員が出てくることから、総務で改めて対象者の確認を行っています。そこでいくつか疑問点が出てきたので、教えてください。

「社労士」
 わかりました。どのような質問でしょうか?

「木戸部長」
 基本的な内容もあるかと思いますが、よろしくお願いします。まず育児休業を取得した期間についても、無期転換申込権が発生する通算5年のカウントに含まれるのでしょうか?

「社労士」
 はい、5年のカウントに含まれます。あくまで契約期間が通算される対象となりますので、たとえ育児休業で休業していたとしても、契約期間は継続していますのでカウントしていきます。また介護休業はもちろん、私傷病で休職している場合も、契約期間としてカウントします。

「木戸部長」
 なるほど、勤務実績がなくても、労働契約を締結している以上は契約期間としてカウントするのですね。次に、契約期間と契約期間の間に、契約がない期間がある従業員の取扱いについて教えてください。

「社労士」
 いわゆるクーリングですね。

「木戸部長」
 はい。2013年4月以降、パートタイマーで家庭の都合で仕事を続けることができないということでいったん退職したのですが、再び働ける状況になったので当社に戻ってきた者がいます。具体的には以下のような状況です。

 2013年4月1日入社(以後1年更新)、2015年3月31日退職、契約年数:2年間
 2015年10月1日再入社 以後1年更新、現在に至る 契約年数:約2年3ヶ月間

「社労士」
 なるほど。一旦、退職した後、6ヶ月後に戻ってきたということですね。

「木戸部長」
 はい。この場合、最初に勤務していた期間もカウントに含め、すでに通算5年になっていることになるのでしょうか?

「社労士」
 カウントに含めることになるのか否かは、契約がない期間(空白期間)の長さによります。具体的には、契約期間が1年以上の場合と1年未満の場合とで分けて考え、契約期間が1年以上の場合は空白期間が6ヶ月以上あれば空白期間より前の契約期間は通算期間に含めず、1年未満の場合は下表の空白期間があれば前の契約期間は通算期間に含めないことになります。

カウントの対象となる契約期間空白期間
2ヶ月以下1ヶ月以上
2ヶ月超~4ヶ月以下2ヶ月以上
4ヶ月超~6ヶ月以下3ヶ月以上
6ヶ月超~8ヶ月以下4ヶ月以上
8ヶ月超~10ヶ月以下5ヶ月以上
10ヶ月超6ヶ月以上

「木戸部長」
 今回の場合、契約期間が2年あり、空白期間が6ヶ月となっていることから、2013年4月1日から2015年3月31日までの契約期間は通算期間に含めないことになるのですね。つまり、現状は約2年3ヶ月間となるのですね。

「社労士」
 その通りです。もう少し補足をしておきましょう。今回は2年という期間でしたが、短い契約期間を繰り返し、その間の空白期間が短い場合は、契約期間を特殊な方法で計算することになっています。例えば、以下のような契約がある場合、暦を用いて、年、月、日の単位で計算します。

 2017年1月21日から2017年3月31日
 2017年4月10日から2017年4月30日

 具体的には1月21日から3月31日については、契約期間の初日から起算して、翌月の応当日の前日(2月20日)をもって1ヶ月と計算し、2ヶ月と11日になります。4月11日から4月30日については、20日となります。

「坂本社長」
 そのまま合算すると2ヶ月と31日となりますが、どのように計算するのでしょうか?

「社労士」
 1ヶ月未満の端数同士を合算した後、30日をもって1ヶ月に換算することになっています。そのため、今回のケースでは、3ヶ月と1日になりますね。

「坂本社長」
 なるほど。当社では事例として少ないですが、無期転換申込権の発生時期に影響するため、契約期間に端数がある場合は、細かく計算して確認する必要がありますね。

>>次回に続く


菅野哲正社会保険労務士によるワンポイントアドバイス

 今回は、無期転換の取扱いに設けられているクーリングについて解説しましたが、無期転換申込権の発生のタイミングについて改めて確認しておきましょう。

 この無期転換申込権は、雇用契約が通算5年を超えて繰り返し更新された場合に発生します。雇用契約は2013年4月1日以降に開始する雇用契約からカウントしていき、2013年4月1日より1年更新を行っている場合は2018年4月1日よりこの無期転換申込権が発生することになります。
 このようなケースであれば、これから無期転換申込権が発生することになりますが、当初は試用期間的な意味から1年よりも短い期間で契約し、問題がなければ2回目以降の契約では1年契約としたケースでは、既に無期転換申込権が発生している可能性があります。例えば以下のようなケースです。

  • [1回目契約] 2013年4月1日~2013年9月30日(6ヶ月間)
  • [2回目契約] 2013年10月1日~2014年9月30日(1年間)
  • [3回目契約] 2014年10月1日~2015年9月30日(1年間)
  • [4回目契約] 2015年10月1日~2016年9月30日(1年間)
  • [5回目契約] 2016年10月1日~2017年9月30日(1年間)
  • [6回目契約] 2017年10月1日~2018年9月30日(1年間)

 このケースでは、6回目の契約を締結した時点で通算5年を超えることになり、2017年10月1日に無期転換申込権が発生しています。実際に無期転換申込権が既に発生している方がいる可能性もあるため、無期転換の対応が遅れている企業はすぐにでも取り組み始めましょう。

参考リンク

厚生労働省「労働契約法の改正について~有期労働契約の新しいルールができました~」
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/keiyaku/kaisei/index.html

作成日:2018年01月17日

※文書作成日時点での法令に基づく内容となっております。

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