作成日:2017年12月15日

再確認しておきたいパートタイマーの社会保険加入要件
会話形式で学ぶ人事労務の基礎知識

 先日、木戸部長は、パートタイマー(以下、「パート」という)から「来年は年収150万円まで働いてもいいのですよね?」という質問を受け、どのように回答してよいか分からなかった。そのため、社労士に相談することにした。

「木戸部長」
 こんにちは。来年から所得税の配偶者控除と配偶者特別控除が変更になるようで、確か年収150万円まで働いてもこれまでどおりの配偶者に関する控除が受けられるという新聞報道等がありましたよね。先日、パートがこの報道を目にしたようで、「来年は年収150万円まで働いてもいいのですよね?」と質問され、対応に困ってしまいました。

「社労士」
 そうでしたか。他社でも同じような話を聞きますね。配偶者控除の改正等については、税務の内容になるため、私からの説明は控えようと思います。ただし、所得税の取扱いが変わることで、より社会保険の被扶養者の範囲が重要になると考えています。

「坂本社長」
 社会保険の被扶養者ということは、年収130万円のことですね。

「社労士」
 その通りです。報道にあるとおり、いわゆる所得税の「壁」が年収150万円以下に拡がったとしても、社会保険の「壁」は年収130万円未満のままですので、仮に年収130万円以上になると、健康保険の被扶養者(国民年金の第3号被保険者)にはなれません。そして、そのパートが社会保険の加入要件を満たさないという状況であれば、通常、国民健康保険と国民年金に加入することになります。

「木戸部長」
 なるほど。今回相談のあったパートは、ご主人の健康保険の被扶養者の範囲で勤務していますので、この年収130万円の社会保険の「壁」を説明する必要がありますね。そのほか、会社としてどのような点を押さえておく必要があるのでしょうか?

「社労士」
 基本的な内容になりますが、社会保険の加入要件を押さえておく必要があります。健康保険の被扶養者になれるか否かは、社会保険の加入要件を満たさず、さらに年収130万円未満であること等が条件となります。つまり、年収が130万円未満であっても、社会保険の加入要件を満たせば健康保険の被扶養者から外れて、自身が被保険者となることになります。そのため、パートの社会保険の加入要件が重要となります。

「坂本社長」
 確かにいまご説明いただい部分は理解していない人が多いのではないかと想像します。

「社労士」
 そうですね。この加入要件は、4分の3基準と呼ばれるもので、同じ事業所で同様の業務に従事する正社員と比べて、1週の所定労働時間と1ヶ月の所定労働日数が正社員の4分の3以上であるときに被保険者となります。

「木戸部長」
 私の記憶では、おおむね4分の3以上であればという基準で判断していたように思いますが、取扱いが変わったのでしょうか?

「社労士」
 良い質問ですね。法改正により、2016年10月より加入要件が明確になり、「おおむね」という表現が削除されました。そして、もう一つ。この4分の3基準を満たしていなくても、以下の5つの要件をすべて満たした場合、被保険者になります。これは、2016年10月より常時501人以上の企業を対象にスタートしたパートへの社会保険の適用拡大の取扱いです。

  1. 1週間の所定労働時間が20時間以上あること
  2. 賃金の月額が88,000円以上であること
  3. 勤務期間が1年以上見込まれること
  4. 学生でないこと
  5. 厚生年金保険の被保険者数が常時501人以上の企業(特定適用事業所)に勤めていること

 さらに、2017年4月より常時500人以下の企業であっても、次の1.または2.に該当する事業所に勤務するパートも加入の対象になります。

  1. 労使合意(働いている方々の2分の1以上と事業主が社会保険に加入することについて合意すること) に基づき申出をする法人・個人の事業所
  2. 地方公共団体に属する事業所

「木戸部長」
 なるほど。社会保険についてもいろいろと制度の変更が行われているのですね。情報をキャッチし、整理をしておくことが重要ですね。

>>次回に続く


菅野哲正社会保険労務士によるワンポイントアドバイス

 今回は、社会保険の被扶養者と加入要件について解説しましたが、ここで年収130万円の考え方について補足しましょう。
 この年収130万円は1月から12月といったように決められた期間で収入の判断をするわけではなく、被扶養者に該当する時点の収入および被扶養者として認定された日以降の年間の見込み収入額のことを指しています。

 従業員から、「配偶者が会社を退職し雇用保険の基本手当(いわゆる失業手当)を受給する場合に被扶養者になれるか」といった質問が寄せられることがありますが、これについては雇用保険の基本手当の日額が、年間の見込み収入額に換算して130万円未満となる3,611円以下である場合にのみ被扶養者となれます。
 なお、この被扶養者の年間の見込み収入額には、公的年金、健康保険の傷病手当金や出産手当金も含まれる点に注意しましょう。

参考リンク

日本年金機構「健康保険(協会けんぽ)・厚生年金保険の資格取得及び配偶者等の手続き」
https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/jigyosho-hiho/hihokensha1/20131203.html

日本年金機構「健康保険(協会けんぽ)の扶養にするときの手続き」
http://www.nenkin.go.jp/service/kounen/jigyosho-hiho/hihokensha1/20141204-02.html

作成日:2017年12月15日

※文書作成日時点での法令に基づく内容となっております。

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