作成日:2017年11月13日

職場のパワーハラスメントで注意すべき事項
会話形式で学ぶ人事労務の基礎知識(菅野労務FP事務所)

 木戸部長は同業者の集まる会合で、職場のパワーハラスメント(以下、「パワハラ」という)の問題が起きてしまい、その対応で大変だったという話を聞いた。そこで、どのような点に注意が必要なのかを社労士に相談することにした。

「木戸部長」
 こんにちは。さっそくですが、今日はパワハラについて教えてもらおうと思っています。

「社労士」
 何かトラブルが起きたのですか?

「木戸部長」
 いえいえ、トラブルが起きたわけではないので、安心してください。先日、上司が仕事上、些細なミスをした部下に対し人格を否定するようなことばを、他の部下の前で浴びせ続け、その部下が体調不良となる事件が発生したという話を同業者の集まる会合で耳にしました。その後、部下は休職となり、上司を懲戒処分することで動いているということでした。現在、当社でパワハラに関する問題が起きているとは聞いていませんが、何らかの対策が必要ではないかと思っています。

「社労士」
 そうでしたか。パワハラは、職場のいじめ・嫌がらせ問題として厚生労働省も5~6年前に報告書をまとめており、一般的にはパワハラという単語で広まりました。ここでは注意・指導を行う上司、その受け手である部下という形でお話していきますが、パワハラという単語が一般的になった結果、上司の注意を受けて、それはパワハラではないかと言ってくる部下が増えてきているような感じがします。

「木戸部長」
 過敏に反応しているということですね。

「社労士」
 そうですね。もちろん、全員ではなく、一握りの労働者からの申出だとは思うのですが、一方でパワハラということを恐れて注意・指導を躊躇する上司もいるようです。そのため、注意・指導とパワハラの違いを線引きしておく必要があり、上司がそれを理解しておくことが重要です。

「木戸部長」
 確かに実際に注意・指導する立場の者が理解しておかなければ、注意や指導ができなくなり組織としては成り立たなくなりますね。適正な注意指導とパワハラの線引きはどのように考えればよいのでしょうか?

「社労士」
 ポイントは以下の2つになります。

  • (1)その注意・指導について、業務との関連性や必要性が認められるか
  • (2)その注意・指導が、業務上、必要な範囲を逸脱していないか

 まず(1)について、当然、業務に関することについての注意・指導である必要があります。次に(2)については必要な範囲での注意・指導になっているかという点になります。例えば、仕事とは関係のない個人的なことについて、何度も何度も注意を繰り返し行う場合に、それが必要な範囲となっているのかという点が、注意・指導とパワハラの線引きになります。

「坂本社長」
 なるほど。部下を執拗に注意すると、パワハラに該当する可能性があるということですね。

「社労士」
 その通りです。明確な線引きが難しいところですが、上司にこのこと理解しておいてもらい、注意・指導をすべき事象に目を向けてもらう必要があります。

「坂本社長」
 その点は重要ですね。その他、どのような点に注意が必要でしょうか?

「社労士」
 注意・指導の内容や上司と部下との人間関係の状況等にもよりますが、注意・指導を行う場所についても注意したいですね。例えば多くの部下や同僚がいる前で注意・指導を行わないことや、個室に呼び出した場合に追い詰めるような雰囲気にならないようにするなどが挙げられます。

「木戸部長」
 なるほど、こういったことも知っておきたいことですね。思わず、他の部下に対して示しがつくようにと言うことで、同僚や部下の前で注意や指導を行うことに意味があると考える上司もいると思いますが、それが続くと周りの部下も萎縮してしまいそうです。

「社労士」
 おっしゃるとおりです。ここまで特に注意・指導とパワハラの線引きとパワハラと言われないための注意点について解説してきましたが、実際、パワハラの範囲は広く、厚生労働省は以下の6つに類型化しています。

  • (1)暴行・傷害(身体的な攻撃)
  • (2)脅迫・侮辱・ひどい暴言など(精神的な攻撃)
  • (3)隔離・無視など(人間関係からの切り離し)
  • (4)業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制など(過大な要求)
  • (5)仕事を与えない、能力とかけ離れた程度の低い仕事を命じるなど(過小な要求)
  • (6)私的なことに過度に干渉するなど(個の侵害)

「木戸部長」
 パワハラといっても、範囲は広いですね。

「社労士」
 この類型の中で特に注意しておきたいものは、(4)業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制など(過大な要求)と(5)仕事を与えない、能力とかけ離れた程度の低い仕事を命じるなど(過小な要求)ですね。例えばミスや失敗が多いため、仕事をとり上げてしまい、与えないこともパワハラとなる可能性があります。

「木戸部長」
 それもパワハラに該当する可能性があるのですね。パワハラの範囲も含めて、一度、管理職を対象に研修をした方がよさそうですね。

「社労士」
 労務管理は事後対応も重要ですが、問題を起こさないための予防対策がより重要になってきます。ハラスメントについては、管理職向けのみならず、一般社員向けにも研修することが増えていますね。また何かありましたら、いつでもご連絡ください。

>>次回に続く


ワンポイントアドバイス

 今回は、パワハラで注意すべき事項について解説しましたが、ここで厚生労働省より2017年4月に公表された「職場のパワーハラスメントに関する実態調査」の報告書の中から、従業員の調査結果についてみておきましょう。

 この実態調査では、過去3年間にパワハラを受けたと感じたことがあるかについて質問しており、パワハラを受けたと感じたことがある者は、全体の32.5%と約3人に1人の割合となっています。また、この過去3年間にパワハラを受けたと感じたことあると回答した者について、その後の行動をみてみると(複数回答)、「何もしなかった」と回答した割合が高いものの、従業員数が99人以下の企業では、「会社関係に相談した」の比率が他の従業員規模に比べて低くなっている一方で、「会社とは関係のないところに相談した」と回答した比率が他の従業員規模に比べて高くなっています。

 そのため、社内あるいは社外に相談できる窓口を設置した上で、それを従業員に周知し、従業員が相談しやすい体制を作っておくことも対策のひとつになります。

参考リンク

あかるい応援団
https://www.no-pawahara.mhlw.go.jp/

厚生労働省「「職場のパワーハラスメントに関する実態調査」の報告書を公表します」
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000163573.html

作成日:2017年11月13日

※文書作成日時点での法令に基づく内容となっております。

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