作成日:2017年09月15日

会話形式で学ぶ人事労務管理の基礎講座
会話形式で学ぶ人事労務の基礎知識(菅野労務FP事務所)

 木戸部長は、同業者が集まる会合で、労働局の調査があり、正社員への転換推進措置に関して指導を受けたという話を聞いた。そこで、当社において対応に問題がないか、社労士に相談することにした。

「木戸部長」
 こんにちは。先日、同業者の集まる会合で、労働局の調査があったという話題になりました。

「社労士」
 そうでしたか。他の顧問先様でも労働局の調査があるという話を伺うことがあり、地域によって差はあるかもしれませんが、昨年度よりも調査が増えているように感じます。最近は、労働局の調査といっても、様々な種類の調査が行われているようですが、どのようなものでしたか?

「木戸部長」
 はい、パートタイム労働法に関するものだと言っていました。当社には調査の話は来ていませんが、対応に問題があれば、いまのうちに見直しておきたいと考えています。同業者の調査の話の中で、正社員への転換推進措置に関して指導を受けたということが気になりました。

「社労士」
 そうでしたか。この正社員への転換推進措置は、パートタイム労働法で義務付けられているものになり、平成20年4月1日からこの義務付けがスタートしています。

「木戸部長」
 かなり前からスタートしているのですね。具体的にはどのようなものでしょうか?

「社労士」
 これは、パートタイマーが正社員に転換するチャンスを整えることを指しています。ここでまず押さえておきたいポイントとしては、あくまで企業に対して正社員への転換推進措置を講じることを求めており、正社員に転換することまでは求めていません。

「坂本社長」
 なるほど。必ず正社員にしなければならないという訳ではないのですね。

「社労士」
 はい。そして、この正社員への転換推進措置の内容としては、次のいずれかの措置を講じることになっています。

  1. 正社員を募集する場合、その募集内容を既に雇っているパートタイマーに周知する。
  2. 正社員のポストを社内公募する場合、既に雇っているパートタイマーにも応募する機会を与える。
  3. パートタイマーが正社員へ転換するための試験制度を設ける。
  4. その他正社員への転換を推進するための措置を講じている。

 ちなみに、パートタイム労働法で言うパートタイマーとは、正社員より1週間の所定労働時間が短い労働者を指しますので、ここでも同様の前提に立っていることを補足しておきますね。

「木戸部長」
 当社では、優秀なパートタイマーに声をかけて正社員に転換することがありますが、この取扱いでは正社員への転換推進措置を講じていることになるのでしょうか?

「社労士」
 パートタイム労働法の趣旨としては、すべてのパートタイマーに正社員に転換できるチャンスを与えることを意味しています。そのため、正社員になって欲しい特定の人に、声かけを限定している場合は、措置を講じていることにはならない可能性があります。今後の対応としては、例えば、正社員を募集する際に、社内のイントラネットや、掲示板に同じ求人票を掲示するなどして皆に周知できる方法にしていく必要がありますね。

「木戸部長」
 なるほど。すべてのパートタイマーを対象とすることがポイントですね。

「社労士」
 はい、そうです。先ほど挙げた措置の3である「パートタイマーが正社員へ転換するための試験制度」についても解説しましょう。
 これは、面接や筆記試験などを実施し、合格した者を正社員に転換していくものになりますが、いつ実施するのか、いつから転換するのかなど、社内ルールを定めておくことになります。また、エントリー基準(例えば、勤続満○年以上、上長の推薦があることなど)を設けておくことも可能です。

「木戸部長」
 先ほどの正社員の募集内容の周知については、すべてのパートタイマーを対象とすることが求められていましたが、こちらは、勤続○年以上など、エントリー基準を設け、対象者を限定することが可能なのですね。

「社労士」
 はい。ただし、エントリー基準を設ける際の注意点として、必要以上に厳しい要件を設ける場合は、法律上の義務を果たしていないのではないかとの指摘を受ける可能性があります。そのため、企業の実態に合わせて設定することがポイントです。
 また、この正社員に転換するための試験制度を設ける場合については、活用できる助成金制度として「キャリアアップ助成金」が設けられています。活用するためには事前に届出が必要なため、検討される場合は目を通しておかれるとよいですね。

「木戸部長」
 そうですか。優秀な人材の確保・定着を進める中で、助成金の活用も考えていきたいですね。

>>次回に続く


菅野哲正社会保険労務士によるワンポイントアドバイス

 今回は、パートタイマーの正社員への転換推進措置について解説しましたが、労働局の調査の際に指摘を受けやすい労働条件通知書の項目について補足しましょう。

 そもそも労働基準法によりすべての従業員に対して、労働契約を締結する際に労働条件を明示することが企業に義務付けられています。そして、パートタイマーについては、パートタイム労働法により、4点(昇給の有無、賞与の有無、退職手当の有無、相談窓口)を文書の交付などにより明示することが義務付けられています。これらの4点のうち、特に相談窓口についてはもっとも最近の改正事項であることから、記載が漏れているケースが多いため、この機会に労働条件通知書を点検し、不備があれば雛形を修正しておきましょう。

■参考リンク

厚生労働省「パートタイム労働者の雇用管理の改善のために」
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000046152.html

厚生労働大臣「キャリアアップ助成金」
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/part_haken/jigyounushi/career.html

作成日:2017年09月15日

※文書作成日時点での法令に基づく内容となっております。

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