作成日:2017年08月10日

年次有給休暇の付与日を統一する際の注意点
会話形式で学ぶ人事労務の基礎知識(菅野労務FP事務所)

 坂本工業では年次有給休暇(以下、「年休」という)の付与日を入社日により個人ごとに管理しているが、同業者からその会社では年休の付与日を1年に1回に統一しているという話を聞いた。そこで当社でも同じような取扱いができないか、社労士に相談することにした。

「木戸部長」
 先日、同業者が集まる会合で、ある会社の総務担当者から、年休の付与日を年1回にしているという話を聞きました。そこで当社でも同様に年1回に統一することを検討しています。

「社労士」
 わかりました。他社でも時折、同様のご質問を受ける内容ですね。

「木戸部長」
 そうですか。当社の採用状況を説明すると、新卒をメインにしていますが中途入社の従業員も増えています。全体の従業員数もかなりの数となり、現状の法律どおりの日々の年休管理では、事務量の負担が多くなっています。

「社労士」
 なるほど。そのような理由から、付与日を年1回にしたいというように考えられたのですね。ちなみに統一する付与日はいつにしようと考えていらっしゃいますか?

「坂本社長」
 木戸部長と事前に検討していたのですが、一番分かりやすい日として、年度初め、つまり4月1日がよいのではないかということになっています。

「社労士」
 それでは、年1回、4月1日に付与日を統一するという方法を考えていきましょう。まずは一番シンプルなものとして、入社日に10日付与する方法があります。入社日に関わらず、入社日に10日の年休を付与し、そして、次に到来する4月1日に11日を付与するというものです。

「木戸部長」
 ということは、極端な例として、3月31日に入社した従業員は、入社2日目にして21日の年休が付与されるということですか?

「社労士」
 そうですね。この方法では、従業員間で付与される日数に不公平感がでてきますので、入社月に応じて按分して付与する方法をとることがあります。例えば、4月1日から9月30日までの入社の従業員には入社日に10日を付与し、10月1日から翌年3月31日までに入社した従業員は、9月30日までに入社した従業員とのバランスを考え、例えば以下のような日数を付与するというものです。もちろん、10月1日以降に入社する従業員は、本来であれば、労働基準法上、入社から6ヶ月経過するときに年休を付与すればよいため、次に到来する4月1日まで年休を付与しなくても問題ありません。しかし、そうなると、9月30日までに入社した従業員とのバランスが悪くなるため按分して付与するという考え方に基づいた按分して付与する方法になります。

年次有給休暇の法定付与早見表

「木戸部長」
 なるほど。会社の取扱いとして労働基準法を下回っていなければ問題はなく、あとは従業員間で不公平感が少なくなるようにどのようにしていくかということですね。

「社労士」
 その通りです。ただし、いまの方法ですと、入社日から年休が取れることの是非が問われることが多くあります。そこで、次に入社日には付与しない方法を考えましょう。例えば4月1日から9月30日に入社した従業員は、10月1日に10日を付与し、次に到来する4月1日に11日を付与します。そして、10月1日から翌年3月31日に入社した従業員には4月1日に10日を付与するという方法です。9月30日入社と10月1日入社では、4月1日時点で付与された日数に大きな開きがでますので、あとは会社としてどこまで考慮するかという話になります。

「坂本社長」
 いろいろな付与の方法があるのですね。今後、入社してくる従業員には新しい制度で付与していこうかと思いますが、在職者についても付与日を統一することはできますか?

「社労士」
 はい、可能です。付与日を統一する際には、どの時点においても労働基準法に抵触しないようにしておくことが必要になります。4月1日に統一する場合、3月1日が付与日であった従業員は、翌年の4月1日まで付与しないと1年を超えてしまいます。そのため、3月1日に付与を行ったうえで、翌月の4月1日にも付与を行う必要があります。

「木戸部長」
 1ヶ月前に付与したからといって、統一した付与日の4月1日に付与しない訳にはいかないということですね。そうなると移行のタイミングにはかなりの日数の年休を付与するケースが出てきますが、統一するためにはやむをえないということになりますね。

「社労士」
 はい。ちなみに、これまでの話では付与日を年1回、4月1日にするということですが、年1回でも付与日を10月1日にするという方法や、あるいは年1回ではなく入社のタイミングに合わせて、例えば4月と10月の年2回とする方法もあります。また、その他、毎月1日に付与していくという方法もあります。この方法の具体例を挙げると、5月1日から5月31日までに入社した従業員は全員5月1日に入社したものとみなして11月1日に付与し、6月1日から6月30日までに入社した従業員は全員6月1日に入社したものとみなして12月1日に付与するというものになります。

「木戸部長」
 なるほど。5月1日入社も5月20日入社も、11月1日に付与を行うということであれば、日々の管理は不要になり、毎月1回の管理となりますから、1年に12回の管理となりますが、いまよりもかなり楽になりそうです。後は管理の煩雑さと、従業員間の付与日数のバランスを考え、社内でどのようにしていくか議論してみます。

>>次回に続く


菅野哲正社会保険労務士によるワンポイントアドバイス

 今回は、年休の付与日を統一する際の注意点について解説しましたが、実際に付与日を統一し、移行した際の年休の有効期間について補足しておきましょう。
 年休の有効期間は付与日から2年間となります。そのため、付与日の統一に伴い、例えば上記のようにいったん3月1日に付与を行い、さらに付与日となった4月1日にも付与を行う場合は、それぞれで2年間有効となり、年休の消滅のタイミングが異なるものが存在することになります。そのため、統一後、しばらくの間は、年休の時効管理が煩雑となり、誤って消滅させないように注意が必要です。

作成日:2017年08月10日

※文書作成日時点での法令に基づく内容となっております。

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