作成日:2017年07月13日

労働者死傷病報告を提出しなければならないときとは
会話形式で学ぶ人事労務の基礎知識(菅野労務FP事務所)

 坂本工業では、昨日、従業員が仕事中にケガをし、現在労災の請求を進めている。休業は1週間程度になる見込みであるため、休業補償給付を請求する準備をしていたところ、休業補償給付支給請求書(様式第8号)に「死傷病報告提出年月日」という欄があることに気づいた。そこで、死傷病報告について社労士に確認することとした。

「木戸部長」
 昨日、当社の従業員が仕事中にケガをしました。すぐに病院に行ったのですが、今週は出勤できなさそうだと連絡がありました。

「社労士」
 そうでしたか、心配ですね。今週というと、少なくとも4日は休むことになりますね。

「木戸部長」
 はい、そうなりますね。休んだ期間について労災の休業補償給付を請求しようと思い、準備を始めたのですが、請求書の中に「死傷病報告提出年月日」という欄があり、どのような日付を記入するのか確認をさせて頂こうと思っていました。

「社労士」
 死傷病報告ですね。これは、正式には労働者死傷病報告といい、従業員が仕事中に負傷、窒息、急性中毒により、休業、死亡したときに、災害の発生状況等を記入し、所轄の労働基準監督署へ提出する書類になります。

「木戸部長」
 なるほど。休業補償給付の請求をするということは、当然、休業が発生するということですので、労働者死傷病報告を提出した日付を記入する欄があるということですね。ただ、災害の発生原因や発生状況は、労災の各給付の請求書に記入しているので、労働基準監督署は請求書から状況を把握できると思うのですが、労災の請求書とは別に提出しなくてはいけないのでしょうか。

「社労士」
 はい、その通りです。労災の請求は、あくまでも治療や休業補償等の給付を受けるためのものですが、労働者死傷病報告は、事故の発生原因を明らかにして、労災事故防止に役立てるものとなっています。つまり提出する目的が異なるのです。また、その根拠となる法律も異なっており、労災の給付については労災保険法に基づき、そして労働者死傷病報告は労働安全衛生法に基づくものになります。

「木戸部長」
 そういうことであれば、理解できますね。

「社労士」
 いまお伝えしたとおり、労働者死傷病報告は、事故の発生原因を明らかにするものですから、実は、仕事中以外であっても、事業場内や付属する建設物・敷地内で従業員がケガをして休業した場合も提出が義務付けられています。

「坂本社長」
 例えば、昼休み中に事業場内にある階段で転んで骨折し、休むようなときも提出が必要になるということですね。

「社労士」
 はい、そうなります。これら労働者死傷病報告が必要となる典型的な例を整理すると、以下の2つになります。

  1. 業務上のケガや病気で休業したとき
  2. 業務外であっても、会社の建物内で従業員がケガをして休業したとき

 なお、1日も休業していなければ報告は必要ありませんが、大きな事故が発生し従業員が即死したような場合には休業がなくても提出が必要になります。

「木戸部長」
 なるほど、確かに「仕事中の災害で休業したときに提出が必要」と覚えてしまうと労働者死傷病報告の提出を忘れそうですね。気をつけることにします。

「坂本社長」
 ところで、この労働者死傷病報告を提出し忘れていた場合、何かペナルティーがあるのですか?

「社労士」
 はい、労働者死傷病報告を故意に提出しないことにより報告を行わない、虚偽の報告を行った、また遅滞なく提出をしなかったような場合には、書類送検され、50万円以下の罰金に処されることがあります。最近、厚生労働省ではホームページで、労働基準法、労働安全衛生法、最低賃金法等の労働基準関係法令の違反について書類送検した企業名等を公表しています。この労働者死傷病報告を提出しなかったことにより、書類送検され、企業名等が公表されている事案も多く見られますので、このような観点からも労働者死傷病報告の提出が重視されています。

「坂本社長」
 書類送検、そして企業名等の公表ですか、企業にとって厳しい対応ですね。

「社労士」
 はい、厚生労働省は、労災事故防止に力を入れており、労働者死傷病報告が提出されないと事故防止への取組みができなくなることから、報告を怠った企業は「労災かくし」を行ったとして厳しく取り締まっています。なお、この労働者死傷病報告ですが、休業4日以上の場合は、概ね2週間以内に提出するようにしてください。法律上の提出期限は、「遅滞なく」となっていますが、災害発生日から1ヶ月を過ぎて提出した場合は、遅延理由書によりなぜ提出が遅れたかの説明を求められることがあります。ちなみに休業4日未満の場合は、休業4日以上の様式と異なり、提出期限は四半期ごとに各期間の翌月末までに発生した災害をまとめて報告することになっています。

「木戸部長」
 今回は、休業が4日以上になりそうですので、早く提出しなければなりませんね。そして、休業補償給付支給請求書にも確実に提出日を記載するようにします。

「坂本社長」
 書類送検され企業名等の公表となっては困りますからね。

「社労士」
 そうですね。まずは労災を発生させないことが必要ですが、万が一、労災で休業が発生してしまった場合は、労働者死傷病報告を思い出し、忘れずに対応してください。

>>次回に続く


菅野哲正社会保険労務士によるワンポイントアドバイス

 労働者死傷病報告は、労働安全衛生法に基づく報告となり、仕事中の災害等で1日以上の休業が発生した場合に提出しなければなりません。この際に提出する様式は4日以上の休業の場合と、4日未満の休業の場合とは異なります。また、提出期限も各々異なっており、4日以上の休業の場合は、遅滞なく提出しなければなりませんが、4日未満の場合は、四半期ごとにその期間内の労災をまとめて各期間の翌月末までに報告します。この報告は、労災の請求とは別の提出となることに注意しましょう。

■参考リンク

厚生労働省「Q&A 労働者死傷病報告の提出の仕方を教えて下さい。」
http://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/faq/12.html

作成日:2017年07月13日

※文書作成日時点での法令に基づく内容となっております。

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