作成日:2017年06月13日
服部工業では、従業員より保育士になりたいため、退職をしたいという相談があった。会社としては、やむを得ない退職と思いつつ、何かこの従業員が活用できる制度はないのか、社労士に相談することにした。
「木戸部長」
実は、高卒で当社に入社した従業員から退職に関する相談がありました。理由を聞くと、社会人になって3年ほど経ち、一旦はあきらめた保育士になるという夢を捨てきれず、学校に通って資格を取りたいということでした。
なるほど、就職したものの、夢を追いかけたいということですね。
「坂本社長」
せっかく入社から3年経ち、仕事もしっかりとできるようになってきたところなので、正直、とても残念なのですが、その従業員の夢も応援したいなと感じています。
「木戸部長」
最初は通信の講座などを活用し、働きながら資格を取り、資格が取得できたら転職するというのはどうかと提案したのですが、確実に資格を取得するために専門学校に通いたいということで今回、退職の話になりました。
御社としてはせっかく育った人材が退職するわけですから残念ですが、保育士不足が社会問題化している時代ですので、大きな視点からすると応援していきたいですね。
「坂本社長」
ええ。ですので、何らかの支援をしてあげたいとは思ってはいるのですが、会社として直接的に支援するのもおかしな話ですので、なかなか難しいと感じています。
そうでしたか。であれば、ぜひ、教育訓練給付金の制度を教えてあげてください。
「木戸部長」
教育訓練給付金ですか?
はい。雇用保険の中には、雇用保険の被保険者である従業員等を対象とした教育訓練給付金制度が設けられています。対象となる人は、雇用保険の被保険者期間が原則として10年以上という要件がありますが、初めての場合は当分の間2年以上となっています。そして、雇用保険の被保険者だけではなく、雇用保険の被保険者であった一定の人も対象になります。つまり、退職後でも対象になることがあります。
「木戸部長」
なるほど。今回の従業員も入社と同時に雇用保険に加入しているので、2年以上はあります。退職していても対象になるのであれば、受給できそうですね。
そうですね。それでは、制度の中身を具体的に解説していきましょう。そもそもこの教育訓練給付金制度には、一般教育訓練と専門実践教育訓練の2種類があり、今回のように保育士の資格取得を目指すようなケースであれば、専門実践教育訓練に該当する可能性があります。この専門実践教育訓練とは、いまから説明する1から3のうち、資格試験の受験率、合格率、就職・在職率などの指定基準を満たし、厚生労働大臣が指定した講座が対象となります。
- 業務独占資格・名称独占資格の取得を訓練目標とする養成施設の課程
看護師、電気工事士、建築士、介護福祉士、保育士など - 専門学校の職業実践専門課程
専修学校の専門課程のうち、企業などとの連携により、最新の実務知識などを身に付けられるよう教育課程を編成したものとして文部科学大臣が認定したもの - 専門職大学院
高度専門職業人の養成を目的とした課程
「坂本社長」
なるほど。今回のケースは、1に該当するということですね。
はい。ただし、先ほども説明しましたが、「厚生労働大臣が指定した講座」という制限があります。実際に指定されているかの確認は厚生労働省のホームページで検索できるようになっています。今回のケースでも学校の講座が指定されているかどうか確認してもらってください。
「木戸部長」
分かりました。ところで、どれくらいの給付金が受給できるのですか?
はい、給付額については、受講者が支払った訓練経費の40%※1となっています。そして、受講修了日から1年以内に資格取得等をし、継続して雇用保険の被保険者になっていたり、新たに雇用されて被保険者になっていたような場合には、追加で20%が支給されます。つまり、合計で受講者が支払った訓練経費の60%※2が受給できるということです。
- 上限 年間32万円(最大96万円)
- 上限 年間48万円(最大144万円)
「木戸部長」
この給付が受けられるとなると、本人にとっては助かりますね。
そうですね。注意点として、この給付が受けられるのは、原則2年間(資格取得につながる場合は最長3年間)です。さらに、この専門実践教育訓練給付は、雇用保険法が改正され、平成30年1月より拡充が行われる予定です。
「木戸部長」
具体的にはどのように拡充されるのでしょうか?
上記の受講者が支払った訓練経費の40%が「50%」になり、資格取得等をした場合は追加で20%の給付が受けられますので、合計も60%から「70%」に引き上がります。なお、上限についてもこの割合に基づいて引き上がります。
「坂本社長」
そうなると、今回の従業員には、少なくとも来年の1月までは弊社で働かないかと慰留するのもひとつですね(笑)。
確かにそれもありかも知れません。というのも、厚生労働省のホームページにある専門実践教育訓練指定講座一覧を見ても、多くの講座の開講が4月であり、厚生労働大臣が指定するタイミングが4月と10月となっています。
「木戸部長」
そういうことですね。確かに今回の従業員は、具体的な退職日までは申し出てきていませんし、相談に乗って欲しいとのことでしたので、このような制度の説明も含めて、一度、話をしてみることにします。
「坂本社長」
そうだな。個別対応はそのような形で頼むよ。そして、他にも業務に繋がるような資格や知識の習得を目指す従業員もいるかも知れない。そういう観点から雇用保険にこのような制度があることを周知してもよいかも知れないな。
「木戸部長」
そうですね。今度の社内報のネタのひとつとすることにします。
>>次回に続く
今回は、専門実践教育訓練給付について解説しましたが、一般教育訓練についてもとり上げましょう。
この一般教育訓練については、例えば簿記検定、情報処理技術者試験、介護職員初任者研修をめざす講座などが該当し、従業員の職業能力アップを支援する様々な講座が設けられています。対象となる人は被保険者期間が3年以上、初めての場合は当分の間1年となっています。給付額は受講者が支払った訓練経費の20%(上限10万円)で、4千円を超えない場合は支給されません。
なお、この一般教育訓練については、平成30年1月以降の拡充の対象外となっています。
この一般教育訓練についても、教育訓練講座検索システムで対象となる講座を探すことができるようになっているため、従業員にも案内したいものです。
■参考リンク
厚生労働省「教育訓練給付制度について」
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/shokugyounouryoku/career_formation/kyouiku/index.html
厚生労働省「教育訓練給付制度 厚生労働大臣指定教育訓練講座 検索システム」
http://www.kyufu.mhlw.go.jp/kensaku/SCM/SCM101Scr02X/SCM101Scr02XInit.form
作成日:2017年06月13日
※文書作成日時点での法令に基づく内容となっております。
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