作成日:2017年05月11日

注目が集まる時間外労働の上限規制とは
会話形式で学ぶ人事労務の基礎知識(菅野労務FP事務所)

 坂本工業では、依然として残業が多いため、最近、マスコミ等でよく目にする時間外労働の規制強化が気になっていた。そこで、今後の動向を踏まえ、どのように取組むべきかを社労士に相談することにした。

「木戸部長」
 こんにちは。少し前に、マスコミ等で時間外労働の上限について月100時間となるという話題がありました。今日は、この内容について詳しく教えていただけませんか?

「社労士」
 はい、私もちょうどご説明しようと思っていたところでした。まず、時間外労働に関する現行の制度内容について確認しておきましょう。労働基準法では、労働時間を原則として1日8時間、1週間40時間までと定めています。その上で、時間外労働・休日労働に関する協定(36協定)を従業員と会社で締結し、所轄の労働基準監督署長に届出することで、その範囲において時間外労働をさせることができる仕組みになっています。その際、時間外労働の上限については「時間外労働の限度に関する基準(平成10年労働省告示第154号)」という厚生労働大臣が出した告示(以下、「限度基準告示」という)により、原則として1ヶ月45時間、1年360時間と定められています。

「木戸部長」
 当社の36協定でも1ヶ月45時間、1年360時間と定めています。一方で、繁忙期については年に6回という制限はありますが、1ヶ月60時間まで時間外労働をさせることができるようにしています。

「社労士」
 特別条項のことですね。特に忙しい時期については、特別条項を締結していれば、先ほどの1ヶ月45時間、1年360時間を超えて、時間外労働をさせることができるようになっています。この特別条項による延長時間について御社では1ヶ月60時間とされていますが、法的には設けられていません。そのため、1ヶ月200時間まで残業をさせるといった協定も締結できることになっており、それが過重労働・過労死の原因になっていると批判されています。そのため、今回、限度基準告示を労働基準法に盛り込み、さらには罰則を付ける、さらに、現行の特別条項にあたる部分に関しても、上回ることのできない上限を設定していこうという方針になっています。

「坂本社長」
 なるほど、それが1ヶ月100時間という数字なのですね。

「社労士」
 そのとおりです。今後の改正の方向性ですが、時間外労働の上限は、現行の限度基準告示と同じ、原則として1ヶ月45時間、1年360 時間となる予定であり、現行の特別条項の部分である一時的な業務量の増加がやむを得ない特定の場合の上限について、時間外労働時間は年720 時間となる予定です。

「木戸部長」
 どれだけ時間外労働をしたとしても、1年720時間に収まるようにしなければならないということですか?

「社労士」
 そのとおりです。ただし、短期の上限が以下のとおり、別途定められる予定となっています。

  1. 2ヶ月、3ヶ月、4ヶ月、5ヶ月、6ヶ月の平均で、いずれにおいても、休日労働を含んで80時間以内を満たさなければならない。
  2. 単月では、休日労働を含んで100時間未満を満たさなければならない。
  3. 月45時間を上回る特例の適用は、年半分を上回らないよう年6回を上限とする。

「木戸部長」
 納期の変更や突発的な機械の故障などのトラブルでどんなに忙しくても、単月では100時間未満に収めなければならないのですね。そして、複数ヶ月にわたっても月平均80時間以内となっているということは、これまでは1ヶ月単位で確認していたものを、現行の特別条項が適用される部分については、その前後も複数ヶ月にわたり継続して確認が必要になりますね。

「社労士」
 そのとおりで、例えば6月が90時間であった場合、7月は70時間にしなければならないということになります。また、ここで併せて注目しておきたいことが、「休日労働を含んで」という文言です。

「木戸部長」
 確かに、「休日労働を含んで」と記載してありますね。

「社労士」
 最初に出てきた1ヶ月45時間、1年360時間、そして年720時間については、法定休日労働を含まない、時間外労働の時間数になります。ただし、先ほどの1ヶ月80時間、100時間については法定休日労働も含めた時間数になります。

「坂本社長」
 つまり、対象としている労働時間の範囲が異なるということですね。これは実務的には管理が大変ですね。当社でも長年、長時間労働の是正のために業務の見直し等を行うといった努力をしているのですが、今後のこれらのルールが適用されることを踏まえると、会社は何に取り組んでいけばよいのでしょうか?

「社労士」
 おそらく、会社が一方的に対策を打つというだけでは、限界があると思っています。従業員も含めて、長時間労働に対する意識を変えていく必要があるのではないでしょうか。そのためにも、まずは時間外労働の時間数を従業員に意識させることが第一歩ではないでしょうか。例えば、勤怠管理システムを活用し、月の途中で時間外労働が25時間など一定の時間を超えた時点で、本人と上長にアラートを出すことなどが考えられます。それをきっかけに、その後の業務の分担や段取りを見直すことができると思います。

「木戸部長」
 確かに1ヶ月間を集計して、結果的に月45時間を超えていたということでは、何も対策が打てませんね。勤怠の管理でそのようなことができないかをまずは確認してみます。

>>次回に続く


菅野哲正社会保険労務士によるワンポイントアドバイス

 今回は、今後改正が予定される時間外労働の上限規制の原則的な取扱いについて解説しましたが、併せて現行制度の適用除外となっている業種等について補足しておきます。これらの内容にまとめると下表のようになります。これらの動向も踏まえて、長時間労働となっている会社では現行のままとはできないことを再認識する必要があります。

 
現行
今後
改正法の一般則の施行期日の5年後
自動車の運転業務限度基準告示の適用除外罰則付きの時間外労働規制の適用除外としない年960 時間(=月平均80 時間)以内の規制を適用し、かつ、将来的には一般則の適用を目指す旨の規定を設ける
建設事業限度基準告示の適用除外罰則付きの時間外労働規制の適用除外としない罰則付き上限規制の一般則を適用する
※復旧・復興の場合を除く
医師時間外労働規制の対象2年後を目途に規制の具体的な在り方、労働時間の短縮策等を検討罰則付き上限規制の一般則を適用する
新技術、新商品等の研究開発の業務限度基準告示の適用除外実効性のある健康確保措置を徹底し、現行制度で対象となっている範囲を超えた職種に拡大することのないよう、その対象を明確化した上で適用除外とする

■参考リンク

首相官邸「働き方改革の実現」
http://www.kantei.go.jp/jp/headline/ichiokusoukatsuyaku/hatarakikata.html

作成日:2017年05月11日

※文書作成日時点での法令に基づく内容となっております。

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