作成日:2017年04月13日

定年再雇用者にかかる無期転換権の発生とその対応
会話形式で学ぶ人事労務の基礎知識(菅野労務FP事務所)

 平成25年4月1日以降に始まった有期労働契約が反復更新されて通算5年を超える人から、無期転換申込権が発生する。そのため、坂本工業では、この本格化する労働契約法の無期転換について、契約社員やパートタイマーに関しては、対応を済ましていたが、定年再雇用者についての対応に不安を抱いた。そこで、社労士に相談することにした。

「木戸部長」
 こんにちは。新年度が始まり、新入社員が入社したことで職場が活気づいています。素直に業務に取り組む姿勢は、他の従業員の刺激になっているようです。

「社労士」
 確かに、私も顧問先に電話をかけて新入社員が出ると、その一所懸命さに、私も忘れかけていた仕事への取り組む気持ちを思い出し、気持ちが引き締まります。

「木戸部長」
 毎年4月に初心を思い出し、いつの間にか忘れてしまっているので不思議ですよね。さて、新年度に入ったこともあり、無期転換に関して相談したいことがあります。

「社労士」
 無期転換ですか。確か、無期転換申込権が発生する前までに、御社では正社員登用をするか、無期転換を前倒しで進めるか、もしくは、雇い止めを考えるかの選択肢を作りましたよね。

「木戸部長」
 はい。契約社員やパートタイマーについては、すでに対応を済ましています。ただ、定年後、再雇用した従業員の取扱いは何も考えていませんでしたが、問題はないのでしょうか。

「社労士」
 御社の定年は60歳で、その後、1年更新で65歳まで再雇用することになっていましたね。

「木戸部長」
 そうです。もちろん、65歳までの5年間であれば、契約期間が通算5年を超えないため無期転換申込権が発生しないと思いますが、現在の求人難が今後も続くと、定年再雇用者も含め、いまいる人材にもう少し長く働いてもらうなどして、人材の確保・活用を考えていかなければならないと思っています。

「坂本社長」
 しかしそうは言っても、定年再雇用者についても65歳以降に無期転換申込権が発生するということであれば、会社として慎重に進めなければならないと考えています。

「社労士」
 なるほど。この無期転換制度は契約社員、パートタイマーなど名称を問わず、有期契約労働者が対象となりますので、定年再雇用者についても条件に当てはまれば無期転換申込権が発生します。ただし、「専門的知識等を有する有期雇用労働者等に関する特別措置法」(以下、「特例法」という)が設けられ、一部の対象者に関しては、無期転換申込権が発生するまでの期間が5年より長くなったり、そもそも無期転換申込権が発生しないという取扱いが認められています。この対象者のひとつに、今回のような定年再雇用者があり、手続きを行うことで無期転換申込権が発生しないという取扱いができることになっています。

「木戸部長」
 そのような特例があるのですね。会社で定年を迎え、その後、1年更新をしていた定年再雇用者が65歳まで働くことで、再度、無期雇用となってしまうのかと、疑問に感じていました。あくまで手続きをすれば、無期転換申込権が発生しないということでね。

「坂本社長」
 その手続きというものは、どのようなものですか。

「社労士」
 具体的な手続きは、「第二種計画認定・変更申請書」を作成し、都道府県労働局長の認定を受けることになります。この申請書には適切な雇用管理に関する計画として、定年再雇用者の特性に応じた雇用管理に関する措置として、「高年齢者雇用推進者の選任」や「健康管理、安全衛生の配慮」といった対応が必要になります。なお、この特例法ではあくまで御社で定年前より継続して雇用している従業員が対象で、定年の年齢を超えた人を新たに雇用した場合などは、対象外です。

「木戸部長」
 当社で定年を迎え、再雇用になったかがポイントですね。ちなみに、もしも当社は65歳までしか雇用しないということであれば、この手続きは不要ですね?

「社労士」
 そのとおりです。そういった方針の企業もありますが、この申請書は1回認定を受ければそれ以降の提出は不要となるものでもあり、今後、65歳以降も雇用する可能性が少しでもあれば、手続きをされておかれた方がよいとも判断できます。また、この書類は本社で一括して作成し、労働基準監督署を経由して労働局へ提出することが可能になっています。

「木戸部長」
 36協定などの書類は事業場単位で作成していますが、これの書類については営業所や支店の分も本社で一括することができるのですね。ちなみにこの書類はいつまでに提出すればよいのでしょうか?

「社労士」
 少なくとも定年再雇用者について無期転換の申込みができる前までに都道府県労働局長の認定を受けておく必要があります。ただ、認定を受けるまでに時間がかかることもあり、また来年3月には提出が殺到する可能性もあるため、早めに提出しておいた方がよいですね。

「木戸部長」
 わかりました。早めに準備します。

>>次回に続く

菅野哲正社会保険労務士によるワンポイントアドバイス

 今回は、定年再雇用者の無期転換申込権の発生と特例の手続きについて解説しましたが、併せて必要となる労働条件通知書への記載について補足しましょう。
 この特例法による認定を受けた場合、企業は労働契約の締結・更新時に該当者に対して、特例法の対象となっている旨を書面に明示する必要があります。例えば、厚生労働省が提供している労働条件通知書の雛形には、以下のような項目があり、定年再雇用者の場合、無期転換申込権が発生しない期間としてⅡに○を付けることになります。

労働条件通知書の項目追加例(該当箇所の項目のみ)

【有期雇用特別措置法による特例の対象者の場合
無期転換申込権が発生しない期間: Ⅰ(高度専門)・Ⅱ(定年後の高齢者)
Ⅰ 特定有期業務の開始から完了までの期間( 年 か月(上限10 年))
Ⅱ 定年後引き続いて雇用されている期間

 都道府県労働局長の認定を受けた後、自社で使っている労働条件通知書の雛形を修正しましょう。また営業所や支店で労働条件通知書の作成を行っているケースでは、古い雛形を使わないように担当者に周知をしておきたいものです。


■参考リンク

厚生労働省「労働契約法の改正について~有期労働契約の新しいルールができました~」
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/keiyaku/kaisei/index.html

作成日:2017年04月13日

※文書作成日時点での法令に基づく内容となっております。

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