作成日:2017年03月09日

企業に求められている同一労働同一賃金とは
会話形式で学ぶ人事労務の基礎知識(菅野労務FP事務所)

 最近、木戸部長は「同一労働同一賃金」という言葉を耳にすることが多くなり、今後、企業としてどのように対応をしていく必要があるのかが気になっていた。そこで、社労士に相談することにした。

「木戸部長」
 こんにちは。最近、同一労働同一賃金という言葉を耳にするようになりました。そこで今日は、今後、企業として求められる対応を伺いたいと思っています。

「社労士」
 この同一労働同一賃金は、以前からしばしば耳にする言葉にはなりますが、昨年、政府の「働き方改革実現会議」でこのテーマが議論され、大きな関心を集めるようになりました。そして、2016年12月20日、この働き方改革実現会議より「同一労働同一賃金ガイドライン案」(以下、「ガイドライン案」という)が公表されました。

「木戸部長」
 「案」なのですか?

「社労士」
 はい、現状ではまだ「案」となっています。というのも、現段階でこのガイドライン案は法的な拘束力が発生するものではないためです。今回のガイドライン案の公表を受け、法改正に向けた検討が始まっており、関係者の意見聴取や改正法案についての国会審議をふまえて、最終的に確定されることになっています。

「木戸部長」
 そういうことなのですね。

「社労士」
 さて、内容を見ていくと、このガイドライン案は、正規か非正規かという雇用形態にかかわらない均等・均衡待遇を確保し、同一労働同一賃金の実現に向けて正社員と非正規の間の不合理な待遇差を解消することを目指しています。細かな点になりますが、「均等」と「均衡」の両方の用語が出てきますので、単純に同じ労働であれば同じ賃金にするというだけでなく、均衡、つまりバランスも考慮に入れる必要があることになります。

「坂本社長」
 なるほど、不合理な待遇差を全般的に解消しようとしているのですね。

「社労士」
 そうですね。ですから、このガイドライン案では、正社員と非正規の間で、賃金が異なるなどの待遇差がある場合に、どのような待遇差が不合理で、どのような待遇差が不合理でないかを待遇ごとに事例も含めて示しています。それでは、中身について解説していきましょう。この中では、待遇を「基本給」「手当」「福利厚生」に分けて記載しています。まず、基本給については以下の3つのケースと昇給の考え方について、問題とならない例と問題となる例について例示しています。
 (1)基本給について、労働者の職業経験・能力に応じて支給しようとする場合
 (2)基本給について、労働者の業績・成果に応じて支給しようとする場合
 (3)基本給について、労働者の勤続年数に応じて支給しようとする場合
 (4)昇給について、勤続による職業能力の向上に応じて行おうとする場合

「木戸部長」
 まず整理すべき点としては、何を判断要素として、基本給を決めているのかということですね。

「社労士」
 そのとおりです。(1)の職業経験・能力という企業もあれば、(1)の職業経験・能力と(2)の業績・成果、(1)の職業経験・能力と(3)の勤続年数のように複合的に判断している企業もあるのではないでしょうか。まずは何を判断要素としているのか、現状の取扱いを確認することが必要ですね。

「木戸部長」
 なるほど。

「社労士」
 次に手当の中から、大きな注目を集めている「賞与」についてとり上げましょう。賞与については、「会社の業績等への貢献に応じて支給しようとする場合、無期雇用フルタイム労働者と同一の貢献である有期雇用労働者又はパートタイム労働者には、貢献に応じた部分につき、同一の支給をしなければならない。また、貢献に一定の違いがある場合においては、その相違に応じた支給をしなければならない」と示しています。つまり、会社の業績等への貢献に応じて支給している場合、同一の貢献であれば同一の支給が求められることになります。

「木戸部長」
 同一の貢献であれば、同一の支給が求められるということですか!?当社では、正社員に対して基本給に業績等への貢献に基づいて設定した係数を乗じて支給し、パート従業員には業績が良ければ寸志を支給しています。パート従業員の中にはベテランも多く、正社員と同じような仕事をしていたり、任せていたりすることがありますが、今後、問題になってくる可能性がありますね。

「社労士」
 そうですね。同じ目標が与えられ、同じように目標を達成して、企業の業績に貢献しているとすれば、同一の支給が求められるという話になります。また、このガイドライン案には、例えば家族手当や住宅手当、退職金について何も記載されていません。これは、同一労働同一賃金の対象にはならないという意味ではなく、基本的には同一労働同一賃金の概念は適用されると考えた上で、労使で議論して欲しいという考えがあるようです。

「坂本社長」
 なるほど。このガイドライン案に記載されていないことについて、考えなくてもよいという意味ではないのですね。

「社労士」
 そのとおりです。最後に、福利厚生については、福利厚生施設、慶弔休暇、病気休職などが挙げられています。この中でひとつ取り上げておくと病気休職について、「無期雇用パートタイム労働者には、無期雇用フルタイム労働者と同一の付与をしなければならない。また有期雇用労働者にも、労働契約の残存期間を踏まえて、付与をしなければならない」と示しています。

「坂本社長」
 有期雇用労働者についても休職を適用するということですか?

「社労士」
 はい。もちろん、有期雇用ですのでその契約期間を超えてまで休職を認める必要はありませんが、労働契約の残存期間を踏まえて付与が必要という判断になります。この病気休職とは、無期雇用の正社員を対象として、一定期間解雇を猶予し、休職事由の解消による復職を促すと同時に、休職期間満了までに復職できなければ、そこで退職取扱いをするという目的で設けられています。有期雇用は、雇用契約で定めた期間まで、特定の業務を行うために雇用していますので、休職の本来の目的から考えると少し違和感を覚えますが、ガイドライン案を踏まえ、今後、検討していくことが求められています。他の点についてもガイドライン案で考え方等が示されていますので、全体に目を通しておいてくださいね。ちなみに今回、ガイドライン案が示された意図は、企業においてこの同一労働同一賃金への対応がすぐにできるものではないため、時間をかけて検討して欲しいという政府側の思いがあるようです。

「坂本社長」
 確かに、すぐに対応するというのは難しいですね。まずはガイドライン案について目を通してみることにします。

>>次回に続く

菅野哲正社会保険労務士によるワンポイントアドバイス

 今回は、企業に求められる同一労働同一賃金ということで、ガイトライン案について解説しましたが、ここで、国がどのような考えをもっているのかを補足しましょう。
 このガイトライン案のなかで、不合理な待遇差の解消に向けて、賃金だけでなく、福利厚生、キャリア形成・能力開発などを含めた取組みを強く求めています。そして、このような正規雇用労働者と非正規雇用労働者の間の不合理な待遇差の解消の取組みを通じて、どのような雇用形態を選択しても納得が得られる処遇を受けられ、多様な働き方を自由に選択できるようにし、「非正規」という言葉を一掃することを目指しています。
 また今後の動きとして、3月末に働き方改革実行計画が出る予定となっていることから、その内容も踏まえた上で、企業としてどのように人材を活用し、人事制度や賃金制度を整理していくのか、検討を始めていくことが求められます。

■参考リンク

厚生労働省「同一労働同一賃金特集ページ」
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000144972.html

首相官邸「働き方改革実現会議」
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/hatarakikata/

作成日:2017年03月09日

※文書作成日時点での法令に基づく内容となっております。

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