作成日:2017年02月09日

営業所を新設した場合に行うべき労働保険の手続き
会話形式で学ぶ人事労務の基礎知識(菅野労務FP事務所)

 坂本工業では、この4月に営業所を新しく出そうと計画している。このように営業所を設立することは会社として初めてのことであるため、どのような手続きが必要なのかを社労士に相談することにした。

「木戸部長」
 こんにちは。実は4月に本社と離れた場所に営業所を出す計画があります。いま、やるべきことを洗い出していますが、社会保険等の手続きも必要になりますか?

「社労士」
 それは嬉しいお話ですね。場所が本社と離れたところということですので、労働保険に関する手続きが求められます。というのも、労働保険は「事業」を適用単位としているからです。

「木戸部長」
 企業単位ではなく、「事業」となるのですか?

「社労士」
 はい。この適用単位の「事業」とは、工場、商店、事務所、本社、支店、営業所、建設工事現場など、一定の場所で一定の組織のもとに、有機的に相関して行われる一体的な経営活動のことを言います。そのため、新たに営業所を設置する場合には、それらに独立性があるか否かによって、一つの「事業」と判断するかを決定することになっています。

「坂本社長」
 この独立性とは、どのように判断するのでしょうか?

「社労士」
 この独立性は、以下の3点により判断し、すべてに該当する場合、独立した事業として労働保険成立の手続きを行う必要があります。

  1. 場所的に他の事業場から独立していること
  2. 組織的に一つの単位体をなし、経理、人事、経営(業務)上の指揮監督、作業工程において独立性があること
  3. 施設として相当期間継続性を有すること

「坂本社長」
 なるほど。営業所の状況から判断するということですね。現在の計画では、営業所の従業員数は10名程度で、責任者として営業所長を配置する予定です。そして、少なくとも勤怠の管理は営業所で行ってもらおうと考えています。ただ、給与計算等は本社でまとめて行う予定をしています。

「社労士」
 従業員数や人事労務管理が行われることを総合的に考えると、今回は独立性があるように判断できますね。

「木戸部長」
 それでは手続きの準備を進めたいと思います。参考までにお聞きしたいのですが、今回は、10名程度の規模になる予定ですが、今後、2~3名といった少人数の場合にはどのように考えるのでしょうか?

「社労士」
 この場合、場所的に営業所が離れていても、従業員数が少なく、組織的に直近の事業所の事業に対して独立性のないものについては、直近上位、つまり一つ上の事業に包括して取り扱うこととされています。人数のみでの判断にはならないため、2~3名という情報のみでは判断できませんが、営業所ではタイムカードは打刻するものの、遅刻や早退の連絡も本社で確認し、年次有給休暇の申請も本社に対して行うといった場合には、本社と一体として判断されるでしょう。

「木戸部長」
 なるほど。独立性がなければ、その一つ上にまとめるということですね。

「社労士」
 そうですね。ここまでは労働保険の成立手続きについてお話してきましたが、労働保険に関連して保険料の納付について確認しておきましょう。今回、営業所の新設により、会社として本社と営業所の2つの保険関係が存在することになります。通常であれば、本社と営業所の各々で労働保険料を納めることになりますが、一定の条件を満たした場合には、「継続一括」という複数の事業の労働保険料をまとめて納めることが可能になります。

「木戸部長」
 本社で一括して納めるということですね。

「社労士」
 そうですね。本社で営業所もまとめて労働保険料の計算をすることができるため、事務負担が少なく、手続き漏れを防ぐことができます。ただ継続一括とするには、各々の事業が以下の条件をすべて満たしていることが必要で、会社が事前に申請し、厚生労働大臣の認可を受けておく必要があります。

  1. 事業主が同一人であること
  2. それぞれの事業が継続事業であること
  3. それぞれの事業が、次のアからウのいずれか1つのみに該当するものであること
    • ア.労災保険に係る保険関係が成立している事業のうち二元適用事業
    • イ.雇用保険に係る保険関係が成立している事業のうち二元適用事業
    • ウ.一元適用事業であって労災保険及び雇用保険の両保険に係る保険関係が成立しているもの
  4. それぞれの事業が「労災保険率表」による事業の種類を同じくすること

「木戸部長」
 これらの条件をすべて満たしているかの確認が必要ですね。また分からないことが出てきましたら相談します。

>>次回に続く

菅野哲正社会保険労務士によるワンポイントアドバイス

 今回は、事業所を新設した場合に求められる労働保険の手続きについて解説しましたが、ここで、そもそも労働保険の成立手続きを怠っていた場合の費用徴収に関しても確認しておきましょう。
 この成立手続きを怠った場合とは、成立手続きを行うよう指導を受けたにもかかわらず、自主的に成立手続きを行わないことを指し、さかのぼって労働保険料が徴収され、併せて追徴金が徴収されることになります。また、事業主が故意または重大な過失により労働保険関係成立届を提出していない期間中に、労災事故が起きた場合は、さかのぼって労働保険料、追徴金が徴収されるとともに、労災保険給付に要した費用の全部または一部が徴収されることになっています。

 その他、労働保険の加入後においても、事業主が一般保険料を滞納している期間中に労災事故が発生した場合についても費用徴収が行われ、支給された保険給付額の最大40%、事業主の故意または重過失により業務災害が発生した場合は支給された保険給付額の30%が事業主から徴収されることになっています。事業主としては、確実に労働保険の成立手続きや労働保険料の納付を行っておきましょう。

作成日:2017年02月09日

※文書作成日時点での法令に基づく内容となっております。

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