作成日:2016年12月08日

採用内定を取り消す際の注意点
会話形式で学ぶ人事労務の基礎知識(菅野労務FP事務所)

 坂本工業では、来年4月に3名の新入社員の入社を予定している。会社の業績は好調なことから、採用内定を取り消す状況にはないが、万が一、内定を取り消すケースが出てきた場合、どのような点に注意が必要なのかを社労士に確認することとした。

「木戸部長」
 先生、こんにちは。今年も残すところ1ヶ月を切りましたね。

「社労士」
 そうですね。年内に完了しておくべき業務のやり残しのないように、チェックリストを作るなどして対策をしておきたいですね。

「木戸部長」
 はい。12月には賞与の支給に年末調整、そして、社内行事としては忘年会を行う予定があります。その忘年会には、せっかくなので内定者も出席してもらおうと考えています。もちろん、来年の4月に入社していただく予定ですですが、万が一、既に出した採用の内定を取り消すとすると、どのような点に注意が必要ですか?

「社労士」
 御社の業績であれば、人材の不足感もあるので、すぐに内定の取り消しとはなりませんよね。そのような状況での内定の取り消しは難しいと考えてください。内定の状況は、まだ実際に労務の提供が行われていませんが、内定により労働契約が成立したと認められる場合には、その取り消しは解雇に当たることになります。

「木戸部長」
 え! 解雇になるのですか!?そうなると確かに内定取消しを行うことは難しいと考えなければならないですね。

「社労士」
 そのとおりです。根拠としては、内定取消しについても、労働契約法第16条の解雇権の濫用についての規定が適用され、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、権利を濫用したものとして無効とされるのです。

「坂本社長」
 なるほど。実際に行わざるを得ない状況があるとすると、通常、従業員を解雇するときと同様に合理的と認められる正当な理由がなければならないということになりますね。ところで、この内定により労働契約が成立したと認められる場合とは、具体的にどのようなタイミングになるのでしょうか。

「社労士」
 例えば、採用する旨の通知を行い、それに対して内定者が誓約書等を提出した時点で労働契約は成立するとされています。

「木戸部長」
 なるほど。入社日までまだ日があり、実際に働いているわけではないというのに、労働契約が成立するのですね。

「社労士」
 そのとおりです。そのような労働契約の状態は「始期付解約権留保付労働契約」と呼ばれています。また、新規学卒者の内定取消しの特有な手続きとして、あらかじめ公共職業安定所長と学校長に「新規学校卒業者の採用取消し通知書」を届け出る必要があります。この通知書の中には、内定取消しを実施しなければならない理由を記載することになっており、生産量や雇用量などの最近の関係指標、今後の事業活動の見通し等を含め、内定取消しを実施しなければならない理由等を具体的に記入することになっています。

「木戸部長」
 具体的な記載が求められるのですね。それでは、採用内定の取消しはしないけれども、新規学卒者の入社日を4月1日から繰り下げるようなケースについても何らかの手続きが必要なのでしょうか?

「社労士」
 この場合もあらかじめ公共職業安定所長と学校長に通知することが必要になっており、「新規学校卒業者の入職時期繰下げ通知書」という様式があります。この通知書では、学生への説明の状況や当初の入職時期以降、新たな入職期日までの間の扱いにおける支援等について具体的に記入することになっています。

「木戸部長」
 通知書の提出が必要なのですね。

「社労士」
 また入社日を繰り下げる際の注意点として、原則、採用内定者の合意を得ておく必要があります。

「坂本社長」
 事業主の都合で入社日を繰り下げることになるので、本人へ説明し、合意を得ておくということですね。そのほか、事業主として注意しておくことがありますでしょうか?

「社労士」
 内定取消しについては、企業名が公表されることがあります。具体的には事業主からの通知の内容が以下のいずれかに該当する場合が該当します。
(1)2年以上連続して行われたもの
(2)同一年度内に10人以上の者に対して行われたもの
(3)事業活動の縮小を余儀なくされているものとは明らかに認められないとき
(4)内定取消しの対象となった新規学卒者に対して、内定取消しを行わざるを得ない理由について十分な説明を行わなかったとき
(5)内定取消しの対象となった新規学卒者の就職先の確保に向けた支援を行わなかったとき

「木戸部長」
 学生にとっては生涯で1回限りの新卒入社となることから、内定取消しとならないように事業主として最大限の経営努力を果たすことが求められますね。

>>次回に続く

菅野哲正社会保険労務士によるワンポイントアドバイス

 今回は、内定取消しを行う際の注意点について解説しましたが、ここでは今年3月よりスタートした青少年雇用情報の提供について確認しておきましょう。これは、雇用のミスマッチや早期離職を防ぐため、企業に募集・採用に関する状況等の幅広い情報を積極的に提供するように求めています。そのため、採用応募者から求めがあった場合は、以下の(1)から(3)の3類型それぞれについて1つ以上の情報提供をしなければならないとされています。

(1)募集・採用に関する状況(以下例)
   ・直近3ヶ年度の採用者数及び離職者数
   ・男女別の直近3ヶ年度の採用者数
   ・平均勤続年数
(2)労働時間等に関する状況(以下例)
   ・前年度の所定外労働時間の実績
   ・前年度の有給休暇の取得状況
   ・前年度の育児休業の取得状況
   ・管理職の男女比
(3)職業能力の開発・向上に関する状況 (以下例)
   ・研修の有無及びその内容
   ・自己啓発補助制度の有無及びその内容

作成日:2016年12月08日

※文書作成日時点での法令に基づく内容となっております。

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