作成日:2016年11月10日

テレワーク導入とその際の労働時間の考え方
会話形式で学ぶ人事労務の基礎知識(菅野労務FP事務所)

 坂本工業では、父親の介護のために通勤が大きな負担になっていると申し出てきた従業員が出てきたことから、働き方の選択肢を増やすことができないかと思い、社労士に相談することにした。

「木戸部長」
 先生、こんにちは。最近、「テレワーク」という働き方があると聞きました。当社でも働き方の見直しをしようと思っているのですが、そもそも、テレワークとはどのような働き方なのですか?

「社労士」
 最近は多様な働き方の一つとして、「テレワーク」や「在宅勤務」ということばを耳にすることが増えてきましたね。「テレワーク」とは、パソコンなどのITを活用して時間や場所にとらわれない柔軟な働き方をすることを言います。普段のオフィスだけでなく、自宅や外出先、サテライトオフィスなどでITを活用しながら働くことを意味します。そして、「在宅勤務」は、一般的にテレワークの中でも自宅での勤務に限定して言うことが多くなっています。ただし、場合によってはITを使わない自宅での作業も含まれることがあるでしょう。

「木戸部長」
 テレワークというと場所がかなり自由なのですね。当社では、通勤時間が1時間半かかる従業員から、今後、父親の介護が必要な状態であるため、所定労働時間を働くことができなくなりそうだと相談がありました。介護の短時間勤務制度の利用も考えていますが、これを機会にテレワークも考えようと思います。

「社労士」
 そうですね。いま、テレワークの普及が急速に進んでいるのは、まさに子育てや介護といった個人の事情に応じた働き方にマッチすることが挙げられています。そして、その他にも、災害が発生時であっても業務が継続できるという観点からも導入に弾みがついています。また、テレワークが進むことで、オフィスのサイズを縮小したり、通勤手当の削減などから賃貸料や人件費の削減にも繋がるなどのメリットも言われていますね。

「坂本社長」
 ITの進化もありテレワークのような働き方ができる時代になってきたのですね。ところで、テレワークを進める上で、企業が気をつけなければならないことはありますか?

「社労士」
 はい。まずは働く場所をどうするかという点が挙げられます。少なからず企業の機密情報や個人情報を扱うのであれば、場所にとらわれないと言いつつも、サテライトオフィスや自宅内で仕事を行うべきという縛りは出てくるのでしょう。

「木戸部長」
 なるほど、確かに機密情報を扱う従業員が、サテライトオフィスや自宅以外で仕事を行ったとすると、資料の置忘れや情報セキュリティの面で心配になりますね。ただ、自宅での仕事となると、日常生活との境目が分かりづらく、労働時間が測りにくくなりますね。

「社労士」
 確かに労働時間が曖昧になりやすいため、あらかじめ、テレワークにおける労働時間のルールを決めておく必要があります。自宅での勤務であっても、始業時刻・終業時刻を明確にし、それをどのように管理するのか、そして、育児中の従業員に関しては、子どもの世話をしながらの在宅勤務を認めるのか、または子どもを保育所等に預けることを前提とするのかといった内容も考えておく必要があります。

「坂本社長」
 なるほど、導入前にルールをしっかり決めておくことは重要ですね。いま、お話に出た労働時間ですが、テレワークの場合、どの程度の時間仕事をしているか、目の前に従業員がいるわけではないので、確認できませんよね?ある程度の仕事を任せてしまい、労働時間管理をしないで実施することも可能ですか?

「社労士」
 誤解されやすいのですが、そうではありません。テレワークと言っても、労働基準法は適用されるため、当然、1日8時間、週40時間という労働時間の原則も適用されます。ただし、専門性が高く、仕事の進め方も任せた方がよいような場合には裁量労働制を導入することができますし、どうしても労働時間の把握ができないという場合には、事業場外のみなし労働時間制も導入することができます。ですから、場所が自宅だからという理由だけで労働時間管理の対象外にすることは適切ではありません。

「木戸部長」
 基本的には、仕事をする場所がオフィスから自宅に変わっただけと考えると、急に労働時間を管理しないと考えるのはおかしいように感じますので、行うのであれば始業時刻・終業時刻にオフィスに連絡を入れてもらうことで、労働時間管理をする方法がよいかも知れませんね。

「社労士」
 そうですね。他にも残業を行ったのであれば、割増賃金の支払が必要になります。深夜や休日の勤務も同様ですので、注意してください。

「坂本社長」
 なるほど。テレワークというと働き方が大きく変わる印象を持っていましたが、案外そうではなさそうですね。

「社労士」
 そうですね。出発点は、現状、オフィスでなければできない仕事は何か、そして、その仕事については代替の手段がないか、他の人の仕事と入れ替えることができないかといったところから始めてもよいのかも知れません。案外、この検討が業務の効率化につながったりすると聞いたいこともあります。

「木戸部長」
 なるほど。今回の父親の介護の相談をしてきている従業員は、勤続年数も長く、自律的に仕事を進めることができるため、まずはテストケースとして取り組んでも良いかも知れません。そのために、まずは業務の分析から行うように指示してみます。また、何かあれば相談に乗ってください。

「社労士」
 そうですね。テレワークを導入する際には試行錯誤から始まるかと思います。まずは週1日から始めるといったことも可能かと思いますので、テストを行ってみて、お困りごとがあればいつでも相談してください。

>>次回に続く

菅野哲正社会保険労務士によるワンポイントアドバイス

 今回は、テレワークを導入する際の基本事項について確認をしました。この他にも、ITを使う上でパソコンの準備をどうするか、通信費の負担は誰がするのかといった細かな点も取り決めを行っておく必要があります。またテレワークで勤務する日が多くなればなるほど、従業員間のコミュニケーションの問題も発生するため、少なくとも週1日は出勤を義務付けるといった対策を考えていくことが求められます。

作成日:2016年11月10日

※文書作成日時点での法令に基づく内容となっております。

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