作成日:2016年10月13日

36協定の特別条項を適用する際の注意点
会話形式で学ぶ人事労務の基礎知識(菅野労務FP事務所)

 坂本工業では、年末に向けて大口の注文が入り、しばらく従業員に残業してもらおうと考えていた。36協定にも関係してくることから、社労士に相談することにした。

「木戸部長」
 先生、こんにちは。読書の秋、食欲の秋になりましたね。

「社労士」
 そうですね。ついつい食べ過ぎてしまうので、注意をしなければと思っています。さて、今日は36協定のことで相談があると伺っていましたが、どのようなことでしょうか?

「木戸部長」
 はい。ありがたいことに年末に向けて大口の注文が入り、その対応で工場をフル稼働することになりました。すぐに人材を採用することが難しいため、従業員に1日2時間程度、そして、土曜日も出勤してもらおうと考えています。ざっと計算すると、月60時間程度の残業時間になりますが36協定の範囲内であれば問題ありませんか?

「社労士」
 今回のように突発的に大口の注文が入り、納期がひっ迫したようなケースについては、36協定の特別条項を適用することで、通常の延長することができる時間を超えて、残業をさせることが認められています。まずは届け出ている36協定の内容を確認してみましょう。

「木戸部長」
 はい。36協定には「一定期間における延長時間は、1ヶ月45時間、1年間360時間とする。ただし、通常の生産量を大幅に超える受注が集中し、特に納期がひっ迫したときは、労使の協議を経て、6回を限度として1ヶ月60時間、1年450時間までこれを延長することができる。なお、・・・」と書かれています。これから判断すると、月60時間まで残業をさせることができるということですね。

「社労士」
 そのとおりです。この特別条項は、一時的、突発的な事情があるときに認められるもので、1年のうち6回までとなっています。そのため、恒常的に残業が続いている場合は認められないこととなります。今回は、年末に向けて大口の注文が入るという通常ではない理由があるので問題ないでしょう。

「木戸部長」
 なるほど。いま確認したところ特別条項に「労使の協議を経て」とありましたが、これはどのような意味でしょうか?実は、厚生労働省のリーフレットを参考にして届け出ており、細かな点を気にしていませんでした。

「社労士」
 同じように記載しているところも多いように思います。この労使の協議とは、特別条項を適用する前に、会社と従業員代表とが話し合いをすることを意味しており、その協議の議事録を残しておく必要があります。

「木戸部長」
 協議したという証明に議事録が必要になるのですね。ただ、仕事が忙しい時期に協議する時間を取ることは現実的には困難のように思います。他の方法はないのでしょうか?

「社労士」
 はい、協議以外に、通知や承認といった方法も可能で、特に労使が行う手続きに制約は設けられていません。ただし、具体的に定めておくことが求められています。

「木戸部長」
 そうでしたか。それでは、来年の36協定では、通知にするなど方法を考えたいと思います。

「坂本社長」
 ところで、この特別条項は部署単位で適用することになるのでしょうか?

「社労士」
 これは、部署ではなく個人単位になります。例えば10月はAさんとCさん、11月はAさん、BさんとDさんのようになり、部署全員対象ということになれば、製造部(Aさん、Bさん、Cさん、・・・)となります。過重労働の観点からも、一人に負荷がかかるのではなく、全体として最適な方法を考えたいものですね。また、6回のカウントについても個人単位でカウントすることになっています。

「坂本社長」
 ということは個人単位で6回の管理が必要だということですね。

「社労士」
 そのとおりです。今回は年末までという話でしたが、例えば機械のトラブルや納期の変更で特別条項を適用しなければならないケースが出てきた場合、6回を超えて特別条項を適用することはできません。いつ、誰に、どのような業務を割り振り、場合によって特別条項を適用するような残業をしてもらうかは、しっかりと管理していくことが求められます。また、残業が続くようであれば、人材を採用するなどして早めに対応することが求められます。

「木戸部長」
 確かにそうですね。しばらくは長時間労働となってしまいそうですが、普段の労務管理において、長時間労働とならないようにどのような点に注意をすればよいのでしょうか?

「社労士」
 多くの企業では、月の残業時間を集計した時点で限度時間を超えており、あとの祭りになっていることがあります。特別条項を適用するときには、事前に労使が行う手続きを経ておく必要があることから考えても、月の残業時間が一定時間(例えば20時間)を超えた時点で対象者を現場の管理職に知らせたり、月の途中で部下の残業時間の経過を知らせたりして、事前にアラームを出すことが重要です。

「木戸部長」
 現場の管理職がキーマンとなり、総務としては働きかけていくことが重要ですね。労働時間管理については今後も相談させてください。

>>次回に続く

菅野哲正社会保険労務士によるワンポイントアドバイス

 今回は、36協定の特別条項を適用する際の注意点について解説しましたが、ここで、36協定違反について確認しておきましょう。36協定の届出をせず、従業員に残業をさせた場合に36協定違反となりますが、これ以外にも36協定に記載した延長することができる時間を超えて残業させた場合も、違反になります。そのため、残業時間の実態を確認した上で、必要に応じ、特別条項の締結も検討しなければなりません。また特別条項を締結することが過重労働を助長することにならないように配慮しながら、適正な管理を行っていきましょう。

作成日:2016年10月13日

※文書作成日時点での法令に基づく内容となっております。

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