作成日:2016年09月08日

ますます重要性が高まる労働時間管理
会話形式で学ぶ人事労務の基礎知識(菅野労務FP事務所)

 木戸部長は残業申請において、毎日同じ時刻を記載している従業員がいることが気になっていた。そこで、社労士に相談することとした。

「木戸部長」
 少しずつ秋の気配を感じるようになりましたね。今日は、労働時間管理のことで相談にのってください。当社では、労働時間管理を自己申告で行っており、残業をするときには、残業申請書を事前に提出し、事後に実績を記載するようにしています。ただ、従業員の中に、毎日同じ時刻を記載している者がおり、本当に正しい時刻を申請しているのか疑わしく思っています。この他にも、残業申請書が形骸化し、事前申請は行わず、実績のみを提出期限直前に1ヶ月分をまとめて書いている者もいるようなのです。

「社労士」
 なるほど。事前申請が形骸化をするという話はよく耳にします。そのようなときは、なぜ事前申請をするのかを再確認する必要があるのでしょうね。

「坂本社長」
 確かに、単純に所定労働時間内にできなかったから、残業してやりますという風潮がありますね。どのような段取りをつければ、所定労働時間内に終わることができるのかという視点を持つ必要がありますね。

「木戸部長」
 そうですね。ところで、毎日同じ時刻を記載している者の件ですが、実は、記載された時間を超えて遅くまで残っている姿を見かけたこともあり、どのように対応したらよいのか迷っています。

「社労士」
 そうでしたか。それでは、まず労働時間管理の基礎について解説しましょう。労働時間把握については、通達「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関する基準」が出されており、労働時間を適正に管理するために、従業員の労働日ごとの始業・終業時刻を確認し、記録することになっています。

「坂本社長」
 労働日ごとというとは、毎日、従業員1人1人について確認が必要ということですね。

「社労士」
 そのとおりです。そして、その確認と記録の方法については、使用者の現認もしくはタイムカード等の客観的な記録が原則とされていますが、これらの方法が難しいようであれば、自己申告制を採用することも可能とされています。実際、企業においては、タイムカードか自己申告制を採用しているケースが多いように感じます。

「木戸部長」
 当社は自己申告制ですが、どのような点に注意が必要なのでしょうか?

「社労士」
 この通達の中で、以下の3点が注意点として挙げられています。

  1. 自己申告制を導入する前に、その対象となる労働者に対して、労働時間の実態を正しく記録し、適正に自己申告を行うことなどについて十分な説明を行うこと。
  2. 自己申告により把握した労働時間が、実際の労働時間と合致しているか否かについて、必要に応じて実態調査を実施すること。
  3. 従業員からの労働時間の適正な申告を阻害する目的で時間外労働時間数の上限を設定するなどの措置を行わないこと。

「木戸部長」
 なるほど、当社では労働時間の実態を正しく記録されているか疑わしい部分がありますので、上記2.の実態調査が必要だということになりますね。

「社労士」
 そうですね。例えばパソコンのログと突合せをして、大きな乖離がないかをチェックするような方法が考えられます。

「木戸部長」
 パソコンが動いているということは、仕事をしている可能性が高いということですね。

「社労士」
 はい。もちろん、単純にログイン=始業時刻、ログアウト=終業時刻とはなりませんが、調査結果と提出されている残業申請書と突き合わせてみることで、実態が見えてくる可能性があります。そして、実際に残業しているものがあれば、正しい時刻で再度申請してもらう必要があるのでしょう。他社のケースですが、営業成績が上がっていないのに残業を申請することは気が引けると考え、残業を申請しない従業員もいるようですね。

「木戸部長」
 それでは不払い残業になってしまい、会社としては困りますね。

「社労士」
 そうですね、本人の申告とは言え、実際に残業をしていることには変わりありません。会社の知らないところで不払い残業のリスクを抱えたくはないものですね。そのため、会社としては従業員に対して、きちんと残業申請を行うようにアナウンスするとともに、管理職に対しても、残業申請の内容を確認し実際と異なるようであれば指導するよう、改めて役割を認識させておくことが重要です。それから、今回の件に直接関係するわけではありませんが、労災認定に関係する内容で確認しておきたいものがあります。今年2月に通達「労災補償業務の運営に当たって留意すべき事項について」が出され、タイムカード等の実労働時間と直結する資料が得られない場合は、IC定期券等の乗車記録の確認を行うということが記載されました。

「木戸部長」
 IC定期券ですか!?

「社労士」
 はい。これはIC定期券の乗車記録をみることで、出勤・退勤時刻をある程度、予測ができると考えられているからです。

「木戸部長」
 確かに。それにしてもIC定期券の乗車記録が労災認定に活用されるようになるとは、時代を感じますね。

「社労士」
 そうですね。一時期は記録をつけなければ始業・終業時刻を証明するものがないと考える経営者がいた時期もありましたが、いまや逆の状況になったといっても過言ではありません。IC定期券は労災認定の話でしたが、労働時間の管理についてタイムカードがなかったとしても、先ほどお話したパソコンのログの他にもビルに入退出するセキュリティカード等の記録を材料に検討することなどもできます。

「木戸部長」
 会社としては、実際の労働時間が記録されているかどうかを確認し、過重労働を減らしていくことがとても重要になりますね。

>>次回に続く


菅野哲正社会保険労務士によるワンポイントアドバイス

 今回は、労働時間管理についてとり上げましたが、これに関連して労働時間の記録に関する書類の保存について補足しておきましょう。労働基準法では始業・終業時刻など労働時間を記録したものを3年間保存することになっていますが、これはタイムカードだけでなく、残業申請書など従業員が作成したものも含まれます。保存期間のスタートは、書類ごとに最後の記入がなされた日となっていますので、大掃除などで誤って廃棄することがないよう保存しておきましょう。

(参考リンク)厚生労働省「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関する基準」

http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/roudouzikan/070614-2.html

作成日:2016年09月08日

※文書作成日時点での法令に基づく内容となっております。

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