牧場の事務職の従業員が深夜に労働した場合には、割増賃金を支払う必要があるのでしょうか?

 当社は競走馬の牧場を営んでいますが、馬のお産の関係上、恒常的に夜勤や残業が発生します。

 それに伴って事務職員にもときどき深夜労働や時間外労働が発生しますが、当社の業種は農業ですので、労働時間等の規制は適用されないものとして、割増賃金を支払っていません。

 しかし、先日、ある事務職員から「深夜業や残業した時間については時間給の2割5分増しで給料を支払ってほしい」といってきました。
 法律上これに応じる必要はあるのでしょうか?

上記「牧場の事務職の従業員が深夜に労働した場合には、割増賃金を支払う必要があるのでしょうか?」に対する回答

 牧場は農業に当たりますので、労働基準法の労働時間等の規定は適用されませんが、牧場で事務職に従事する従業員は「著しく労働の態様を異にする部門」に当たるため、同一の事業場であっても牧場に従事する労働者には該当しません。

 したがって、深夜業や時間外労働をさせたときには割増賃金を支払う必要があります。

 労働基準法第41条は、「この章(第4章:労働時間、休憩、休日及び年次有給休暇)、第六章(年少者)及び第六章の二(女性)で定める労働時間、休憩及び休日に関する規定は、次の各号の一に該当する労働者については適用しない」と定め、「別表第一第6号(林業を除く。)又は第7号に掲げる事業に従事する者」を適用除外対象事業としています。

 具体的には、
「土地の耕作若しくは開墾の事業」(第6号)および
「動物の飼育又は水産動植物の採捕若しくは養殖の事業その他の畜産、養蚕又は水産の事業」(第7号)
がこれに当たります。

 これは、農業や漁業などは天候、気象等の自然的条件の影響を著しく受けることが予想されることからとられた措置です。

 貴社の事業内容は、競走馬の飼育が主たる事業ということですので、別表第一第7号に該当するものと考えられますので、その業務に従事する労働者については労働基準法の労働時間、休憩、休日の規定の適用が除外されます。

 しかし、ここで問題となるのは、事務職に従事する労働者が別表第一第7号の事業に従事する労働者であるかどうかという点ですが、この点について考える場合、まず、労働基準法の適用単位が問題となります。

 すなわち、労働基準法の適用は事業場ごとに行われますので、貴社の牧場と事務所が一つの事業場とみなされるかどうかがポイントとなります。

 この点について行政解釈では「事業とは、工場、鉱山、事務所、店舗等のごとく一定の場所において相関連する組織のもとに業として継続的に行われる作業の一体をいう」としており、原則として場所的観念によって一つの事業とみなすこととしています。

 ただし、同一の場所にあっても「著しく労働の態様を異にする部門が存する場合」には、その部門を独立の事業とみなすとしています。
 たとえば、工場内の診療所や食堂などがこれに当たります。

 上記の行政解釈の原則論に基づくと、貴社の事務所が牧場の敷地内にある場合には、事務職も別表第一第7号の事業に含まれるかに見えます。

 しかし、たとえ牧場内に事務所があったとしても、貴社の牧場で事務職に従事する労働者は、上記の「著しく労働の態様を異にする部門」と考えられますので、別表第一第7号の事業に従事する労働者には該当しないものと考えられます。

 したがって、牧場で競走馬の飼育に従事する労働者は、確かに労働時間、休憩および休日に関する規定の適用が除外されますが、経理や総務などの“事務職”に従事する労働者は第41条の適用除外者には該当しませんので、時間外や深夜業をさせた場合には割増賃金の支払いが必要となります。

カテゴリー:諸手当

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