退職金支給率を変更する場合に、なにか制約があるのでしょうか?

 当社では、現在採用している退職金の支給率を変更したいと考えていますが、なにか問題はあるでしょうか。

 また、その場合に、最低基準のような制約はあるのでしょうか。

上記「退職金支給率を変更する場合に、なにか制約があるのでしょうか?」に対する回答

 退職金額が従来よりも低水準に算出されるような支給率の変更(引下げ)は、労働条件の不利益変更になりますので、労働組合や従業員の同意を得なければなりません。

 なお、退職金の支給率等に最低基準はありません。

 右肩上がりの業績向上を前提とした退職金制度は、その前提が崩壊した今日、企業に大きな負担として重くのしかかっており、多くの企業で見直し作業が進められています。

 貴社におかれましても、従前のルールが負担になってきたことから、その支給率の変更(引下げ)を検討されているものと推察いたしますが、企業にとっては大きな負担となる退職金も、従業員にとっては重要な労働条件のひとつですので、一方的な不利益変更は問題となります。

 就業規則の不利益変更等をめぐって争われた裁判例では、「新たな就業規則の作成又は変更によって、既得の権利を奪い、労働者に不利益な労働条件を課すことは、原則として、許されないと解すべき」(昭43.12.25 最高裁大法廷判決「秋北バス事件」)と、合理的な理由がない限り、労働条件を不利益に変更する就業規則の変更は許容できないとした見解が示されています。

 また、退職金の支給について定める退職金規程は就業規則の一部であり、退職金は労働条件のひとつですから、「既得の権利を奪い、労働者に不利益な労働条件を課す」ような退職金規程の変更(支給率の変更)も、同様に、合理的な理由がない限り認められないものと考えられます。

 さらに、退職金の支給基準の引下げについて争われた、「大阪日日新聞事件」では、「使用者が退職金に関する就業規則を変更し、従来の基準より低い基準を定めること」は「とうてい合理的なものとみることはできない」とし、さらに、「少なくとも変更前より雇用されていた労働者に対しては、その同意がない以上、その効力が及ばないものと解するのが相当である」(昭45.5.28大阪高裁判決)と判示しています。

 つまり、退職金額が従来よりも低水準となるような「支給基準の変更」は、労働者の同意がなければ認められないということになります。

 なお、退職金を含む労働条件について労働組合との間で労働協約に定めている場合には、労働組合の合意を経て変更した労働協約(退職金支給基準)は、組合員に合理的に効力を有することとなります。

 しかし、労働組合がない場合等に、単に、従業員の過半数を代表する者(以下「過半数代表者」)の意見聴取の手続きを経て変更された就業規則(の変更部分、すなわち、退職金の支給基準を引下げた部分)は、有効なものとはなり得ません。

 なぜなら、この場合の過半数代表者の意見聴取では(たとえ同意する旨の意見であっても)、就業規則の全適用労働者の同意を得たことにはなりませんので、労働者の同意を得ることなく労働条件を不利益に変更したことになるからです。

 したがって、労働組合がない場合等には、基本的には、対象社員(退職金支給基準変更前から在籍している社員)全員から同意を得ることが必要となります。

 なお、退職金の支給基準について制約を課す「最低基準」は、特にありません。

カテゴリー:退職金

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