社員を「減給処分」にするには、就業規則の定めが必要ですか?

 先日退職した社員は、退職時の事務引継ぎを殆どすることなく、また、会社からの貸与物の返却手続き等をいい加減にするなどし、当社は多大な迷惑を受けました。

 今月末日に最終給与を支払う際、退職時の怠慢・迷惑行為を事由として「減給処分」を実施したいのですが可能でしょうか。
 当社には就業規則はありますが、制裁の定めがありません。

上記「社員を「減給処分」にするには、就業規則の定めが必要ですか?」に対する回答

 就業規則に制裁に関する定めがない場合にも、社会通念妥当と認められる程度の不正・不良行為等に対しては「減給処分」の実施は可能です。

 労働基準法第89条は、就業規則に記載しなければならない事項について定めており、その第9号に「表彰及び制裁の定めをする場合においては、その種類及び程度に関する事項」をあげています。

 このように労働基準法は、「制裁の定めをする場合」、すなわち制裁に関して何らかの取り決めをする場合には、その種類と程度を就業規則に定めておかなければならないこととしています。

 このことから、就業規則に制裁に関する定めをしていない場合には、従業員がどんな不正・不良行為をしようとも、制裁処分の実施が認められないものと考えられがちですが、必ずしもそうではありません。

 この点について、裁判例の中にも、就業規則を作成していなかった事業場で実施された懲戒解雇の処分を是としたものがあります(昭46.11.1東京地裁判決「秀栄社事件」)。

 この判決では、当該事業場の使用者は、就業規則を作成し従業員に周知すべき義務(労働基準法第89条)には違反しているが、そのことで解雇(制裁処分)の実施が認められなくなるわけではない、と判示しています。

 この考え方に立てば、就業規則に制裁に関する定めを設けていない貴社でも、社会通念上許容される範囲内において、制裁処分の実施は認められ得るものと考えられます。

 ご質問では、退職する社員が、「退職時の事務引継ぎ」や「貸与物の返却手続き等をいい加減に」したために会社が「多大な迷惑」を受けたとのことですが、文面からだけでは迷惑の度合いがどの程度かはっきりしませんので、この事案が「減給処分」の対象となり得るかどうかを断定的に申し上げることはできませんが、当該行為による被害が相当程度のもので、社会通念上妥当であると認められる場合には、「減給処分」を実施してよいものと考えられます。

 ただし、「制裁の定めをする場合においては、その種類と程度に関する事項」を定めておかなければならないこと等を定めた労働基準法第89条には違反していますので、違反状態を解消するためにも、また、今後においてさまざまな不良・不正行為等が発生することを未然に防ぐためにも、就業規則に制裁の程度と種類等について、定めておく必要があるでしょう。

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