従業員が腱鞘炎になったとき、労災にあたるかどうかの判断は誰がするのでしょうか?
ある社員が、主としてパソコンと電話を使用する業務についていたために腱鞘炎になってしまい、肘を曲げることができないと言ってきました。
しかし、電話やパソコンは、仕事中だけでなく、私生活でも使用しているもので、必ずしも業務上災害になるとは思えません。
労災に該当するかどうかは誰が決めるのでしょうか?
上記「従業員が腱鞘炎になったとき、労災にあたるかどうかの判断は誰がするのでしょうか?」に対する回答
労災の認定は、事業所の所在地を管轄する労働基準監督署が行いますが、ご質問のような腱鞘炎などの「長期的に有害因子のある業務」に携わっていたことが原因となって発生した疾病については、認定基準が設けられています。
労災の認定は、事業所の所在地を管轄する労働基準監督署(以下、「所轄労働基準監督署」という)が行うこととなっています。
実際の手続きの流れとしては、被災労働者が所定の申請用紙に事業主の証明を受けたうえで、労災指定病院等や労働基準監督署の労災課に申請し、同課が労災であるかどうかを認定することになります(現実には、事業主が申請用紙を作成・提出することが多いようです)。
ところで、疾病や負傷が労災保険の業務災害に該当すると認定されるためには、
1.業務遂行性(事業主の支配下で被災した傷病であるかどうか)と
2.業務起因性(業務に起因して災害が発生し、その災害が原因となって、傷病等が発生したという相当因果関係があるかどうか)
の2つの要件を満たしていることが必要となります。
ご質問のケースのように、長期的に有害因子のある業務に携わっていたことが原因となって疾病に罹った場合には、この2つの要件のうち、業務起因性が特に問題となりますが、この業務起因性の有無については次の3つの要件を満たすかどうかによって判断されます(労働省発行のリーフレット「労災保険給付の概要」参照)。
まず、第一の要件は「労働の場に有害因子が存在していること」です。
つまり、職場において業務に内在する有害な物理的因子、化学物質、身体に過度の負担のかかる作業態様、病原体等の諸因子が存在していることが要件となるわけです。
二つめの要件は「健康障害を起こしうるほどの有害因子にばく露していたこと」です。
ばく露の程度を判断するためには、ばく露の濃度や期間のほか、どのような形態でばく露を受けたかということも含めたばく露条件の把握が必要となるわけです。
最後に、「発症の経過および病態」も業務起因性の有無を判断する際の要件となります。
業務上の疾病は、労働者が業務上の有害因子に接触することによって起こるものであり、少なくとも有害因子にばく露した後に発症したものでなければなりません。
ただし、業務上疾病の中には、有害因子にばく露した後、相当の潜伏期間を経てから発症するものもありますので、発症の時期は、有害因子にばく露したときまたはその直後に限定されず、有害因子の物質、ばく露条件等から見て医学的に妥当なものでなければなりません。
ご質問のケースについても、労災認定を受けるためには、これらの要件をすべて満たすことが必要であり、所轄労働基準監督署は、申請書の記載事項に基づいてこれらを判断します。
例えば、療養補償給付を受けようとする場合には、『療養補償給付支給請求書』に記載された「負傷又は発病年月日、負傷又は傷病の時刻、現認者の職名及び氏名、災害の原因及び発生状況、指定病院等の名称及び所在地、傷病の部位及び状態」等によって、労災に該当するかどうかの判断がなされます。
このとき、申請書類だけで判断がつかない場合には、医師の診断書や現場での事情聴取などが行われることもあります。
ご質問のように、腱鞘炎に罹った社員の方が、労災申請をしたいというのであれば、会社としては、罹病に至るまでの経過と事実関係を可能な限り証明してあげることが望ましいでしょう。
なぜなら、労災認定の判断は会社が行うのではなく、行政官庁(労働基準監督署)が行うものだからです。
なお、労災の申請が却下された場合には、その決定を知った日の翌日から60日以内に文書または口頭で労災保険審査官に対して不服申立て(審査請求)を行うことができます。
また、審査(一審)の決定に不服があるときには、決定書の謄本が送付された日の翌日から60日以内に文書で労災保険審査会に不服申立て(再審査請求)を行うことができます。
さらに、再審査(二審)の裁決に不服があるときには、議決を知った日の翌日から3ヵ月以内に裁判所に対して不服申立て(訴訟)を行うことができます。
カテゴリー:社会保険
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