労働組合に決算書の開示義務がありますか?

 当社(株式会社)には、従業員の過半数で組織する単一組織の労働組合がありますが、先般、組合から決算書の開示を要求されました。

 会社はこの要求に応じなければならないのでしょうか。

 できれば要求は拒否したいと思っています。

上記「労働組合に決算書の開示義務がありますか?」に対する回答

 必ずしも開示要求に応じる必要はありませんが、応じる場合でも、決算書を開示する必要はなく、商法で「公告」が必要とされている「貸借対照表またはその要旨」を開示することで十分でしょう。

 商法は、株式会社や有限会社など法人企業の代表取締役に対して、決算期ごとに、「貸借対照表、損益計算書、営業報告書、利益処分案または損失金処理案に関する書類とその付属明細書」を作成して取締役会の承認を受けなければならない旨を定めています(第281条第1項)。

 また、取締役会の承認後、株主総会(定時総会)に営業報告書の内容を報告し、その他の計算書類については承認を得なければならないものとしています(第283条第1項)。

 このように企業は、決算期ごとに、いわゆる決算書類を取締役会および定時総会に提出し、それぞれの承認を得なければなりません。

 さらに、商法は、定時総会の承認を得たのち、遅滞なく、定款に定めた方法によって「貸借対照表またはその要旨」を「公告」しなければならないものとしています(同第3項)。

 ここで、「公告」とは、官報または日刊新聞紙等に掲載することを意味します(法第166条第4項)が、実態として、多くの中小企業ではこの公告をしていないようです。

 商法は、また、「取締役ハ定時総会ノ会日ノ二週間前ヨリ」監査役の監査を受けた決算書類と監査役の報告書とを「五年間本店ニ、其ノ謄本ヲ三年間支店ニ備置クコトヲ要ス」(第282条第1項)、また、「株主及会社ノ債権者ハ営業時間内何時ニテモ前項ニ掲グル書類ノ閲覧ヲ求メ(中略)謄本若ハ抄本ノ交付ヲ求ムルコトエヲ得」(同第2項)と、株主や債権者に対して、決算書類等を閲覧したり謄本を求めたりする権利を保障していますが、労働組合は株主や債権者ではありませんので、決算書類等の閲覧・謄抄本交付請求権はありません。

 以上のことから、貴社が、商法第283条第3項に定める公告をしている場合には、組合に対してそれ以上の情報を開示する必要は必ずしもありませんし、この公告をしていない場合には、この点については厳密には商法違反になりますが、だからと言って、公告すべき事項(貸借対照表またはその要旨)を組合に開示しなければならないということにもなりません。

 したがって、労働組合が決算書の開示を求めている理由はご質問の文面からは判断できませんが、その要求には応じないこととしても差し支えありませんし、もし、開示する場合にも、前述の公告事項のみでも十分かと思われます。

 ただし、中長期的に見たとき、労使関係を円滑に保持していくうえで、あまり、頑なな対応をとることも好ましくないという面も考慮しなければなりません。

 また、決算内容、特に、貸借対照表は、会社の資産内容を表示したものですから、これを労働組合に開示することによって、会社の将来計画などについて共通の認識を得るための手段とすることもできるというメリットもあります。

カテゴリー:労使関係

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