退職後、退職前の会社と同一業種の会社を設立した場合、競業避止義務があるか?

 取締役を務めていた前職の会社で社長とトラブルを起こして解雇同然の形で退職し、その後、会社を設立して同一業種の事業を始めましたが、前の会社の得意先の取引は2年間制限されるのですか?

上記「退職後、退職前の会社と同一業種の会社を設立した場合、競業避止義務があるか?」に対する回答

 取締役を退任されているので、競業避止義務には当りません。

 商法第264条は取締役の競業避止義務について、「取締役ガ自己又ハ第三者ノ為ニ会社ノ営業ノ部類ニ属スル取引ヲ為スニハ取締役会ニ於テ其ノ取引ニ付重要ナル事実ヲ開示シ其ノ承認ヲ受クルコトヲ要ス」(第1項)、「取締役ガ第一項ノ規定ニ違反シテ自己ノ為ニ取引ヲ為シタルトキハ取締役会ハ之ヲ以テ会社ノ為ニ為シタルモノト看做スコトヲ得」(第3項)と定めています。

 このように、商法は、取締役が、自己または第三者のために会社の営業に属する取引を行う場合には、その取引きの事実を取締役会に「開示し」、「承認」を受けなければならないこととしており、これを、一般に「取締役の競業避止義務」といいます。

 この定めは、株式会社の取締役が、その会社の取締役として「自己又ハ第三者ノ為ニ」自社の営業の部類に属する取引きをしたとき、また、関連子会社等に派遣されて親会社と子会社の間で取締役を兼任する場合に、派遣先の会社の取締役として「自己又ハ第三者ノ為ニ」取引きをしたときは、派遣元会社の取締役会に報告し、承認を受けなければならないとした定めです。

 したがって、ご質問のケースでは、前職の会社の取締役は退任(解任)されていることと思われますので、ここでいう競業避止義務には当たらず、前の会社の得意先と取引をすることには何の制限もありません。

 前の会社の社長とトラブルがあり、解雇同然の状態で退職したということであれば、信義則の問題(民法第1条)も生じないものと思われます。

 なお、「2年間」についても何の根拠もありません。前掲の商法第264条は、第1項に違反した場合には「取締役会ハ之ヲ以テ会社ノ為ニ為シタルモノト看做ス」(第3項)ことができることとしていますが、この権利も、「取引ノ時ヨリ1年ヲ経過シタルトキハ消滅ス」(同第4項)とされており、関連会社等の取締役を兼務する場合の競業避止義務も1年間に限られています。

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