いったん提出された退職願の撤回を拒否できますか?
出産を控えた社員Aが、3月末に退職する旨を申し出ましたので受理していましたが、4月上旬に産前休業期間に入るので4月末の退職に変更してほしいといってきました。
この申し出を拒否することはできるでしょうか?
上記「いったん提出された退職願の撤回を拒否できますか?」に対する回答
退職願をいったん受理したあとの撤回の申し出は、拒否することができます。
民法では、原則としていったん発生した意思表示の効力は、後刻これを取り消すことはできないとしています。
しかし、法律上瑕疵 (かし)ある意思表示に限っては取り消すことができるとしており、次の二つの場合には、取り消すことができます。
1.詐欺もしくは強迫による意思表示(民法第96条)の場合
2.外部に示される表示の内容と内心の意思とが一致しないことを表意者自身が気づかない錯誤(同法第95条)の場合
ご質問のAさんの場合には、これらのいずれにも該当しませんので、民法上は、いったん受理された退職願を取消すことはできません。
したがって、その申し出を会社が拒否することに何ら問題はありません。
ところで、ご質問だけでは、Aさんがどういう理由で退職願の撤回を申し出てきたのかは分かりませんが、退職後に出産手当金を受給するために、退職日を先に延ばしたいということであれば、一考に値します。
社会保険の資格喪失後に出産手当金を受給するためには、在職中の被保険者期間が継続して1年以上あることが必要ですが、Aさんがこの受給資格を得るためには被保険者期間が1ヵ月足りないということなのかもしれないからです。
前述のように、民法上はこの申し出を拒否しても問題はないわけですが、会社が、こうした労働者の立場を考えたうえで、会社にとって大きな損失があるわけではないということで、退職撤回の申し出を受けても何ら問題もありません。
この点について、裁判例にも、「退職願を撤回することは、それが信義に反すると認められるような特段の事情のないかぎり自由である」(高知県職員事件昭45.12.26高知地判)としたものがあります。
ただし、この場合には、社会保険料の負担についても考慮しておく必要があります。
3月末の退職予定を、4月末退職に変更した場合には、社会保険料の負担が、事業主、従業員ともに1ヵ月分余計に発生するからです。
カテゴリー:解雇・退職
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