過労が原因と思われる「うつ病」の場合、労災の申請は可能でしょうか?

 当社はコンピューターソフトウエアの開発を行う会社ですが、システムのデータ管理を担当している社員が、過労が原因とみられる「うつ病」になり、診断書提出のうえ現在会社を休んで療養中です。

 この1年半は、土曜、日曜はもとより、夏期休暇やゴールデンウイークなどのまとまった休みもとれない状態で、月平均120時間の残業をしていました。

 年度末などはユーザーから直接呼び出しがあって精神的にもかなりまいっていたようです。

 このような場合、労災の申請は可能でしょうか。また、相談できる機関等があれば、紹介して下さい

上記「過労が原因と思われる「うつ病」の場合、労災の申請は可能でしょうか?」に対する回答

 業務と「うつ病」との因果関係を証明するのは、かなり大変と思われますが、厚生労働省(旧労働省)は、平成11年9月、労災認定基準の指針を作成しました。

 常態的な長時間労働を重視し、本人の既往歴なども判断要因としました。

 実際に、労災に適用されるかどうかは、御社を管轄する労働基準監督署に相談されるとよいと思います。

 従来は、過労による精神障害や自殺については、明確な基準がなかったため、申請しても、労災と認定されない場合が多かったのですが、労働省は、平成11年9月に「心理的負荷による精神障害等に係る業務上外の判断指針」(以下「指針」という 平11.9.14基発第544号)を発表し、認定基準を定めました。

 これは、業務上のストレスや過労で精神障害を起こしたり、自殺にまで至るケースが近年顕著に増加しているため、労災請求事案の処理を迅速・適正に処理するための判断のよりどころとするためです。

「指針」によると、業務上外の判断要件は、
1.精神障害を起こしていた、
2.発病前の半年間に業務による強いストレス(心理的負荷)があった、
3.業務以外のストレスや個人的な事情で精神障害を発病したとは認められない(精神障害やアルコール依存症の既往症がないなど)
 の3点です。

 そして、これらのいずれにも該当する精神障害は業務上の疾病として扱われることになりました。

 業務によるストレスの強度の評価に当たっては、ストレスの原因となった出来事及びその出来事に伴う変化等について総合的に検討することとされ、そのための指標として、31のチェック項目から成る「職場における心理的負荷評価表(以下「評価表」という)に定められました。

 「評価表」に掲げられたのは、
1.大きな病気や怪我をした、
2.悲惨な事故や災害を体験した、
3.交通事故を起こした、
4.労災の発生に直接関与した、
5.重大な仕事上のミスをした、
6.事故の責任を問われた、
7.ノルマ未達成、
8.新規事業や再建担当になった、
9.顧客とトラブルがあった、
10.仕事内容・量の大きな変化があった、
11.勤務・拘束時間が長時間化した、
12.勤務形態に変化があった、
13.仕事のペース、活動に変化があった、
14.職場のOA化が進んだ、
15.退職を強要された、
16.出向した、
17.左遷された、
18.不利益扱いを受けた、
19.転勤した、
20.配置転換があった、
21.自分の昇格・昇進があった、
22.部下が減った、
23.部下が増えた、
24.セクハラを受けた、
25.上司とトラブルがあった、
26.同僚とトラブルがあった、
27.部下とトラブルがあった、
28.理解者が異動した、
29.上司が変わった、
30.昇進で先を越された、
31.同僚の昇進・昇格があった、
 の31項目です。

 そして、これらの項目をストレスの強度を3段階で評価し、それらが精神障害を発病させるおそれのある程度のものであったかどうか判断します。

 過労自殺の労災認定は、これまですべて労働省本省が判断してきましたが、この指針ができたことにより、労働基準監督署レベルで労災に該当するかどうかの判断が可能となりました。

 また、労災保険法では、「故意に負傷、疾病、障害若しくは死亡」は、「保険給付を行わない。」(法第12条の2の2参照)と定めていることから、以前は業務に起因するうつ病等により「心身喪失」の状態に陥って自殺した場合に限って、「故意」がなかったこととしていましたが、労働省は、精神障害による自殺の取扱いについても、
「業務上の精神障害によって、正常の認識、行為選択能力が著しく阻害され、又は自殺行為を思いとどまる精神的な抑制力が著しく阻害されている状態で自殺が行われたと認められる場合には、結果の発生を意図した故意には該当しない」(平11.9.14基発545号)と、新しい判断を示しました。

 ところで、企業には職場環境の安全を図る義務、いわゆる安全(健康)配慮義務があり、民法第415条は、企業側に義務違反がある場合には損害賠償責任を負うこととしています。

 特に最近では業務による心理的負担を原因とした精神障害がクローズアップされており、その結果として自殺に至った場合の企業の健康配慮義務違反、損害賠償責任を認める判決も増えています。

 これまでは労災認定が難しかったため、企業側の賠償責任も問いにくい面がありましたが、上記の「指針」が出されたことによって、労災に認定されるケースが増えれば、企業も安全配慮義務が不十分だったと判断され、損害賠償に応じなければならなくなるケースが増える可能性があります。

 なお、実際に従業員が「うつ病」等の精神障害に罹った場合には、御社を管轄する労働基準監督署に、本人と一緒に行って相談されるとよろしいでしょう。

カテゴリー:社会保険

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