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目次

第3章 服務規律

<本章の規定>

 服務規律は、就業規則において職場の規律を保持する大切な規定であり、労働条件を定める条項と並んで重要な柱の一つといえます。

 労働基準法に基づく記載事項の性格としては、相対的必要記載事項(定めをする場合に記載しなければならない事項)です。

 労働者は、会社と労働契約を締結することにより、労務提供義務を負うとともにこれに付随して、

  • ①職務専念義務(就業時間中は職務にのみ従事し他の活動は行わないこと)
  • ②企業秩序遵守義務(就業時間中は施設の内外を問わず企業の正当な利益を侵害してはならないこと)
  • ③使用者の施設管理権に服する義務(企業の施設内では使用者の定める施設管理に関する規則に従うこと)

を負うものとされています。よって、就業規則には、これらの義務を具体的に、服務心得、訓辞事項、禁止事項などに区分して記載することになります。

 服務に関する基本的な心得や一般的に遵守すべき基本原則は、業種・業態に応じて、また、その企業の労務管理の考え方により、一定の範囲のものを従業員にわかりやすく規定しておくことが必要です。

 特に企業が重要な服務規律と考えた事項は、単独条文として独立して記載したり、就業規則への記載と併せて、ルールブックやマニュアル化をして、別規程にして詳細を定めることも考えられます。例えば、「セクシュアルハラスメント防止規程」「パワーハラスメント禁止規程」「秘密保持規程」「個人情報保護規程」「インサイダー取引禁止規程」「不正アクセス防止規程」「兼業禁止の規程」「内部通報制度規程」などです。

 なお、服務規律の規定に違反する行為は懲戒処分の対象とすることができますが、具体的な処分内容は、就業規則の懲戒・制裁の条項に従って行うことになります。

作成のポイント●6 出勤・退勤

【規定例】

  • 第14条(出勤・退勤)
    • 従業員は、始業時刻前に出勤し、始業時刻には業務を開始し、終業時刻まで業務を行わなければならない。

1.出勤と退勤の定義

 前記の就業規則規定例では、「始業時刻前に出勤し、始業時刻には業務を開始する」と定めています。

 例えば、事務職であった場合に、始業時刻を会社の入口に着いた時刻とするか、タイムカードを打刻した時間とするか、又は実際にデスクに座ったときにするかなどについては、就業規則の定めなど、労務提供の場所・態様に関連した労働契約上の合意に委ねられますが、労働時間は、労働者が使用者の指揮監督の下にある時間(拘束時間)から休憩時間を除いた実労働時間のことをいうため、実質的に使用者の指揮監督の下にある時間は労働時間と扱う必要があります。

 判例にも、労働契約上の労働時間の起算点は業務の開始時間をもってとらえるべきであり、タイムカードを打刻した行為は業務にはあたらないとしたものもあります。退勤も同じ考えで、タイムカードを打刻した時点が終業ではなく、業務を終了した時点が終業ですので、退勤はその後の行為になると考えられます。

 タイムカードを打刻した時点を始業(出勤)とし、タイムカードを打刻した時点を終業(退勤)と任意に定めることは差し支えありませんが、解釈について労使の疑義が生じないように、就業規則に出勤(始業)と退勤(終業)の定義を記載することが必要になります。

関連する法令・判例など

  • ・昭和33.10.11基収6286号(労働時間の意義)
  • ・石川島播磨重工業事件:東京高裁判決昭和59.10.31(労働時間の起算点の解釈)

作成のポイント●7 セクシュアルハラスメントの禁止

【規定例】

  • 第17条(セクシュアルハラスメントの禁止)
    • 従業員は、他人の職務を妨害し、又は職場の風紀秩序を乱す行為をしてはならない。
    • 2 他の従業員の業務に支障を与えるような性的関心を示したり、性的な行為をしてはならない。
    • 3 むやみに他の従業員の身体に接触したりすることや職場での性的な言動によって不快な思いをさせるようなことをしてはならない。
    • 4 他の従業員に対し、職務上の地位を利用して、交際を強要したり、性的関係を強要してはならない。

1.対価型(地位利用型)セクハラと環境型セクハラ

 「対価型(地位利用型)セクハラ」とは、労働者の意に反する性的な言動に対する労働者の対応(拒否や抵抗)により、その労働者が解雇、降格、減給等(労働契約の更新拒否、昇進・昇格の対象からの除外、客観的に見て不利益な配置転換等)の不利益を受けることです。

 「環境型セクハラ」とは、労働者の意に反する性的な言動により労働者の就業環境が不快なものとなったため、能力の発揮に重大な悪影響が生じる等その労働者が就業する上で看過できない程度の支障が生じることです。

2.職場におけるセクシュアルハラスメント対策の重要性

 職場におけるセクシュアルハラスメントは、労働者としての個人の尊厳を不当に傷つける社会的に許されない行為であるとともに、労働者の能力の有効な発揮を妨げることになります。企業にとっても、職場秩序や業務の遂行を阻害し労働生産性を低下させ、ときに社会的評価に影響を与える問題となります。

 また、セクシュアルハラスメントは、刑事上の責任(例:強制わいせつ罪(刑法第176条)、暴行罪(同法第208条)・傷害罪(同法第204条)、名誉毀損罪(同法第230条)等)を問われるのみでなく、被害者の人格権を侵害する不法行為(民事上の責任・民法第709条(不法行為)、同法第715条(使用者の責任))等となりうることもあります。

 そして、加害者への制裁のみならず、相談窓口担当者や経営担当者が、セクシュアルハラスメントが発生したことに対して適切な対応や対策をしなかった場合には、事業主ほかの使用者への責任を認定した裁判例も多く見られます。

3.男女雇用機会均等法におけるセクハラ防止規定

 男女雇用機会均等法は、セクシュアルハラスメント対策として雇用管理上必要な措置を講ずることを事業主に義務づけています。講ずべき措置は以下のとおりです。

  • ①セクハラの内容やセクハラがあってはならない旨の方針、セクハラの行為者についての対処方針・対処内容を明確にして労働者に周知すること
    • (例)
      • ■就業規則その他の職場における服務規律等を定めた文書において、あってはならない旨の方針を想定し、内容と併せ、労働者に周知・啓発する
      • ■就業規則その他の職場における服務規律等を定めた文書において、セクハラに係る性的な言動を行った者に対する懲戒規定を定め、その内容を労働者に周知・啓発する
  • ②相談や苦情に応じ、適切に対処するための体制を整備すること
  • ③実際に相談があった場合に迅速・適切な対応をすること
  • ④相談者等のプライバシー保護のために必要な措置を講じ周知すること、相談したこと等を理由として不利益取扱いがあってはならないと定め労働者に周知すること

 そして、セクシュアルハラスメントに関する労働者と事業主の間の紛争は、均等法に基づく「都道府県労働局長による紛争解決援助制度(均等法第17条)」及び「機会均等調停会議による調停(均等法第18条)」の対象になります。

4.その他の検討事項

  • ・懲戒処分及び懲罰委員会との関連についての記載の検討
  • ・「セクシュアルハラスメント防止規程(マニュアル)」の作成の検討

関連する法令・判例など

作成のポイント●8 パワーハラスメントの禁止

【規定例】

  • 第18条(パワーハラスメントの禁止)
    • 従業員は、いかなる場合でもパワーハラスメントに該当するか、該当すると疑われるような行為を行ってはならない。

1.パワーハラスメントとは

 「パワハラ」と呼ばれることもあります。職場の上司など権限を持つ者が、立場の弱い部下などに対して、力にものを言わせて無理難題を強要したり、私生活へ介入したり、ときには人権の侵害にあたるような嫌がらせを繰り返し行うことを言います。また、不適切な業務指導や行き過ぎた教育指導もパワハラの対象になり得ます。

 最近ではパワーハラスメントの急増に対処するため、防止対策として社内に相談窓口を設置したり、パワハラという言葉を就業規則などに明記して従業員の行動の基準づくりを進めている企業も増えているようです。

2.法的責任

 加害者の責任として、民事責任として不法行為に基づく損害賠償責任(民法第709条)が発生します。また、刑事責任が問われることがあります。具体的には、名誉毀損罪、暴行罪、傷害罪、侮辱罪などです。

 会社の責任として、不法行為責任(民法第709条)、使用者責任(民法第715条)、共同不法行為責任(民法第719条)、債務不履行責任(民法第415条)などがあります。また、会社には、安全配慮義務、職場環境配慮義務などがありますので、この部分の違反も考えられます。

3.その他の検討事項

  • ・「パワーハラスメント」の意味や解説を就業規則に記載することの検討

関連する法令・判例など

  • ・民法第709条(不法行為)、同法第715条(使用者責任)、同法第719条(共同不法行為責任)、同法第415条(債務不履行責任)
  • ・刑法第230条(名誉毀損罪)、同法第204条(傷害罪)、同法第222条(脅迫罪)、同法第208条(暴行罪)
  • ・静岡労基署長(日研化学)事件:東京地裁判決平成19.10.15(パワハラによる自殺に対する労災認定判決)
  • ・労働契約法第5条(労働者の安全への配慮:心身の健康への配慮)

作成のポイント●9 パソコン・携帯電話利用(私用禁止)

【規定例】

  • 第19条(パソコン・携帯電話利用(私用禁止))
    • 従業員は、パソコン及び業務用携帯電話を悪用し、又は私事に私用してはならない。

1.パソコン・携帯電話の私的利用の考え方

 パソコン(インターネット)や携帯電話は、今日では効率的な業務運営に欠かせないツールになっていますが、便利なツールであるがゆえに従業員に私的な利用が行われることが懸念されます。よって、私的利用の制限や管理方法など取り扱いについて就業規則に定めておくことが検討されます。

2.パソコンの私的利用の禁止と防止対策

 まず、就業規則への記載又はパソコン管理規程の作成により、インターネット・電子メールの私的利用を禁止する規定について検討します。この際に、私的利用を全面的に禁止するのか、又は業務に支障の無い範囲で一部の私的利用を認めるのか、を決めます。

 私的利用の防止対策として、①モニタリング(監視)する、②WEBサイトの閲覧を制限する、③インターネットが利用できるパソコンを制限する、④履歴を保存する、⑤職場の責任者に管理を任せる、などの方法が考えられますので、就業規則等に記載しておくとよいでしょう。ただし、モニタリング(監視)の実施にあたっては、従業員に対して、実施理由、実施時間帯、収集される情報等を事前に通知すると共に、個人情報保護に関する権利を侵害しないように、説明等の配慮をする必要があります。

3.携帯電話の業務上使用に関する取り扱い

 携帯電話は今やビジネスユースとして欠くことのできないツールです。ビジネスで使用する携帯電話は、会社名義の携帯電話を使用している企業が圧倒的に多いようですが、中には個人所有の携帯電話の業務上の使用を認めている企業も見られます。

 個人所有の携帯電話の業務上の使用を認めている企業においては、通話料の費用補助を行うのか否か、そして、費用補助を行うのであれば金額はどの程度か、ということが労働条件となりますので、就業規則への記載が必要になります。

 また、会社名義の携帯電話を従業員に貸与する場合は、常時携帯させている例が一般的と思いますので、私用電話をいかに防ぐかということが企業の関心事になります。これを防ぐには、「使用明細書を電話会社から取り寄せること」や「自己申告させて個人負担させる」などの対策が考えられます。この点が不明確ですと、誤解や労使トラブルの原因になりかねませんので、就業規則等にきちんと規定しておくとよいでしょう。

4.パソコン・携帯電話の不正使用に対する懲戒処分の考え方

 パソコン・携帯電話の不正使用には、①アダルトサイト等の閲覧、②私的メールの多用、③私的文書の作成、④会社貸与の携帯電話の頻繁な私的利用、⑤社内機密データの持ち出し、公開などがあります。これらのケースが起きた場合に、どのような措置(処分)を行うかを就業規則等に記載しておくことになります。

 記載にあたり難しい面は、どのケースにどんな処分を適合させたらよいか、ということです。

 一般的には、「処分なし」か、又は「譴責・注意処分」の比較的軽い処分が多いのではないかと考えますが、社内機密データの持ち出し、公開のケースについては、「懲戒解雇」の最も厳しい処分を検討することになるかも知れません。

 この点についての判断に錯誤がないように、服務規律違反と懲戒処分を関連づけて就業規則に記載しておく必要があります。

関連する法令・判例など

作成のポイント●10 個人情報の取り扱い

【規定例】

  • 第20条(個人情報の取り扱い)
    • 従業員は、会社の業務上の個人情報及び会社の不利益となるような事項を他に漏らしてはならない。

1.個人情報保護法に対応する就業規則等の整備

 個人情報保護法が平成17年4月から施行されています。個人情報取扱事業者(事業の用に供する電子ファイル又は紙ファイル等のデータベースを構成する個人情報によって、識別される特定の個人の数の合計が、過去6箇月間のいずれかの日において5,000人を超えている事業者)は、この法律の定めにより個人情報の漏えい事故などが起こらないように規程類を整備する等により、適切に情報を管理することが必要です。

 なお、個人情報取扱事業者にならない場合であっても、個人情報の漏えい事故が発生した場合には損害賠償責任等が発生する可能性がありますので、適切に対応するために規程の整備をお勧めします。

2.どんな規程を整備するのか

 個人情報取扱事業者の場合は、「個人情報保護に関する基本方針(プライバシーポリシー)」「個人情報取扱規程」及び「個人情報保護教育規程」は、最低限必要なものとなります。また、「監査規程」や「個人情報の外部委託に関する合意書」などを必要に応じて準備するとよいでしょう。

 また、個人情報取扱事業者にならない場合であっても、プライバシーポリシー等の作成を行い、社内に訓示・周知することは、内外共に信頼性の向上のために効果のあるものと考えます。

関連する法令・判例など

  • ・個人情報保護法

作成のポイント●11 秘密保持

【規定例】

  • 第21条(秘密保持)
    • 従業員は、会社の業務上の機密事項及び会社の不利益となるような事項を他に漏らしてはならない。

1.秘密保持義務を記載する意味

 秘密保持義務を就業規則に記載することは、企業の秘密保持に対する姿勢を明らかにし、従業員に十分な注意を促す意味からも必要なことです。また、就業規則に明記することにより、企業は従業員が秘密保持義務に違反した場合、就業規則の規定に従い懲戒処分を行うことも可能であり、債務不履行や不法行為として損害賠償請求も可能になります。

 具体的に運用するために別規程を作成することが考えられますが、その内容は、企業にとって秘密事項とは何か、秘密の保管場所、保管方法、責任者、事故発生時の対応、懲戒処分などの規定が検討されることになるでしょう。

2.秘密保持義務と内部告発

 秘密保持義務は、企業の不正行為の摘発という目的と関係して課されることもあります。最近は、従業員の内部告発により企業の不正行為が明るみに出るケースが数多く見られます。リコール隠しや食品への有害物質の混入、賞味期限切れの商品の販売なども従業員の告発が発端でした。

 従業員の内部告発には、極めて公益性の高いものもあります。とりわけ、一般消費者の安全や健康にかかわる事項については、従業員の内部告発を積極的に保護すべきという要請があり、この観点から、平成16年に「公益通報者保護法」が制定されました。ただし、従業員の告発行為は、場合によっては、誠実義務等の違反を理由に懲戒処分になることも考えられます。

 なお、労働基準法では、会社の労働基準法違反の事実について、従業員が労働基準監督署長に申告することができるとしており、このような申告をしたことを理由として会社が従業員に対して行う解雇その他の不利益取り扱いを禁止しています(労基法第104条)。

3.退職後の秘密保持義務

 会社としては、従業員が知り得た情報は、従業員が退職した後も保持される必要があります。しかし、退職後は労働契約関係が消滅しているので、誠実義務という観点から秘密保持義務を課すことができません。よって、退職前にその旨の合意をしておく必要があります。もっとも、その合意に違反する秘密漏えい行為に対しては、退職後ですから懲戒処分を課すことができませんので、損害賠償請求や差し止め請求の手段を取ることになります。

4.その他の検討事項

  • ・機密情報の管理や情報漏えい、データの管理について具体的に記載することの検討

関連する法令・判例など

  • ・公益通報者保護法
  • ・労働基準法第104条(監督機関に対する申告)
  • 不正競争防止法第2条(不正競争の定義

作成のポイント●12 兼業の禁止

【規定例】

  • 第24条(兼業の禁止)
    • 従業員は、許可なく他の会社の役員若しくは従業員となり、又は会社の利益に反するような業務に従事しないこと。

1.兼業禁止の意味

 従業員は、労働契約を締結したことにより使用者に対し労務提供義務を負っています。また、もし同業他社等の競合企業で就労することになれば、情報漏えいの問題や会社の機密情報保護の観点における問題も発生します。よって、一定の兼業が禁止されるのは当然です。 しかし、一方において、従業員が所定労働時間外や休日をどのように利用するかについて、会社が介入するのは望ましいことではありません。特にパートタイム労働者のように勤務時間や勤務日数が少ない者に対しては兼業の禁止は慎重に取り扱わなければなりません。

 会社としては、兼業先の勤務内容によっては、自社の労務提供の質と量に影響が及ぶ場合もありますので、一定の合理的な範囲内で、兼業を許可するなどの制約を設けることが考えられます。兼業により、会社への労務の提供に支障が生じる場合や同業他社等の競合企業で就労する場合に適用される条文ということになります。

2.ワークシェアリングや賃金引下げ時における兼業

 最近は、会社の経営状況が厳しくなる中で、従業員に対してワークシェアリングや賃金引き下げ、賞与の支給減額などが行われています。このような場合には、会社側から、家計の補助のために積極的に兼業を奨めるケースも出てきているようです。

3.その他の検討事項

  • ・兼業の範囲をどこまで規制するか。他の会社のパートやアルバイト、請負業務などすべての兼業を原則禁止とするか、条件を付けて一部を認めるのか等の検討
  • ・従業員としての身分のみならず、「自ら事業を営むことや講演及び執筆等の活動」をどのように取り扱うかの検討
  • ・規定例にある「会社の利益に反するような業務」の具体的な説明を就業規則に記載するかどうかの検討
  • ・就業規則違反となった場合に、解雇や懲戒処分の規定とどのように関連づけるかの検討

関連する法令・判例など

  • ・労働基準法第104条(監督機関に対する申告)
  • 憲法第22条第1項(職業選択の自由等)
  • ・小川建設事件:東京地裁決定昭和57.11.19(就業時間外に風俗店で無断勤務し解雇処分)
  • ・橋元運輸事件:名古屋地裁判決昭和47.4.28(競合会社の取締役に就任し懲戒解雇)

作成のポイント●13 競業避止義務

【規定例】

  • 第25条(競業避止義務)
    • 従業員は、退職後、半年間は、東京及び隣接県の同業他社に転職又は同業にて開業してはならない。ただし、従業員の範囲は、課長以上の役職者とする。

1.競業避止義務の意味

 競業避止義務とは、退職した従業員に、競合する同業他社への就職や競合会社を設立させないように義務を課すことです。従業員がこの義務を守らなかった場合、会社は退職金の減額や不支給、損害賠償請求、差止請求を行うことがあります。

 雇用の流動化により、従業員が自社のノウハウを持ったまま独立したり、同業他社に転職するケースが、以前より多くみられるようになりました。従業員は、その会社を退職すれば同業他社に転職するのは基本的には自由です。憲法でも「職業選択の自由」を保障しています。しかし、そのことにより会社が不利益を被る可能性もあります。

 最近では、就業規則にこの競業避止義務を盛り込む企業が多くなってきていますが、就業規則は就業中に効果を発するものであり、退職後は効力がありませんので、判例では、競業避止義務を課するには、特約(特別な契約)が必要としています。最小限度で、合理的なものであれば、従業員と特約を結び、かつ就業規則等に規定をおくことにより無用な紛争を避けることができます。

2.就業規則にどのように記載したらよいか

 具体的な記載内容及び特約の内容については、競業避止の期間や地域、対象者、職種の範囲、会社の利益(企業秘密の保護)と従業員の不利益(転職、再就職の不自由)とのバランス、企業秘密の内容や程度、社会的利害などを考慮して定めることになります。

3.損害賠償責任

 退職した従業員が会社の顧客を大量に奪ったり、従業員を大がかりに引き抜いたりするなどの背信行為は特約に基づくことなく、不法行為として損害賠償責任を負うことになります。会社は、不法行為として訴えることができますので、就業規則等の特約は不要となります。

関連する法令・判例など

  • ・憲法第22条第1項(職業選択の自由等)
  • ・東京リーガルマインド事件:東京地裁判決平成7.10.16(退職後の競業避止義務の争い)
  • ・フォセコ・ジャパン・リミテッド事件:奈良地裁判決昭和45.10.23(競業避止義務の合理性の判断)

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