第10章 表彰及び懲戒
<本章の規定>
「表彰」は、職場秩序を維持し他の従業員の模範となる者や企業に積極的に貢献した者を賞賛する制度です。
他方「懲戒」は企業秩序や職場規律を維持するため、それに違反した者に対して課する秩序罰の制度で、「制裁」とも言い、不利益措置を伴います。
表彰及び懲戒に関する事項は、就業規則の相対的必要記載事項とされ、これらの事項を定めるにあたっては、「その種類及び程度に関する事項」として、その①対象事由、②種類及び程度、③手続きについて具体的に記載しなければなりません。
なお、懲戒に関する事項を定める場合には、法令又は公序良俗(民法第90条)に反するものであってはなりません。
また、労働契約法第15条によると、使用者が労働者を懲戒することができる場合であっても、その懲戒が「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合」には権利の濫用にあたるものとして無効となります。したがって、懲戒権を行使するにあたっては、労働者の行為の性質及び態様その他の事情を十分に考慮しなければなりません。
作成のポイント●42 懲戒の種類及び程度
【規定例】
第60条(懲戒の種類及び程度)
懲戒の種類及び程度は、次の各号のとおりとする。
(1) けん責:始末書をとり将来を戒める。
(2) 減給:将来を戒め、賃金を減額する。ただし、1回の額が平均賃金の1日分の半額とし、総額が1箇月の給与総額の10分の1を限度とする。
(3) 出勤停止:7日を限度として、出勤を停止し、その間の賃金は支給しない。
(4) 降格:職位を解任若しくは下位等級へ降格する。
(5) 懲戒解雇:即時解雇する。ただし、所轄労働基準監督署長の認定を受けたときは、第56条第2項に定める解雇予告手当を支給しない。
1.懲戒の種類及び程度
懲戒の種類には、その軽い順から「けん責」、「減給」、「出勤停止」、「昇給の一時停止」、「降格・降給」、「諭旨解雇」、「懲戒解雇」などがあります。その種類及び程度に応じて、懲戒事由を具体的に定めておかなければなりません。規定に定めのない懲戒処分は行うことはできません。
* ①〈けん責〉
②〈減給〉
減給は、賃金の減額を伴う処分であり、
労働基準法第91条の制限を受け「1回の額が平均賃金の1日分の半額を超え、総額が一賃金支払期における賃金の総額の10分の1を超えてはならない」とされています。したがって、規定例のように「1箇月の給与総額の10分の1を限度」と定めるより、「一賃金支払期間における賃金総額の10分の1(又は10分の1を限度)」と、より明確に定めるべきです。なお、一賃金支払期間に対象となる事案が複数ある場合でも、減給額の合計は、一賃金支払期間の賃金総額の10分の1が限度です。その点を明確にするためにも「複数事案がある場合であっても減給の総額が当該賃金支払期間における賃金総額の10分の1を超えないものとする」と定める方が適当でしょう。
③〈出勤停止〉
出勤停止は、一定期間につき出勤停止を命ずる処分で、その間は無給とする処分です。前述の減給が就労しながらその受けるべき賃金を減ずるものであるのに対して、出勤停止による賃金の減少は、ノーワーク・ノーペイの結果ですので、労働基準法第91条の適用は受けません。
出勤停止の期間については法律上の規制はありませんが、生活の糧となる収入の道を閉ざすものです。したがって、規律違反行為の情状等の均衡を考慮し、公序良俗(
民法第90条)に反しない範囲に制限すべきでしょう。一般には7日から10日の期間で定めることが多く、最長でも30日程度が限度であり適切でしょう。
⑦〈懲戒解雇〉
懲戒解雇は、制裁のうちで最も重い処分であり、解雇予告することなく、即時解雇するというものです。したがって、懲戒解雇=即時解雇は、
労働基準法第20条第1項ただし書による「労働者の責めに帰すべき事由」に該当し、予めその事由について労働基準監督署長の認定を受けることを条件に解雇予告又は解雇予告手当の支払いを除外しています。規定を定める場合も、「即時解雇する」などと規定するだけでは不十分であり、「予告期間を設けることなく即時解雇する。ただし、所轄労働基準監督署長の認定を受けた場合には解雇予告手当を支給しない」のように除外認定についても規定すべきです。
なお、労働基準監督署長の認定は、その事由について、解雇予告又は解雇予告の支払の除外を認めるか否かの「認定」であり、懲戒解雇に相当するか否かの認定ではありません。したがって、規定するにあたって「懲戒解雇は所轄労働基準監督署長の認定を受けた上で即時解雇として行う」のように、除外認定を要件とするような定め方をする必要はありません。このような定め方をしてしまうと、懲戒解雇に該当する事由があっても、労働基準監督署長の認定を受けなければ懲戒解雇できないことになります。
また、退職金制度がある場合において、懲戒解雇のときは不支給とするのが一般的ですが、除外認定を懲戒解雇要件とするような定め方をすると認定を受けられないときは退職金の全部又は一部を支払わなければならないことになります。除外認定と懲戒解雇の有効・無効は別であることを前提とした規定とするように注意しなければなりません。
2.始末書の提出の規定
規定例では、第一号(けん責)に「始末書をとり将来を戒める」と定めています。
始末書は、解雇を争った場合の立証資料の一つとなるものです。しかし、記載・提出義務を課すにあたっては、個人の意思の自由を最大限に尊重し、それを強要しないように注意しなければなりません。
判例の多くは、「始末書は自己の誤りを陳謝し、再び同様な職場規律違反を犯さないことを確約する趣旨のものであり、…始末書の提出自体、本人の意志に基づくほかない行為であって、個人の意志の自由を尊重する現行法の精神から言って、始末書の提出をあくまで強行するような解釈は妥当ではない」としています。
しかし、事案の経過報告を求める「顛末書」として文書の提出を求めるのであれば業務命令として提出させることも差し支えないとした判決があります。
これらのことを踏まえれば、反省や謝罪の意を表明させるだけの始末書の提出は業務命令とすることはできませんが、事実の経緯とその顛末の報告を記載させることを主にして、加えて謝罪や反省の意を記させる程度のものを提出させるようにすればよいでしょう。
ただし、この場合でも、始末書の提出を義務付ける根拠として、どのような場合にこの始末書を提出しなければならないのか等を就業規則に定めておくことが必要です。規定例では、第一号のみにその旨を定めていますが、懲戒のうち諭旨解雇及び懲戒解雇以外の懲戒についても「始末書を取り将来を戒め・・・」という規定文を加えることも検討すべきです。
3.懲戒処分の運用
実際に懲戒事由に該当する事実が発生し、懲戒処分を行う場合には、懲戒処分の運用ルールとして、次のことに注意しなければなりません。
| ①明確性 | 懲戒処分の種類、事由、程度等が就業規則に定められ、周知されていること |
| ②平等待遇 | 違背行為の種類及び程度が同じ事案に対しては、同一の種類・程度の懲戒処分とし均衡を失しないようにすること |
| ③相当性 | 違背行為の種類及び程度と懲戒処分の種類及び程度が相当であり、均衡を失したものでないこと |
| ④不遡及 | 違背行為のあった後に懲戒規定を定め、遡ってその行為に対する処分を行うものでないこと |
| ⑤適正手続 | 懲戒処分を発動するにあたって、本人に弁明の機会(賞罰委員会・懲罰委員会の諮問、労働組合との事前協議等)を与えるなど適正な手続をとること |
前述したように、労働契約法第15条では「使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする」と定めています。この懲戒処分の有効・無効を判断するうえで、重要なのが上記の運用ルールです。
このほか、罪刑法定主義に基づき、一事不再理(同一の事案に対して、二重の懲戒処分をすることの禁止)、連座制の禁止(懲戒処分は、あくまでも個人の故意または過失が前提となるため、その対象は懲戒事由に該当する行為を行った本人に限ること)に注意しなければなりません。
4.その他の検討事項
・懲戒としての減給処分を月例給与からではなく賞与から行う規定の記載を検討
・懲戒として昇給停止する場合の規定の記載を検討
・懲戒として降職させる場合の規定の記載を検討
・懲戒処分として複数の懲戒を併科する場合の規定の記載を検討
・懲戒処分をするか否かの事前調査として自宅待機させる規定の記載の検討
・懲戒処分を受けた労働者の上位職位の責任を追及する規定の記載の検討
・懲戒の軽減・免除について定める規定の記載の検討
・懲戒されたことをもって退職金の一部又は全部を不支給とする規定の記載の検討
関係する判例・法令など
・労働基準法第20条(解雇の予告)、同法第89条(就業規則の作成・変更)、同法第91条(制裁規定の制限)
・行政通知:昭和23.7.3基収2177号(減給の制裁と出勤停止に伴う賃金不支給)、昭和63.3.14基発150号(賞与からの減給処分)、昭和37.9.6基発917号(昇給停止の制裁)、昭和26.3.14基収518号(制裁としての格下げによる賃金の低下)、昭和37.9.6基発917号(降給)
・労働契約法第15条(懲戒)
・民法第90条
・ダイハツ工業事件:最高裁第二小法廷判決昭和58.9.16(懲戒に関する権利濫用の法理)
・グラバス事件:東京地裁判決平成16.12.17(懲戒解雇と除外認定)
・阪本紡績事件:大阪地裁判決昭和59.12.26(始末書の不提出による出勤停止処分)
・福知山信用金庫事件:大阪高裁判決昭和53.10.27(始末書の不提出を理由とした懲戒解雇は懲戒権の濫用)
・近鉄タクシー事件:大阪地裁判決昭和38.2.22、平和自動車事件:東京地裁判決平成10.2.6(懲戒処分の一事不再理)
作成のポイント●43 けん責、減給の制裁、出勤停止、降格の事由
1.懲戒事由
一般に行われる懲戒事由となるのは、企業秩序及び職場規律を違反するする行為です。大別すると①職務怠慢行為、②業務命令・服務規律遵守等に対する違反行為、③施設管理等に関する違反行為、④会社に対して経営上又は社会的に損害を与えた行為、⑤就業時間外・業務外の行為であっても会社及び会社関係者に影響を与える行為(企業外非違行為)などがあり、その実態に応じて具体的に定めます。
①職務怠慢行為…無断欠勤、無断外出、遅刻、早退、勤務中の職場離脱行為等
②業務命令等・服務規律遵守等に対する違反行為
業務上の報告懈怠・違反、出張命令、配置転換、職種変更、転勤命令、出向命令違反、安全又は衛生規定違反等、セクシュアルハラスメント、パワーハラスメント該当行為、政治活動・宗教活動等原則禁止、演説・集会、文書配布の事前許可違反、兼業禁止又は事前許可制の違反行為、会社諸規定違反行為等
③施設管理等に関する違反行為…会社の施設、什器備品等への損壊行為等
④会社に対する損害行為…機密漏えい禁止行為、コンピューター・携帯電話の不正目的使用禁止違反行為等
⑤企業外非違行為…私生活上の非行及び刑事事件等による会社の名誉・信用毀損行為等
判例の多くは、懲戒事由に関して限定列挙したものとする傾向にあることは既に述べたとおりです。したがって、懲戒事由を定めるときは、上記のような内容を具体的に規定文として記述し、さらに必ず包括規定として規定例第五号のように包括規定を定めて、列挙した具体的な懲戒事由以外のものも包括的に定める条項を規定しておくべきです。
2.その他の検討事項
作成のポイント●44 諭旨解雇及び懲戒解雇の事由
1.懲戒解雇事由と包括規定
懲戒解雇は、最も重い処分であり、秩序罰として即時解雇を原則とするものなので、普通解雇とは違い、その事由を定めるにはより具体的に列挙しなければなりません。
しかし、〈作成のポイント44〉の懲戒事由の全てを列挙して就業規則に定めるには限界があります。したがって、規定例第十五号にあるように包括規定を定める必要があることは、普通解雇の場合と同様です。
また、懲戒処分は、通常、従業員に対して段階的に一定の不利益を課して強制的にその不当な行状を改め、職場秩序に従わせるもので、その手段がけん責、減給、出勤停止でもあるわけですが、これらの処分によってもなお改悛の見込みがなく、従業員として勤務させておくに値しないと認められる場合に行うのが懲戒解雇であるとも考えられます。
したがって、懲戒解雇を定める場合には、「ただし、情状酌量の事情あるいは改悛の情が明らかに認められるときは、より軽微な処分にとどめることがある」と定めることもあります。
2.懲戒解雇事由の変化
懲戒解雇の事由の変化をみると、新たな社会情勢を反映したものとして次のようなものがあります。
(2)セクシュアルハラスメント
セクシュアルハラスメント(以下、セクハラという)について、
男女雇用機会均等法では、事業主にセクハラに関して雇用管理上必要な措置を講ずべき義務を定めています。その措置義務として、どのような性的言動がどのような制裁にあたるのかを明確にする必要があるとしています。したがって、就業規則、服務規律においてセクハラを行った者について、懲戒規定を定め周知することが必要となります。規定の定め方としては、規定例のようなもののほか、「第61条第5号の事由により懲戒を受けたにもかかわらず、当該行為が再度に及んだ場合又はその情状が悪質と認められるとき」などと定めます。
関係する法令・判例など
・炭研精工事件:最高裁第一小法廷判決平成3.9.19(最終学歴詐称による懲戒解雇)
・生野製作所事件:横浜地裁川崎支部判決昭和59.3.30(職歴詐称による懲戒解雇)
-
・大阪観光バス事件:大阪地裁判決平成12.4.28(セクハラによる懲戒解雇)
・古河鉱業足尾製作所事件:東京高裁判決昭和55.2.18(秘密保持義務違反による懲戒解雇)
・メリルリンチ・インベストメント・マネージャー事件:東京地裁判決平成15.9.17(秘密保持義務違反と懲戒解雇無効)
・京王帝都電鉄事件:東京地裁判決昭和61.3.7(勤務時間外の飲酒運転による懲戒解雇)
作成のポイント●45 損害賠償
1.従業員の損害賠償責任とその制限
労働基準法第16条では、使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償を予定する契約をしてはならないことになってはいますが、使用者が、現実に生じた損害について賠償を請求することを禁止しているものではありません。
したがって、従業員が故意又は過失により会社に損害を与えた場合、民法の一般原則に基づき、会社に対し、債務不履行又は不法行為による損害賠償責任を負うことになります。
ただし、判例等によれば、従業員が第三者に損害を与えた場合も含めて、その損害が、従業員の不注意、つまり職務遂行上の過失によって生じた場合に、従業員に一方的に責任を負わせるのは公平を欠く場合もあるとされ、労働者の責任が制限されるものとしています。規定を定めるにあたっては、これらのことを考慮し、例えば「従業員が故意又は過失により会社に損害を与えた場合には、損害を賠償させる。ただし、過失がある場合には事情により損害賠償を減免することができる」などと定めるべきでしょう。
なお、横領、窃盗、背任等の故意に基づく行為によって会社に損害を発生させた事案については、労働者の責任が制限されることはありません。
2.損害賠償と懲戒解雇
従業員が、労働契約の不履行又は不法行為に対して損害賠償をしたからと言って懲戒処分を免除されるわけではなく、また懲戒処分を受けたことをもって損害賠償責任を免れるわけでもありません。懲戒と損害賠償の問題は別です。
したがって、この点を明確にするには、規定例のように「従業員は、懲戒されたことをもって損害賠償を免れることはできない」などと追記し、制裁罰としての懲戒処分と損害賠償義務は別であることを明確にしておくべきでしょう。
3.その他の検討事項
関係する法令・判例など
・労働基準法第16条(賠償予定の禁止)
・行政通知:昭和22.9.13発基17号(賠償予定の禁止)
-
・茨城石炭商事事件:最高裁第一小法廷判決昭和51.7.8(労働者の第三者に対する損害賠償責任の範囲)
・大隈鐵工所事件:名古屋地裁判決昭和62.7.27(労働契約の債務不履行による損害賠償)
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