会社が従業員を採用するときには「労働契約」の締結が必要になります。この労働契約を締結するにあたり、実際のところ労働者と使用者では、交渉力に差があります。また、契約を口頭で行いますと契約内容が大変不明確になり、誤解も生じやすくなります。
これについて、労働契約法は、
などの規定を定めて、契約内容を相互に確認することにより誤解を減少させ、労使が相互理解の上で労働者が安心・納得して就労できるようにしています。
労働契約は、期間の定めのないものを除き、一定の事業の完了に必要な期間を定めるもののほかは、3年(高度の専門的知識等を有する者や満60歳以上の労働者との間に締結される労働契約にあっては5年)を超える期間について締結してはならないことになっています。(労基法第14条)
なお、「高度の専門的知識等を有する者」とは、博士の学位を有する者や公認会計士、医師、一級建築士などの国家資格者などとされています(平成15.10.22厚労告356号)。
期間の定めのある労働契約(一定の事業の完了に必要な期間を定めるものを除き、その期間が1年を超えるものに限る。)を締結した労働者は、当分の間、民法第628条(当事者の一方的な過失による契約の解除は相手方に損害賠償の責任が生ずる)の規定にかかわらず、当該労働契約の期間の初日から1年を経過した日以後においては、その使用者に申し出ることにより、いつでも退職することができます(労基法第137条)。
労働条件の明示にあたり、労働基準法(第15条第1項、労基則第5条第1項)では、一定の項目を限定して、「必ず書面により明示しなければならない」と規定していますが労働契約法(第4条第2項)では労働基準法で明示が義務づけられている以外の事項も含めて「できる限り書面により確認するもの」と規定しています。
なお、書面交付による明示は、当然のことですが正社員のみならず、パートタイマーやアルバイト、嘱託社員、そして有期労働契約(期間の定めのある労働契約)の社員などに対しても必要になります。特に、有期労働契約者は、労働契約が締結される際に、期間満了時において、更新の有無や更新の判断基準等があいまいであるために個別労働関係紛争が生じていることが少なくないことから、期間の定めのある労働契約について、そのような更新の有無や更新の判断基準等の内容をできる限り書面により確認することが大切です。
(必ず明示しなければならない事項。かつ、④の昇給に関する事項を除いて、必ず書面で明示しなければならない。)
(定めをする場合に明示しなければならない事項)
労働契約法(第7条本文)では、「労働者及び使用者が労働契約を締結する場合において、使用者が合理的な労働条件が定められている就業規則を労働者に周知させていた場合には、労働契約の内容は、その就業規則で定める労働条件によるものとする。」としており、労働契約が成立する場面における労働契約と就業規則との法的関係について規定しています。
これは、労働契約において、労働条件を詳細に定めずに労働者が就職した場合において、「合理的な労働条件が定められている就業規則」であること及び「就業規則を労働者に周知させていた」ことという要件を満たしている場合には、就業規則で定める労働条件が労働契約の内容を補充し、「労働契約の内容は、その就業規則で定める労働条件による」という法的効果が生じることを規定したものです。
なお、この条文の「就業規則」には、労働基準法第89条では作成が義務付けられていない常時10人未満の労働者を使用する使用者が作成する就業規則も含まれるものと解されています。また、周知の方法は、労働基準法施行規則第52条の2により定められた3つの方法(後述)に限定されず、実質的に判断されるものと解されています。
そして、労働契約法第7条(ただし書)では、「ただし、労働契約において、労働者及び使用者が就業規則の内容と異なる労働条件を合意していた部分については、第12条(就業規則違反の労働契約)に該当する場合を除き、この限りでない。」として、法的効果が生じるのは、労働契約において詳細に定められていない部分についてであり、「就業規則の内容と異なる労働条件」を合意していた部分については、就業規則の条件を下回るものを除き、その合意が優先するものであることを確認した内容となっています。
<労働条件通知書(サンプル)>
労働契約は、労働者と使用者を契約の当事者とする合意ですから、当事者が合意すれば変更が可能であるのが原則です(労働契約法第8条)。よって、使用者は、労働者と合意することなく一方的に就業規則の変更により労働者に不利益な変更ができないことになります(労働契約法第9条)。
ただし、就業規則の変更によって労働条件を変更する場合には、その変更が合理的であること、労働者に変更後の就業規則を周知させることが必要になります。合理的であることについては労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情を考慮して、その変更の合理性を判断します。
しかし、この就業規則の変更による労働条件の変更も、労働契約において、労働者及び使用者が就業規則の変更によっては変更されない労働条件として合意していた部分については、下記の(2)(労働契約法第12条)に該当する場合を除き、変更されないことになっています(労働契約法第10条)。
この場合の「就業規則の変更によっては変更されない労働条件として合意していた部分」とは、①就業規則の定めとは異なる労働条件について個別に合意している場合(特約があった場合)のほか、②たまたま就業規則に定める労働条件と同じ内容であったとしても、就業規則の変更によっては労働条件を変更しない旨の合意をしていると認められる場合も含むものと解されます。
さて、使用者が一方的に労働条件を変更したことに対して、労働者が特に異議を述べなかった場合にはどうなるのでしょうか。例えば、使用者が賃金を引下げて支給したのに対して、労働者が異議を述べずに受け取っていた場合です。労働者の黙示の同意があったものと認められるでしょうか。裁判例では、自由意思に基づく同意があれば賃金引下げは有効になるとしていますが、単に数箇月の間異議を述べずに賃金を受け取ったということだけでは、黙示の同意があったとはいえないとした判断があります。
労働契約は、労働者と使用者の合意をもって、成立し、変更が可能になりますが、この場合でも、就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については、無効とされ、この場合において、無効となった部分は、就業規則で定める基準によるとされています(労働契約法第12条)。
「就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約」とは、例えば、就業規則に定められた賃金より低い賃金を定めるなど就業規則に定められた基準を下回る労働条件を内容とする労働契約をいいます。
「その部分については、無効とする」とは、就業規則で定める基準に達しない部分のみを無効とする趣旨であり、労働契約中のその他の部分は有効であることになります。
労働契約法第13条では、「就業規則が法令又は労働協約に反する場合には、当該反する部分については、同条第7条、第10条及び第12条の規定は、当該法令又は労働協約の適用を受ける労働者との間の労働契約については、適用しない。」としています。
就業規則で定める労働条件が法令又は労働協約に反している場合には、その労働条件は労働契約の内容とはならないことを規定したものです。
労働契約法では、「使用者が労働者に出向を命ずることができる場合において、当該出向の命令が、その必要性、対象労働者の選定に係る事情その他の事情に照らして、その権利を濫用したものと認められる場合には、当該命令は、無効とする。(労働契約法第14条)」と規定しています。
出向は大企業を中心に広く行われていますが、出向の権利濫用が争われた裁判例もみられ、また、出向は労務の提供先が変わることから労働者への影響も大きいと考えられることから、権利濫用に該当する出向命令による紛争を防止する必要があります。このため、労働契約法において、権利濫用に該当する出向命令の効力について規定したものです。
権利濫用であるか否かを判断するに当たっては、出向を命ずる必要性、対象労働者の選定に係る事情その他の事情が考慮される必要があります。
なお、労働契約法におけるこの条文の「出向」とは、いわゆる「在籍型出向」をいうものであり、使用者(出向元)と出向を命じられた労働者との間の労働契約関係が終了することなく、出向を命じられた労働者が出向先に使用されて労働に従事することをいうものです。
「使用者が労働者に出向を命ずることができる場合において」とは、労働契約を締結することにより直ちに使用者が出向を命ずることができるものではなく、どのような場合に使用者が出向を命ずることができるのかについては、個別具体的な事案に応じて判断されるものの意です。
労働契約法では、「使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。(労働契約法第15条)」と規定しています。
懲戒は、使用者が企業秩序を維持し、企業の円滑な運営を図るために行われるものですが、懲戒の権利濫用が争われた裁判例もみられます。また、懲戒は労働者に労働契約上の不利益を生じさせるものであり、権利濫用に該当する懲戒による紛争を防止する必要があることから、権利濫用に該当するものとして無効となる懲戒の効力について規定したものです。
本条文は、使用者が労働者を懲戒することができる場合であっても、その懲戒が「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合」には権利濫用に該当するものとして無効となることを明らかにするとともに、権利濫用であるか否かを判断するに当たっては、労働者の行為の性質及び態様その他の事情が考慮されることを規定したものであることを定めています。
なお、「懲戒」とは、労働基準法第89条第9号の「制裁」と同義であり、同条により、当該事業場に懲戒の定めがある場合には、その種類及び程度について就業規則に記載することが義務付けられている項目です。
労働契約法では、「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。(労働契約法第16条)」と規定しています。
解雇は、労働者に与える影響が大きく、解雇に関する紛争も増大していることから、解雇に関するルールをあらかじめ明らかにすることにより、解雇に際して発生する紛争を防止し、その解決を図る必要があるとし、権利濫用に該当する解雇の効力について規定したものです。 本条文は、最高裁判例で確立しているいわゆる解雇権濫用法理を規定し、解雇が「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合」には、権利濫用に該当するものとして無効となることを明らかにしたものです。
「解雇権濫用の評価の前提となる事実のうち、圧倒的に多くのものについて使用者側に主張立証責任を負わせている現在の裁判実務を何ら変更することなく最高裁判所判決で確立した解雇権濫用法理を法律上明定したもの」であり、「最高裁判所で確立した解雇権濫用法理とこれに基づく民事裁判実務の通例に則して作成されたものであることを踏まえ、解雇権濫用の評価の前提となる事実のうち圧倒的に多くのものについて使用者側に主張立証責任を負わせている現在の裁判上の実務を変更するものではない」ことが立法者の意思であることが明らかにされています。
解雇の事由については、就業規則の絶対的必要記載事項(就業規則に必ず記載しなければならない事項)です。就業規則記載の解雇事由については、懲戒解雇事由は「限定列挙」、普通解雇事由は「例示列挙」と考えるのが一般的です。
いずれの考え方をとったとしても、就業規則条項の合理的解釈が問われることになります。また、普通解雇事由には、包括的(抽象的)事由が記載されているのが一般的ですから、直接に該当する事由がない場合にはこの包括的事由を用いることになります。
労働基準法では、解雇に関する手続を規定しています。
労働者を解雇する場合は、解雇予告が不要な労働者(労基法第21条)を除いて、30日以上前に予告して解雇するか、又は平均賃金の30日分以上の賃金を支払わなければなりません。なお、予告期間を短縮する場合には、短縮した日数1日につき平均賃金の1日分を予告手当として支払います(労基法第20条)。
解雇制限がかかっている労働者については、一定の例外を除いて解雇できませんので注意が必要です(労基法第19条第1項)。
前記②の解雇制限期間であっても、例外として解雇できる場合があります(労基法第19条第1項ただし書)。
また、妊娠中・産後1年以内の解雇は「妊娠・出産・産前産後休業取得等による解雇でないこと」を事業主が証明しない限り無効となります(均等法第9条第4項)
労働契約法では、「使用者は、期間の定めのある労働契約について、やむを得ない事由がある場合でなければ、その契約期間が満了するまでの間において、労働者を解雇することができない。(労働契約法第17条第1項)」と規定しています。
有期契約労働者の実態をみると、契約期間中の雇用保障を期待している者が多くみられます。この契約期間中の雇用保障に関しては、民法第628条において、「当事者が雇用の期間を定めた場合であっても、やむを得ない事由があるときは、各当事者は、直ちに契約の解除をすることができる」ことが規定されていますが、「やむを得ない事由があるとき」に該当しない場合の取扱いについては、同条の規定からは明らかではありません。このため、労働契約法第17条第1項において、「やむを得ない事由があるとき」に該当しない場合は解雇することができないことを明らかにしたものです。
「やむを得ない事由」があるか否かは、個別具体的な事案に応じて判断されるものですが、契約期間は労働者及び使用者が合意により決定したものであり、遵守されるべきものであることから、「やむを得ない事由」があると認められる場合は、解雇権濫用法理における「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当である」と認められる場合よりも狭いと解されています。
また、「使用者は、期間の定めのある労働契約について、その労働契約により労働者を使用する目的に照らして、必要以上に短い期間を定めることにより、その労働契約を反復して更新することのないよう配慮しなければならない。(労働契約法第17条第2項)」としています。
使用者が有期労働契約により労働者を使用する目的は、臨時的・一時的な業務の増加に対応するもの、一定期間を要する事業の完成のためのもの等様々ですが、この条文は、必要以上に短い契約期間を設定し、その契約を反復して更新しないよう使用者は配慮しなければならないことを明らかにしたものです。
例えば、ある労働者について、使用者が一定の期間にわたり使用しようとする場合には、その一定の期間において、より短期の有期労働契約を反復更新するのではなく、その一定の期間を契約期間とする有期労働契約を締結するよう配慮しなければならないとしたものです。
具体的には、1年間の就労が必要と見込まれるプロジェクト業務につき有期労働契約を締結する場合、使用者は1箇月間の契約を11回にわたり反復更新するのではなく、1年間の契約期間を設定するように配慮を促したものです。なお、「必要以上に短い期間」に該当するか否かは、個別具体的な事案に応じて判断されるものであり、契約期間を特定の長さ以上の期間とすることまでを求めているものではありません。
(平成15.10.22厚労告357号)
労働基準法第14条(契約期間等)に基づいて、有期労働契約の締結に対して、使用者が守るべき以下の基準が定められています。
「更新の有無」及び「判断の基準」を有期労働契約で明示しておくことによって、有期労働契約を締結する労働者が、契約期間満了後の自らの雇用継続の可能性について一定程度予見することが可能となります。
これらの事項は、「雇止めの理由」と共に、就業規則にも記載しておくことが必要です。
有期労働契約を数回にわたって更新すると、労働者としては、次回も当然更新されるだろうと期待をしますから、この期待感を裏切らないように契約更新の管理をすることが求められます。重ねて、使用者が判断した雇止めが「解雇権濫用法理」の類推適用となる場合があることも考慮して対応することが必要です。
「雇止め」は、解雇を意味するものではありませんが、有期労働契約者であっても当該雇止めについて、解雇権濫用法理が類推適用される場合があります。
期間を定めて労働契約を結んでいても、期間の定めのない労働契約と同視することが社会通念上相当とされる場合があります。判断にあたって考慮する事項は次のとおりです。(平成19.10.1基発1001016号)
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