社員を緊急で深夜に呼び出した場合、往復の通勤にかかった時間について賃金を支払う必要はありますか

 社員を緊急で深夜に呼び出して労働させた場合、通勤にかかった時間に対して賃金を支払う必要はありますか。

 また、賃金の支払いが必要な場合、その時間について時間外・深夜労働として割増賃金を支払う必要がありますか。

上記「社員を緊急で深夜に呼び出した場合、往復の通勤にかかった時間について賃金を支払う必要はありますか」に対する回答

 緊急呼び出し等の出勤に要する時間は、実態として、通常の通勤時間と同一の性質と考えられますので、労働時間には算入されません。

 「通勤時間」とは、労働者の住居から自己の業務の場所までの往復の時間をいいます。

 この時間は、使用者の拘束下に入る前の労働者の自由時間であり、その間、どのような通勤方法で、いかなる行為をしようとも、始業時刻までに会社に出勤しさえすればよい時間であるため、使用者の指揮監督に服している時間とはいえません。

 この「通勤時間」について、民法では、原則として「弁済ハ債権者ノ現時ノ住所ニ於テ之ヲ為スコトヲ要ス」(同法第484条)としており、労働者が会社に出勤する時間は、この債務弁済のための持参時間ということになります。

 つまり、通勤は、債務者である労働者が債権者である使用者に労働契約上の債務である労働力の給付を持参するための行為であり、その通勤にかかる時間(持参時間)は、労働者(債務者)の負担に属する時間であり、使用者(債権者)に売り渡している時間とみることはできません。

 したがって、「通勤時間」は労働の時間には含まれませんので、賃金を支払う必要はありません。

 ご質問のケースについて見てみますと、突発ないし緊急用務のため使用者から呼び出しを受け、出勤を命ぜられて出勤する場合の通勤は、通常の債務の履行としての出勤ではなく、使用者の特命による出勤(労働基準法第33条の非常災害の場合に準ずる場合)であるため、自宅を出たときからが特命用務のために供された時間であると解することができます。

 しかし、この特命による出勤にかかる時間を労働時間に算入するべきかどうかという点については、裁判例では「労働者が日常の出勤に費やす時間と同一性質であると考えられるから、右所要時間は労働時間に算入されず、したがってまた時間外労働の問題は起こり得ないと解するのが相当である」(昭49.1.26横浜地裁川崎支部「日本工業検査時間外手当請求事件」)としています。

 つまり、緊急呼び出し等の出勤にかかる時間は、実態として、一定の時刻までに会社に到着すればよい通勤時間と同じであり、その時間帯が通常の時間帯と異なっているに過ぎないものであるため、労働基準法上は通常の通勤時間と同一のものとして労働時間には該当しないものと解されるわけです。

 したがって、賃金の支払いは不要であり、当然、時間外割増賃金の問題も起こりません。

 なお、労災保険法では、このような緊急の呼び出しによる出勤の途上で災害に遭った場合には、通勤災害ではなく、業務上災害として取扱うこととしています(基収第3375号参照)。

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